ヴェルデの目に映るジョシュア(ヴェルデ視点)
眠っているリョクトのすぐ隣で馬車が止まった。
オーロにリョクトを任されていた俺は、リョクトを背に守るようにして立ち塞がる。
でも今の俺の体じゃ全然リョクトを隠せていない。
馬車から降りてきたのは、見た事もないくらい綺麗な男だった。
キラキラ光る明るい金髪に、春空みたいな優しい青い瞳。
俺がポカンとその男に見惚れているうちに、男はリョクトに近づいた。
「リヨ……こんなにやつれてしまって……」
うわ、やべ、近づかせちまった!
俺は強引に二人の間に割り込む。
「グルルルルル……ッ」
姿勢を低くして、いつでも飛びかかれるように構えた俺を、空色の瞳が見つめる。
「赤竜……」
「ジョシュア様!」
「お下がりくださいっ!」
護衛らしき男達が左右から割り込もうとするのを、ジョシュアと呼ばれた綺麗な男が手で制した。
そんなささやかな所作すら美しくて、俺は息を呑む。
綺麗な男……ジョシュアは俺の前にしゃがみ込んで、俺と視線を合わせる。
「君がリヨを守っていてくれたのかな、ありがとう」
感謝の籠った微笑みを向けられて、俺はそれ以上威嚇することができなくなった。
「リヨはまた竜に懐かれていたんだね。本当に……無事で良かった……。昨夜は野宿だったのかい? 夜は冷えただろう……」
俺とリョクトに交互に視線を向けながら、ジョシュアは安堵と心配を漏らす。
こいつは悪い奴ではなさそうだ。
オーロアデルにとってどうかは分からねぇけど。
とりあえず俺はこの綺麗な男の様子を見ることにする。
「この人を温かい場所でゆっくり休ませてやりたい、いいだろうか?」
空色の瞳に見つめられて、俺は瞬く。
俺に聞くんだ?
わざわざ……こんなちびっこい俺に?
「ガウ」と頷けば、ジョシュアはホッとした顔をして、リョクトの肩を抱き上げた。
「……っ」
目を覚ましたリョクトに、ジョシュアは懸命に声をかけ、優しく励ました。
「まだ眠っていたらいいよ。大丈夫だ、リヨのことは私が守るからね」
ジョシュアにそう言われたリョクトは、安心したような顔で目を閉じた。
やっぱり悪い奴ではないようだ。
馬車に運ばれるリョクトの後を追うと、ジョシュアは少し躊躇った後で俺に馬車の扉を開けた。俺はすかさず飛び乗る。
こんな弱ったリョクトをひとりだけ連れて行かれるわけにはいかねーからな。
大きな馬車には寝台が備え付けられていて、リョクトはそこに寝かされてふかふかの布団に包まれていた。
走り出した馬車の中で、ジョシュアは俺に話しかけた。
「リヨのそばにいてくれてありがとう。しかしこの先は町に入ってしまう。我々とともにいると悪い人につかまってしまうよ」
なんだこいつ、俺のこと心配してんのか?
さっき躊躇ったのは、俺の事が邪魔だったからじゃないのか。
「おや、君は……儀式の途中なんだね」
ジョシュアの視線が俺の首元で止まっている。
なんでこいつ……この紋を知ってるんだ……?
「では本当は子竜ではないということか」
ジョシュアは俺の疑問に気付いたのか、ふふ、と小さく笑う。
なんだそれ、すげー可愛い。
「不思議そうな顔をしているね、私の母は竜に詳しい人だったんだ。……もうずいぶん昔に亡くなってしまったけれどね……」
金色のまつ毛に縁取られた綺麗な瞳が伏せられて、俺はなんだか慌てた。
この男に悲しい顔をしてほしくない、そんな気持ちになってしまう。
「貴方を子ども扱いしてしまった事を謝ろう。けれど、ここにいると危ない事は事実だ。彼の事は私が責任を持って面倒を見るから、一日も早く町を離れた方がいい」
真っ直ぐにそう伝えられて、その真摯な瞳から目が離せなくなる。
リョクトが可愛くて守りたくて思わず拾い上げたくなるドングリみたいな奴だとしたら、こいつは美しくて可憐な花みたいな奴だ。
血の匂いを濃く纏ったその姿には、今にも目の前で儚く散ってしまいそうな危うささえ感じる。
俺は思わず身を乗り出して、ジョシュアの手を舐めていた。
ジョシュアは驚いたように空色の瞳を見開いた。
その顔もすげー可愛い。
しかも、それからゆっくり目を細めた顔なんて、めちゃくちゃ可愛い。
「ふふ、竜に舐められたのは生まれて初めてだな」
嬉しくなってジョシュアに飛びつくと、ジョシュアは一瞬驚きに肩を揺らしたものの、逃げずにじっとしていた。
ぺろぺろと手を舐めて反応を見る。
嫌そうな顔も、振り払う様子も見られない。
大丈夫だ、俺はこいつに許されてる。
そう思うとたまらなく嬉しくなって、そのままジョシュアの綺麗な頬を舐めた。
陶器みたいにスベスベの頬が、俺に触れられてほんのり染まる。
恥ずかしい……?
それとも、嬉しい……?
俺のこと、子どもじゃないって分かってんだろ?
……それでも許してくれたんだよな……?
なんだこれ。ヤバい。心臓がドキドキしてきた。
もう一度、頬に触れたい……。
いいよな……?
「ジョシュア様にあまり気安く触れないでいただきたいっ!」
その声は、さっき俺が唸ってる時にジョシュアの前に入ろうとしてた奴の一人か。
「構わないよエト、大きな声を出さないでおくれ、リヨが起きてしまうよ」
ジョシュアの隣に座っている様子からすると、護衛というよりは侍従だな。
ジョシュアより背も低く小柄な男だ。
こんだけ馬車がガタガタいってる中で寝てんだから、多少騒いでもリョクトは起きないと思うが、それだけジョシュアはリョクトを休ませてやりたいと思ってるんだろうな。
「エト、契約書を」
「はい、ジョシュア様」
ジョシュアはリョクトの物らしき契約書に手を加える。
破棄ではないのか。何をする気だ……?
俺がじっと睨んでいると、ジョシュアは俺に見えるように書き換えた書類を向けた。
「これでリヨは言葉を話せるようになるよ。今まで不便をかけて悪かったね」
その書類は、確かに位置や体調の把握機能は残したままに、発言禁止項目だけが削除されていた。




