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【BL】拾った子竜を可愛がったら、僕より年上の大男になって物凄く口説いてくる。〜 契約と貴族と黒い竜 〜  作者: 良音 夜代琴


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オーロの目に映るリョクト(オーロ視点)

 あの頃、リョクトが騙されて屋敷に軟禁されているという事は、屋敷にいるうちに気づいていた。


 けれどあの時の私は儀式の帰り道だった。

 子竜に姿を変えられ人化を制限されていた私は、彼に伝えることが出来なかった。


「親が探してるんじゃないか?」

「寂しくない……? 僕がそばにいるからね」

「僕は別の世界から来たから、こっちに家族はいないんだ。……皆に会いたいな……」

「キミには名前があるのかな……?」

「僕の名前はね、森川(モリカワ) 緑斗(リョクト)って言うんだよ。……なんて、自己紹介してどうするんだろうね」


 彼と過ごした時間は今までで一番幸せな時間だった。


 儀式の途中だという事を忘れたくなるほどに、俺の魔力は優しく温かく、私は彼の魔力に溺れた。


 彼に優しく撫でられると、私はそれだけで胸がいっぱいになった。


 私は愛を込めて何度も彼に口づけたけれど、彼にとってはただの子竜の戯れだったのだろう。



 クロと呼んでくれていた頃は、あんなに私を可愛がってくれていたのに。

 あの頃私をたくさん撫でで、名前を呼んで、そっと抱きしめてくれたリョクトは、今の私に触れようともしない。


 子竜の姿を慈しんでくれただけだったのか。

 大人の私ではダメなのだろうか。


 それとも、彼はもう私のことを……忘れてしまったんだろうか……。


 私のことを大好きだと言ってくれたのに……。




 私は、小さくなってきた焚き火に薪をくべる。

 火に当たりながら眠るリョクトは、夜風に晒され、寒いのか丸くなっている。

 私は毛布からはみ出したリョクトの腕に毛布をかけてやる。


 あの頃まだ幼かったリョクトの横顔は、しばらく見ないうちにスッと細くなり、愛らしさの中に美しさまでもを備えている。


 その柔らかそうな頬にそっと手を伸ばすと、小さな唸り声が聞こえた。


 なんだ、ヴェルデはまだ起きていたのか……。




 ここで言い合ってリョクトを起こしてしまうわけにはいかない。


 彼は眠っても、すぐにうなされて起きてしまうから。

 こんな風にすやすやと眠っている時は、一秒でも長く、このまま眠っていてほしい。




 私は仕方なく手を引っ込めた。


 会ったばかりのはずのヴェルデは、彼の頬に口づけを贈ることまで許されているのに。

 私は彼の頬に触れることすら許されないのは、なぜだ。




 ……いや、分かっている。


 頭では分かっているのだ。


 彼は私を小さな子竜だと思っていたから、許してくれていただけだと。

 私を好きだと言ってくれたのも、親愛の気持ちで言ってくれただけだと……。




 それでも、私は諦めきれなかった。



 彼から引き離された私は、飛竜騎士のための乗用竜となるよう訓練を受けさせられた。

 外見からすれば、生まれてほんの数ヶ月ほどの子竜に見えたのだろう。


 しかし私は儀式で力を抑えられているだけで、既にその頃十八歳を越えた成竜だった。

 飴と鞭程度で人間に従う訳もなく、暴れに暴れて散々叩かれたが、それでもなんとか魔力の鎖を引きちぎって逃げ出した。

 人間達は、言う事を聞かないならばせめて殺して素材にしようと、矢を射かけてきた。

 魔力を帯びた矢を浴びて、目に傷を負ったのはその時だ。


 それから、私は里に戻って儀式を終わらせて、人の姿であの町に戻ってきた。

