ログ#22「探険」
ちょっと長いです
その日、ヴァイスは自警団のアジトであるクチナシの家でスミリ達と駄弁っていた。
そこにシラヌイが勢いよく入ってくる。
シラヌイは自警団のメンバーでもあるが数ヶ月前に成人の儀の後、村の戦士団に実力を認められて勧誘された経緯がある。
村の戦士団は昔からグロウの村にある大人や成人後の若者が入団するのが自然だったが自警団は村のスミリら若者達が勝手に結成した無断な組織で彼らの存在こそ周知の事実だが特に仲は普通でしか無かったがシラヌイが入団後は双方の若者達の間で剣呑な空気が漂っている。
自警団の結成の裏にはスミリ達の親であるトミー達が、このグロウ村に移住した今でも残る軋轢、感情的なしこりが少なからず関係していた。
とある氏族長からの水面下の嫌がらせと対立は子世代のスミリ達にも及んでいるのが起因していた。
「はぁはぁはぁはぁ。
やっぱりいないか………。」
シラヌイは汗を掻き、肩を上下されながら部屋を見渡して扉に項垂れように体を預ける。
「何があった、シラヌイ!?」
ゴンズイが介抱しながら問い掛ける。
コップに入った水を渡してシラヌイが飲み終わって落ち着くと続きを話しだした。
「トラノオ達が消えたんだ!
朝早くに出掛けたって親御さんが!
クチナシさんの家に寄ったりしてかもと来たんだけど……。」
「…いや見てないぞ…………。」
クチナシが何時に無く真面目に答えて着替え始めた。
「行方が分からないんだ。せめて手掛かりでもあればと来てみたけど……クソォ」
「何してる!
早くしろぉ!!」
クチナシが怒鳴る。
驚く一同が振り向くとクチナシが奥から取り出してきた大きなバックを背負っていた。
「そういえば今日はトベラとニガナも来てないぞ」
シランが口にする。
「って事は子供達と一緒にいるってのかよ!」
「戦士団が探して見つからないって事は外にいるはずだ!
一刻は争うだぞ!!
アイツラ、イタズラ坊主共め!!
こんな時まで心配かけやがって見つけたら、只じゃおかねぇ〜!
ほらみんなぁッ行くぞ!!
俺達は自警団だろうが!!!」
スミリたちの声も待たず1人飛び出すクチナシに皆が慌てて支度を始める。
「口は悪いがガキンチョ達を面倒見て1番可愛がってるのはクチナシだからな。」
「あぁ、そうだな」
スミリの言葉にヴァイスが頷き、アーカイブを辿った。
◇◇◇
同日の早朝。
「こんな朝早くて大丈夫かな?」
メガネをしている少年のウツギが門の前で不安を溢す。
「いっぱい食べてきたから大丈夫だぞ」
最年少のトラノオが、お腹をポンポコと鳴らして答える。
「お腹の話じゃない」
女の子のレンが食い意地の張ったトラノオにツッコミを入れる。
「スミリの姉ちゃんが落とした宝の地図で探検するんなら早い方が良いに決まってるぞ!」
それが不服なのか地図を掲げて進もうとする。
「ちょちょちょ、なんで私達もなのよ!」
「そう、それに皆に秘密、良くない?」
双子のトベラとニガナが先程、家に突撃されて起こされたばかりで目を擦りながら不満と注意を口にする。
「スミリお姉さんの地図を拾ったのがバレたら起こられちゃうから」
「そう!
だから大人は必要よぉ〜」
「皆に見つかったらお宝が奪われちゃうだろが!!
だから俺達だけで行くんだよ!
トベラとニガナはオマケだからね〜!
取り分は、ちょっとだけな!!」
「でも危険だよ?」
「アンタ達だけで行かす訳にもいかないか!」
「私達だけで子守りは不安かも?」
「ここでダメって言ってもいう事、聞かないだろうし、しょうが無いわ。
ほら、なら行くっきゃないじゃん!」
「分かってふぅふぅー♪
行くぞーーーおーう!!」
櫓の見張り当番の村人と門番役の戦士たちの目を盗んで壊れて穴の空いている木の蓋で簡易に塞いでいる塀から出る算段をウツギが教える。
「数日前に偶然、穴を見つけたんだ〜。
僕たち子供なら通れるよ。」
途中、トベラのお尻が突っ支えるアクシデントもあったが何とか村の外に出ていった。
「何よこれ、服は泥まみれになるし。
お尻は痛いし最悪よ!!」
◇◇◇
「んで、ど〜すんのこれぇ〜?」
地図を広げて首を傾げるトラノオ少年に、やれやれと彼を囲っていた全員が呆れる。
「反対だよ〜。
ちょっと貸してみて。
ふむふむ、このバツ印だよ!」
ウツギが地図を優しく手に取りながら地図上に指を滑らせる。
「今が此処だから。
えっ〜〜と?
……このスミリお姉さんがペンで描いた通りに進めばいいのね!」
「結構遠いわね、あんたら行けんの?」
「大丈夫?
心配………。」
「ガキ扱いすんなよな。
オレたちだけで行けるっつーのにさ!」
「まぁ私達が見てるから余程の事でもない限り大丈夫かぁ〜」
「そうかな……?」
「ほら貸しなさい!
1番年上の私達が道案内するから!」
「ちぇっ!
ババァめ!」
「誰がババァよ!!
言っとくけど私達もまだ十代前半の14歳なんだからね!!」
「そんなに歳変わらない?」
「変わるっ変わる!
俺なんて……えっと5歳だぜ」
「いいえ、トラくんはこの前の誕生日で7歳になったのよ!」
「そ、だっけ?」
「そうで〜す」
「ったく。
先頭は行きたいだろうから仕方がないけど走らないこと!
