表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
注:オレは人のココロを操る能力を持ったゾンビですが、人体に有害でも無害でもありません  作者: 私物
プロローグ すべての願いを叶えるキセキは、真逆で矛盾にできている
3/65

第一話 黒蓮は雪より出でて雪に染まらず・2

俺は目を疑った。


リオの真っ白な髪も、リュックも、ワンピースも――無傷のまま。


……なぜだ?


ブラック・ロータスの攻撃を受けていない? いや、それどころか、周囲のリビングデッドだけが、まるで散弾銃を浴びたように穴だらけにされていた。


あの変異種は、器用にリオだけを狙いから外したのか?


――それとも。


西陽がまぶしく照らす広場の先、大きなビルの影に、通常種の群れが密集している。


その光景を背にして、リオは突然足を止め、くるりと振り返った。


「……これ、君がやってくれたの?」


「……んだ……」


リオは、大きな瞳で変異種を見つめ――静かに、**「ありがとう」**と呟いた。


「リオッ! 早くそいつから離れろ! ……早くッ!!」


俺が叫ぶ。


だが、リオはまばたきもせず、何かを真剣に考えているようだった。


一方で、ブラック・ロータスはよたよたと歩を進めながら、低く呪文を唱えている。


「……ほーが……ほう、が……」


このままでは、まずい。


――今ならまだ間に合う!


俺は敵の背後を取り、ナイフを抜いた。


一撃で首を――。


――ぐにゅっ!


「ッ!?」


ナイフが食い込まない。


いや、それどころか、ゴム製の玩具にでも刺したような感覚だ。


手応えが、まるでない。


銃は効かない。ナイフも通じない。


だったら、こいつの首を絞め殺すしか――


「ニイサン、勘違いしてるよ。」


リオが、穏やかに言った。


「この子は僕たちを助けようとしてくれたんだ。ちょっとお話したいし……待っててくれるかな」


「……っ!?」


対話……? まさか、こいつと!?


――そんな考えには、絶対に賛成できない。


何を考えているのか、何を企んでいるのか――リビングデッドの思考は、理解できなくていい。


……たとえ、恩知らずと言われようと。


そう思った瞬間、頭の中に「米沢」の声が響いた。


『――その約束を守れるんだったら、俺がお前に貸してやるよ。』


その言葉を思い出した瞬間、俺の身体が命令に縛られた。


ナイフが手から滑り落ち、口が勝手に動く。


「……わ、かった……君の命令に、従う……」


――カランッ。


ナイフが乾いた音を立てて、地面に転がった。


俺の身体は、その場で硬直する。


だが――目の前の光景は、生きた心地がしないものだった。


ブラック・ロータスが、リオの目の前まで歩み寄る。


そして、ポケットから何かを取り出し――おずおずと差し出した。


それは、鈍く錆びた金属片の束。


――ドッグタグだ。


リオは目を輝かせる。


「わあっ……! このドッグタグ、ぜーんぶ君が集めたの?」


「んだ」


「すっごい数だよ! ねえねえ、どうやって集めたの?」


「……」


その瞬間――。


ブラック・ロータスは、手のひらを返すように、ドッグタグをポケットにしまい込んだ。


「……んだ、ほーが……しんだ……ほうが……!」


その声が、途端に深い恨みに染まる。


「死んだ方が! 死んだ方が! 死んだ方が!!」


――ッ!!


ブラック・ロータスは、苛立たしげに頭から花弁を引き千切ると、黒い血の塊を捏ねるように変形させ――。


それは、鋭い短剣へと姿を変えた。


「…………………………ッ!」


ヤバい。


このまま黙って見ているわけにはいかない。


だが、俺は動けない。


「対話が終わるまで行動を禁ずる」


――その命令が、まだ効いている。


だが、リオは。


まばたきもせず、ひたむきにブラック・ロータスを見つめている。


「君……すごいよ! そのドッグタグを集めるセンス、まるで芝ニイみたい! ねえ、お願いっ!」


リオは、熱烈な尊敬の眼差しで、手を合わせた。


「もし君さえよければ、僕と一緒に仕事しない?」


「……」


「だって、これって運命だよ! 実は僕、『消息代理人』なんだ!」


その言葉を聞いた途端――。


ブラック・ロータスは、大人しくなった。


まるで、目を覚ましたかのように。


「……ほーが?」


ゆらりと黒い血が収まり、沈黙が広がる。


「あっ、消息代理人ってわかる? 僕の仕事って、街から街へ旅して回って、消息をお届けすることなんだ!」


リオはそう熱弁すると、変異種の手を取った。


「だからきっと……運命の女神様が、離れ離れになってた僕たちを、今日ここで引き合わせてくれたんだよ!」


――リオは、また運命を見つけてしまった。


「ねえ、どうしてかな……君とは初めて会った気がしないんだ。」


「まるで生き別れの兄弟を見つけたみたい。」


「僕と君は、共に惹かれ合う運命だったんだ!」


俺は、その言葉を聞いて――血の気が引いた。


「……ほ……ほーが?」


ブラック・ロータスは、戸惑っているようだった。


だが、リオは切なげに眉を寄せ、ため息をつく。


「やだなあ、そんな他人行儀にそっぽ向かないで?」


「僕のことは本当のニイサンだと思って、なーんでも頼りにしていいんだからねっ!」


ブラック・ロータスの表情は、読めない。


だが――。


リオは、嬉しそうに微笑んでいた。


そして――。


俺は、それを見て、確信する。


――恐れていたことが起きた。


リオはブラック・ロータスを「オトウト」と呼び、デレデレと可愛がり始めた。


当然、俺はその様子を見守りながら――。


「はい、君の命令に従います」


――そう言ってしまった、自分に鳥肌が立った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