 リョクトのいる屋敷は人の出入りを厳重に制限されていた。


 それでもなんとか四年かけて屋敷に庭師として潜り込んだ。


 だというのに、窓越しに四年ぶりに見たリョクトは、騙されているにもかかわらず、あの貴族の次男をすっかり信頼しきっていた。



 リョクトの気持ちを頭で理解することはできた。


 あの屋敷で彼と話ができるのはあの貴族次男だけで、あの貴族次男は彼にずっと優しい態度をとっているのだから。

 衣食住を保証され、丁寧に扱われて、信頼するのは当然だろう。




 そこまでは分かった。

 しかし、問題はそれだけではなかった。


 よくよく見れば、あの貴族次男までもがリョクトを慈しむような目で見つめているではないか。


 さらにはリョクトが注ぐ魔力が増えつつあると聞いて、私は焦った。


 魔力は、リョクトが幸せを感じるほどに増える。

 リョクトはあの貴族次男が好きなのだろうか。


 あの貴族次男の仕事は、どうやら屋敷に何人かいる異界人達の機嫌を損ねないようそれぞれを尋ね回り、様々な要求に応えることのようだ。


 これはマズイ。

 これでは、リョクトがあの次男に愛を告げれば、あの次男はそれを受け入れてしまうだろう。


 一刻も早く、リョクトをここから連れ出さなければ。



 どうやらあの次男は長男に決して逆らえないようで、リョクトから乞われない限りはリョクトを自分の物にはできないようだ。


 だから私はあの晩、リョクトにあの二人の庭での会話をわざと聞かせた。

 風の魔法で、遠くで話す彼らの言葉をはっきり聞こえるようにして。



 そうすれば、リョクトはあの次男への好意を失い、魔力もぐんと減るに違いない。


 屋敷で聞き込んだところ、異界人の多くは、魔力が尽きれば屋敷の外に出されると聞いていた。


 リョクトを屋敷の外にさえ連れ出せれば、私にもチャンスがあるはずだ。




 貴族の長男は、宣言通りにリョクトが力を失い始めて四日後には彼の部屋を目指していた。

 殴ってでも止めようと思っていた私だったが、それを器用に躱したのはあの次男だった。

 長男が世話を任されている異界人の女性達に、リョクトへの浮気の噂をさりげなく使用人の会話中に仕込んで聞かせたようだ。

 長男が嫉妬する彼女達の機嫌を取るので手一杯になっているうちに、次男は素早くリョクトを屋敷から逃がした。



 私はすぐに庭師を辞めて、リョクトを移動させる者のうちのひとりと入れ替わった。

 ここまでくれば、私の勝ちだ。

 後は隙をついてリョクトを攫ってしまえばいい。


 しかし、待ち合わせの場所に向かった私は、リョクトが言葉を奪われていると説明を受けた。


 激しい怒りを感じた。

 まさか、次男がこんな卑劣な枷をはめてくるなんて。





 リョクトが私の胸に飛び込んで来た時、私は震えた。

 細い肩が頼りなげに揺れていて、どうしようもなく庇護欲と独占欲が湧き上がる。




 もう二度と離すものか。


 私の……私だけのリョクトだ……。




 ああ、もう言葉など話せなくてもいい。

 雨が止んだら、彼を連れて飛び立とう。



 そう決めていたのに。



 あの雨の中で、確かに一度は私の腕の中にいたはずのリョクトは、突如姿を消してしまった。



 すぐに追いかけて、もう一度この腕に取り戻したかった。


 それなのに……。


 降り続く雨が、彼の匂いを消してしまった。






 休む事なく飛び回り、森の中でやっと彼を見つけた時、彼はヴェルデと共にいた。




 確かに昨日私の腕の中にいたはずのリョクトは、たった一日で、その体にヴェルデの匂いを纏っていた。



 ヴェルデの話によれば、リョクトはかなり危ない目に遭っており、子竜の姿で魔法も使えない状態でありながらも身を挺して庇ったというヴェルデに、離れろとまでは言えなかった。


