キニーナの街
ここはとあるロシアの小さな街。"キニーナ"だ。
俺たちは駆け足で自分の持ち場へと移動する。あの四階建ての建物が今回の自分らのキモとなりそうだ。二階へ向かおうとしていた兵士が弾倉を落とした。俺はすぐにそれを拾い上げ、持ち主の兵士へ渡す。
「――ありがとう」
そのフードをかぶった兵士は礼だけを言うと、そそくさと階段を上っていった。背中には狙撃銃が背負われていた。
「兄弟!! こっちだ、行くぞ!!」
さて、稼ごうか。
持ち場につく、安全装置を外す、敵に照準を合わす、引き金を引く。
――これだけで人を一人、殺せるのだ。
俺はもう人を殺すことに対してなんとも思っちゃいない。
この周りの兵士たちだってそうだ。殺らなきゃ。PPがもらえない。
生きられない。人はもうこの「殺人」に依存している。
世界が、全てが「殺人」に依存している――。
人は「殺人」するために生まれ、「殺人」されることでこの世を去る。
そんな気がしていた。
「っしゃあああ!! ぶちかますぜぇ!!」
俺の横に立っていた大男は、RPGを両手持ち。どっしりと腰を据え、二発撃ちだす。
勢いよく撃ち出されたロケット弾は見事敵兵の集団に命中し、凄まじい爆音と共に、敵兵のと思われる悲鳴が上がった。
「さぁ、次だ。どんどん行くぞォ」
次弾の準備を始める。――おっとこの男に圧倒されていてはダメだ。俺も稼がないと。
少し焦りつつ引き金を引いた。ちゃんと照準が合わさってなかったからか、この男に魅せられてしまっていたからか。
自分の撃った弾は敵兵の肩をかすめ、外れた。その敵兵は身の危険に気づき、姿を隠してしまった。
そしてまた別の場所で火の手が上がる。この男はこの男なりに稼いでるようだ。
腰につけたグレネードを投げ、障害物の裏にいる敵をおびき出す。
タタタッ、タタタタタッ。
「……」
無言のまま俺は撃ち続ける。腕についたPPW(P.P.Wallet)の数字は上昇していく。このPPWは、稼いだPPを数値化できる財布のようなものである。(このPPWが破損してもPPのデータ管理はSOPチップを通してMEEDが行っているので本人が死ぬ以外はPPが消滅することはない。)
まだPPが流通してない時期は小銭や札、などがあって、それを入れる財布というものがあったらしい。
――裏に敵が行ったな、ここからじゃ狙えない。移動するか。
早足で前進し、別の建物に入る。左右を確認し、警戒しつつ奥へと進む。あらゆるものが散乱していて、下手に動くと物音を立ててしまいそうだ。
物が多いな...慎重に。
左手に階段が見える。上の部屋からはタバコの匂い。誰か居るみたいだ。
俺は足元に落ちていた缶を拾い、階段の前に転がした。
コロコロ………カラ、カラン。
「ん?」
「どうした?」
「いや何か音が下の階から」
「音? 気のせいだろ」
「一応確認する」
二人か? 一人こちらに来るようだ。一応確認するか。
このブレードは、俺が物心ついた時から身につけていたものだ。とても自分としては使いやすいので、どこの戦場にも必ず装備していく。
兵士が缶を拾い上げようとした――。
「……ッ!」
「...仲間は? 騒げば殺す」
缶に目を落としたところをすかさず捕える。
くっさ...タバコはコイツか
「う...上に...ッ 一人だ...ぐッ!」
「本当だな?」
「う、嘘はついてないぃ...命だけは」
ブレードを喉元につきたて、力なく倒れようとするその男をもう片方の手で支えた。
ゆっくりと体を地面へと寝かせ、一息つく。
(あと上に一人...)
忍び足で素早く階段を上り、しゃがんだまま扉伝いの壁にすりつき、息を殺す。
ゆっくりと扉に手をかけ、押す――。
あ、引き戸だった。引く――。
(……こんなところに、通信機が?)
逆にこんなところだから、なのだろうか。この建物の二階から通信していたようだった。いや、にしては人手薄すぎない?
通信機の前に座っている敵兵は一人。幸い扉とは逆の方を向いているので、あとはこいつが面倒じゃなければ。
「動くな」
銃を敵兵の頭につきつける。
「……ン……うぁっ!! 何だお前はっ!!」
「お前……寝ていたのか?」
よく見るとその兵士の口元にはよだれのあとのようなものがあった。……なんでこんなやつが任されているんだ? まぁいいや。
「今から俺の質問に答えろ。ここはなんだ?」
「こっ……航空支援を要請するための、通信施設ぅだッ! 俺はここでッ……本部からの支持があればいつでも要請できるように待機していた」
え?抵抗もしないのか
「待機ぃ? 寝てただけだろうが。」
「う……ううぅうるさい!! 最近寝てなかっ!!……たん…だ」
SOPの感情制御システムが働いたのか、兵士は急に落ち着いた様子を見せた。
「なるほど寝てなかった……ねぇ。 まぁいいや。仕事してもらう。」
「……わかった。」
これだけ落ち着かれるとビビってるのかどうかもわからん。嫌なシステムだなぁコレ。
「この戦場の敵の潜んでいるところ全てに航空爆撃だ。やれ。」
「わかった。手を動かしてもいいか?」
「妙な真似をしたら殺すからな」
兵士はものすごい速さでキーボードを叩き始めた。そして手が止まったかと思うと、マイクに口を近づけて言った。
「キネルだ、爆撃要請。座標北緯48度42分、東経135度12分にハリアーでよこせ。コードは――」
よし。これでこちらの勝機は目前になるだろう。しかし……
「お前……すげぇ権限持ってるんだな」
「まぁな、これ作ったの俺だし。裏切りでもPPは入るしねー。死ぬよりかマシ。」
確かに。裏切りが成立すれば勝利することでまたボーナスがもらえる。生きていればだが。
「こっち側につくのか」
「実際アンタにも誰にも恨みはない。PPもらえればそれでいいんだから」
「てかどこに通信したんだ?」
「それは言えないかなー」
「殺すぞ?」
「SOP通じてバレるよー」
「……とりあえずお前は捕虜として連れて行く。」
俺はキネルと名乗る男の腕を縛り、捕虜として自分の拠点へと連れて行くことにした。
キニーナの街は、凄まじいハリアーの爆撃音と敵の悲鳴。そして勝利の歓声で包まれた。