それと私達からあんまり離れないのよ!」
「「「は〜い!」」」
「やれやれね」
「なんだがお母さんみたい?」
「よしてよ、そんなに歳食ってないわよ!
って言ったそばから走らない!
ちょ、こら待ちなさ〜い!
コラーートラノーーーーーー!!!」
トラノオ少年を追い掛けて走り出して、それを又、追い掛ける一同が地図のルートから外れるのはそう遅くなかった。
◇◇◇
すっかり太陽が空の、てっぺんに昇っている。
「あら?
この道、地図と出る所が違うじゃない!」
「やっぱりさっきの倒木を避けて遠回りしたのが良くなかったのかも?」
「戻るにも1時間以上もまた歩くわけ?
そんなの嫌よ!」
「なぁ〜疲れたよ〜
腹減った〜
帰りて〜よ〜」
「帰るにしてもお宝を見つけてからにしないとダメだよ」
「そうだよ、でも私もお腹すいた〜」
「そうね。誰かオヤツでも持ってきてないの?」
「確かに?
でも皆持ってきてない?」
「いきなりだったから私達も準備してないし。
子供たちはそこまで頭が回るわけないし。
困ったわね。
とにかく食べれる薬草や果物なんかの自然にある物を探すしかないわね!」
「おう!
任せろ俺、そう言うの得意なんたぜ!」
「まぁトラくんは見た目的にも性格的にもそうだよね」
「じゃあこのまま食料を探しながら目的地を目指そ〜う!」
ウツギがトラノオから変わって先頭に立って歩き始めた。
「にししし、ホントはオレ!
少しお菓子持ってんだ!!」
「やっぱり。
歩きながら何か食べてると私思ってた!」
「お店の姉ちゃんが来た時にマミーに勝って貰ったんだぞ!」
「お店の姉さん?」
「行商人のイリュージアさんの事ですか?」
「そうだっけ?
でもキレイなお姉さんって感じの姉ちゃんだったぜ」
「なに言ってるのトラくん」
「トラノオくん、このままブクブク太っていいの?」
「え〜〜〜」
「そうだよ〜
皆で分けよう!」
「でももうないの!!
全部食べちゃった!」
「はぁ〜〜。
今度からは分け合おうね」
「その方が皆楽しいもんね」
「うん、分かった。
今度からはそうする!」
「だからトラくんが全部食べちゃったのは後ろのトベラお姉さんとニガナお姉さんには内緒だよ」
「おう分かったぜ!」
「………全部聞こえてんのよね!」
「ふふ、聞こえてないフリしなきゃ、ね?」
「たくっ、分かってるっての!
でも絶対、太るわね……。」
「おっ!オレ、この草知ってる!!
食える奴だも〜んね!!」
その矢先にトラノオが草むらに手を伸ばしてバランスを崩した先が崖っぷちだった。
◇◇◇
トラノオが落ちそうになるのをトベラとニガナが急いで助けようとするも遅かった。
身を乗り出して空中で抱えるも3人して真っ逆さまに落ちてゆく。
悲鳴を上げるレンとそのレンが落ちないように腕を掴むウツギはその場で動けなかった。
死んでしまったと泣く2人に声が聞こえた気がして顔を少し出してみる。
「ウツギ、レン!!
私達は無事よ。
でもトラノオが足を挫いちゃったみたいだから這い登れないの。
だから──」
「助けを呼びに行ってきます」
「ダメよ!
ここから村までどれ位掛かると思ってんの!!
危険な動物とか魔獣がいるんだから動いちゃだめ!!
こっちで何とかするから安心して!
ほらトラノオも声出す!!」
「う、うん!
俺は大丈夫だぞ!」
「良かった〜
トラくん、なんともないんだね」
「おう!
だからお喋りしようぜ!」
「あんまり大声出しちゃうと危ないからこれ位の声ね!
じゃトラノオ任せたわよ」
「あ、あぁ。
ウツ!レン!話そうぜ!」
「そうだよね、こういう時こそ楽しい話をした方がいいって聞いたことあるよ!」
「うんうん!
私も怖いけどお話する!」
◇◇◇
「その調子よ。
泣かないの!!」
「で、でも俺のせいで!!」
「おバカ!
そんなわけ無いでしょ!
ほら大声出さない」
「う、うん。」
「泣かないで?」
「で、でも姉ちゃん!!」
トラノオが足を挫いたのは本当だが、ウツギ達に告げたのが全てではなかった。
山道の不意に表れた断崖絶壁に消え落ちたトラノオの先には岩棚があった。
しかし双子が手を伸ばした場所には妹が伸ばした手の先にだけ斜辺から生えた枝が突き刺さり腹を抉ったからだ。
岩棚に無事に落下した3人だったが血が溢れて妹は動けなくなる。
動揺するトラノオを叱咤するでも無く冷静に言い聞かせるように血の止まらない腹部を押さえながら上にいるウツギ達にも気づかれないように口を開きながら姉は頭の中をアレコレと高速で回転させた。
子供達との慣れない子守りとハイキングは突如として死の香りのする場面へと様変わりする。
隣にいるトラノオに上にあるウツギとレン達の彼らの身を案じながら何が出来るか考える度に焦りと、どうしようもない苛立ちさえ募っていく。
そして自身と妹の命の危険が突然に目の前に現れた現実に現実みを丸で感じられてもいなかった。
死を目の前にして始めて死を直ぐ側に居ることに恐怖した。
脂汗を溢れさせる妹に姉は必死に両手で血を押さえて声を掛け続ける。
そんな2人を横目にトラノオは自分を責めては、そして上のウツギ達に気付かれないように今の自分にできる事に精一杯、努めながら涙を拭っては己とウツギ達を勇気づけるように励ますように話を決して途切れさせないでいた。




