おまけなお話
最後に、行方不明だった親父の話をしよう。
彼は、私が大魔王を釣った翌々日に帰って来た。
「ただいま! やっと山ぶどうがいっぱいとれたよ、ミザリア〜!」
両手で抱えた籠には、零れ落ちそうな程の紫色の身が詰まっている。
よいしょっ、とその籠の脇から顔を覗かせて、親父は食卓テーブルに座る愛妻、愛娘、見知らぬ第三者の順に視線を動かして行った。
そして赤髪の第三者のところで、がちーんと体を硬直させた。
「そそそそっそっそそそそちら様は、どちら様で……?」
その問いに答えたのは満面の笑みの母ミザリアだ。
「アイザのお婿さん候補のキース君よ。良いわよね、イケメン。眼福だわ〜」
その言葉に、「恐縮です」なんて返してるから、この元大魔王が人間の生活に順応するのは早そうだ。
そうそう。キースという名前は、本名が長過ぎたから私が適当に短くしたものだ。
「おおおおおおおおお婿、婿、むこぉっ!?」
目玉が飛び出しそうな程目を見開いた親父はそう叫んで、手の中の籠を落っことした。
ざーっと盛大に床に山ぶどうが広がった。
「ああ、我が同胞たちよ!」
慌てたのは、復活した(させた)山ぶどうの魔王だ。
ちなみにリンゴの魔王はうるさいから復活させないで居間に飾っているし、栗の魔王はうっとおしいから裏山にポイ捨てした。
「ああああああああああ! 魔王が、魔王がうちにいる!」
親父は再び叫んで、山ぶどうの魔王を捕えようと一歩踏み出した。
ああ、まったく、……踏んだところが悪かった。
ぷしゅぅっ、と気の抜ける音がして、親父の靴の下から紫色の染みが広がった。ものの見事に、ベージュのカーペットの上だ。
「あなた…………?」
低い、低い、恐ろしく低い声が母さんの口から響いた。いや、轟いた。
私は黙って元大魔王キースの腕を引いて部屋を出る。
彼は私に引っ張られるままに足を動かすが、それでも将来の姑と舅の事が気になったのだろう。
「いいのか、あれは放っておいても」
「いいのいいの。巻き添え喰いたく無ければ、さっさと退避よ」
元いた部屋から鈍い音が聞こえる。
そして、懐かしの「ぎゃー」とか「ひいー」とかいう悲鳴も。
「あ。魔王たち忘れて来た」
まあいいか、と私は肩を竦めた。
元より魔王たちにあまり感心の無いキースは、悲鳴よりも鈍い音の方が気になるらしい。
「あれが話に聞いた家庭内暴力か?」
なんて聞いて来る。
だから私は今後の教育も兼ねてこう教えてあげた。
「あれは母さんにとっての愛情の確認方法の一つだよ。間違っても真似しちゃ駄目だからね」
素直に頷くキースに満足しながら、私はぼんやり思う。
ああ、親父はまた暫く帰ってこないんだろうなあ……。
これにて「魔王狩り」は完結となります。
最後までお付き合い頂き、有り難うございました。