 一瞬とはいえ、私が目を離してしまったのが悪かったのだと、そう自省して大目に見た。


 そうだ。私はこれでも精一杯大目に見ている。



 子竜の姿をしたヴェルデを、リョクトがまるであの頃の私のように慈しみ可愛がる姿を、私が……どんな思いで……っ。





 ゆら、と炎が揺れて、私は気配に気づいた。





 物取りか、それともリョクトを取り戻しに来たのか。


 ちょうどいい。

 私も暴れたい気分だった。



 ピク、目を閉じたまま片耳を上げたヴェルデに「お前はそこでリョクトを守っていろ」と告げて、私は立ち上がる。


 そのまま、不穏な気配を放つ集団へと駆け寄り一気に距離を詰める。

 私を相手にほんの五人とは、これはただの物取りだな。


 サクサクと全員切り裂いて、リョクトに血の匂いが届かないよう、遠くに捨てて戻る。


 手応えがなさすぎて、憂さ晴らしにもならなかった。





「ヴェルデ、ご苦労」

 小さく告げると、ヴェルデは『お前の為じゃない』と言わんばかりにフンと鼻を鳴らした。




 先ほどと変わらずに眠っているリョクトの姿に、私は心底安堵する。


 もう二度と彼を離してなるものか。


 できる事ならば、今すぐにでも彼と生涯の契約を交わして、彼を一生私の物にしたい。

 彼の首に巻き付いた忌々しい楔を引きちぎって、私の里へと連れ帰り、一生離したくない。





 だが、私が強引な手段に出ようとするたびに、小煩いヴェルデがキャンキャン吠えるのだ。



『一方的にリョクトを支配する事は許さない』と。


 そんなつもりはない。と、ヴェルデに答える度に、そんなはずはないだろう? と私の心の奥底でドロドロとした感情が蠢く。


 許されるなら、リョクトを縛り付けて、私のそばから一歩も離れられないようにしたい。

 私以外の全てを見ないでほしい。

 私だけと話して、私だけを思ってほしい。


 最初はこんな醜い思いじゃなかったはずなのに。

 いつの間にか会えない年月が、恋しい思いが、窓の外から見つめるしか出来なかった日々が、リョクトがあの男に向ける眼差しが、私の恋心を歪めてしまった。






 こんな私が、今更クロだと彼に告げたら、彼はどんな顔をするだろうか。


 真実を告げて、会いたかったと、ずっと好きだと、今も愛していると伝えたい。





 けれど、真実を知った彼に……もし、否定されてしまったら……?





 もし、そんな竜など覚えていないと言われてしまったら?



 覚えてくれていたとして、竜は恋愛対象ではないと言われてしまったら……?




 それどころか、あの貴族次男が好きなのだと、言われてしまったら……。




「っ……」

 苦しげな音に、私はリョクトを見る。


 小さく息を詰まらせたリョクトは、次第に呼吸を乱し始める。



 ああ、また彼は辛い夢を見てうなされている……。


「キューンキューン」と悲しげに鳴くヴェルデを、目覚めないままのリョクトの腕が抱き込む。

 ペロペロとヴェルデに繰り返し頬を舐められて、リョクトはようやく息を吐いた。


 薄く目を開いて、ヴェルデを見て。

 起こしてくれてありがとう、と言うように、ヴェルデを撫でて小さく微笑む。





 その笑顔が欲しいと、私にだけ向けて欲しいと、私の心が身勝手に渇望する。


 ……彼からそれを奪ったのは、私だというのに。



 夜うなされているのはいつからなのか、と尋ねた私に、彼は目を伏せて苦笑した。

 壊れてしまいそうなその苦い横顔に、私は息が詰まった。


 彼が地面に書いた日数は、ちょうど私が彼にあの話をわざと聞かせた頃だった。





 私の行いは、自分勝手に、彼の心を傷付けただけではないのか。


 もう少しで幸せに届きそうだった、両思いの二人を、自分の横恋慕で無惨に引き裂いただけではないか。


 自分が彼に触れたかったがために、自身の欲を優先させて。

 彼に辛い思いばかりを強いているのではないか。


 彼から、安全な居場所を奪って、こんな壁も天井もない場所で……。


 竜にはこれで十分だが、人間は家に住む生き物だ。


 いつまでもこんな風に連れ回していてはダメだ……。

 彼には安全なところで安心して暮らしてもらわなければ……。



 しかし、彼の居場所は常にあの貴族次男に伝わっているはずだ。

 動くのをやめてしまえば、すぐに追いつかれてしまうだろう。



 くそっ、どうすれば……っ。



 私は自身の無力を握り締めながら、うとうととまた夢の中に沈んでゆくリョクトのどこか寂しげな表情を、ずっと見つめ続けていた……。



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