ログ#19「決闘 (上)」
少年の名はフブキ・ネーロ。
ネーロ村の村長の長男にして次期村長、次代の村長として育てられていた。
周辺地域の集落の統轄も任されていた父により厳しく教育が成され齢5歳にしてフブキはネーロ村で最強となっていた。
跡継ぎという事もあり大人は手加減をしていたが中には本当に勝ってしまう事もありフブキは甘やかされ増長し癇癪と我儘になり偉そうに仕出すのは必然といえた。
そんな彼の人生の変える出会いが起こる。
周辺集落の村長らが集まり行われる連合集会で同い年の女の子、スミリに会った時の事である。
風に揺られ靡く長い金髪の毛が太陽の光で虹の日暈と六角形状の光が覗き照らして飾る姿を見てから言い表せない感情がフブキに込み上げる。
ほんの一瞬で別世界の登場人物の何かと勘違いしそうになる程に眩しく美しかった。
手を伸ばしそうになり途中で止める。
ネーロ村では負け無しで同世代や年上の男も女にもチヤホヤされてきた意地が追い掛けるのを止めたのだ。
そしてフブキは開口1番でスミリに言う。
「おい、俺の女にしてやるよ」
フブキの言葉にピタリと立ち止まり父親に連れられ握っていた手を離すとスミリはフブキに向き直り笑顔を向けた。
花が咲き誇るような美術品のような笑顔にただ、ただフブキは嬉しかった。
「愛人じゃないぞ、側室で──ぶぼぉ!?」
スミリの飛び回し蹴りがクリーンヒット、フブキは綺麗な弧を描くように回転しながら地面を転がった。
「私に勝ったら考えてやる!!」
いきなりの衝撃と激痛にポカーンと遅れて事態を理解してくる。
フブキの元へと駆け寄る父の従者達と急いで回収されるスミリに謝っているスミリの父親達の様子。
フブキは土を頬に付けながら立ち上げられて怪我が無いか見られながら顔を赤くする。
これが人生始めての敗北と一目惚れ、それらが同事にフブキを襲った。
それから会う都度に求婚とプロポーズ代わりの一戦が始まりフブキが瞬殺されるのが、お約束となってゆく。
◇◇◇
ドアノッカーが鳴り、ベルが屋敷に響き客人が訪れたのを知らせる。
執事が案内して客間では執事長のオノウが接客をしている。
少しして若い男の怒号が屋敷に轟きスミリを呼ぶ声がヴァイスの部屋にも届いた。
その若い男が使用人に何かを問い詰めているようで面倒事の予感に自分も呼ばれるだろうなと思いながら立ち上がるとストレッチを始めた。
客間ではスミリを待つフブキの姿があった。
フブキは昨日の夕方頃にグロウ村に到着すると村長宅に向かい泊まった。
夜食の時間、彼が聞かされたのはスミリの婚約相手が見つかったという事だった。
居ても立ってもいられないが時間が時間なだけに一夜明けた今に至った。
「スミリはまだか!?
どう言うことなんだ!
スミリは俺の物だろう!!」
「誰が誰の物だってぇ〜?」
「あっ、スミ、…スミリ!」
ガチャリと入室したスミリの顔を一目見てフブキは今にも告白してしまいそうになるのを止める、その自分に気付き照れてから仕切り直すと話を戻す。
「う、うー。
違う。そうではなくてだな」
「ん?
何の話だ?」
「だから俺がいるだろう。
誰だって聞いているんだ」
「お前は此処に来たんだろ?
誰って誰だ?
私はスミリだが?
忘れたのか?」
「わ、忘れる訳がないだろうがっ!!!
いや違う」
「違うのか?」
「いやだからだな!
あーーー………だからお前の婚約者の話だ!!
俺がこの十年以上、お前を嫁にしてやると言っているだろ!!
横から入ってきた邪魔者は誰だと聞いているんだ!!!!!」
「お〜〜〜〜ん。
ヴァイスの事か。
しかし、そうか。
お前の中ではそういう感じか………。
甚だ遺憾だぞ。」
大声で綴った心の叫びは屋敷の2階のヴァイスの部屋にも響いていた。
◇◇◇
時は少し戻りフブキが屋敷を訪れた直後、ヴァイスの部屋の前には執事長のオノウがいた。
「ヴァイス様。
宜しいでしょうか」
「はいは〜い」
待ってましたと言わんばかりに平坦に返事をすると直ぐに入室を許可する。
そこでオノウからフブキについての事情を聞く事になる。
(変な奴が昨日から滞在していたのは知ってたが名前とLIVEデータから取れる以外の過去は情報収集の使用が無いからな)
「それ以来、御嬢様にご執心の様子でして。」
「なるほど、そんな事があったんですか」
(大族長や大村長と呼ばれる、ゴウセツ・ネーロの息子で次期後継者と周りから持ち上げられれば勘違いしない方が可怪しいか……。
にしてもだろ。
思春期真っ只中のガキそのものだな。
普通なら関わらないが、するにしても心の中で応援だけでもしてやるんだが。
今は死活問題なんだよな。
悪いが邪魔させて貰う。)
「では御嬢様1人にさせるのもいけませんからヴァイス様も──」
そこでフブキの大声の愛の告白が響く。
「どうやら話に聞くよりも性根の捻くれてた少年のようですね」
「え、えぇ〜まぁ。
急ぎましょうか」
「はい」
客間では床に倒されたフブキを羽交い締めにするスミリがいた。
「今日もお前の負けだフブキ!」
慌てるメイドと特に慌てる事の無いネーロ家の使用人達の姿もあった。
「ギブ、ギブギブーー!!」
痛そうにしながらも体に当たるスミリと、その匂いに少し嬉しくする思春期男子の特性を見たヴァイスは、それを無視することにした。
「よぉ〜」
「おう、ヴァイス♪」
「お前が!?
あっ、放して、痛いって!!」
「あっ!
悪い悪い」
どこか決まらないが拘束を解かれ使用人達に介抱されながら今度こそ立ち上がったフブキがヴァイスの前に立つと表情と気を持ち直して見下す。
「お前がヴァイスか。
なんとも弱そうな!
なんだその白髪は。はっ、爺さんと見間違えたかと思ったぞ!」
「なっ!?
フブキィーーー!
なんて事を言うんだ!
それは最も言ってはいけないワードだぞ!!」
「別にそんなことはないが?」
「人が気にしてる事を言ってはいけないんだぞ!!」
「気にしてない、気にしてない!
言われたことも無い。」
「人を傷つけることは言うな!!」
「むしろ今はスミリさん?
君の言葉に傷ついてる」
「そんなあぁぁぁぁぁぁぁあ!!??
すまないヴァイスゥゥゥゥゥゥゥゥウ!!!!」
項垂れるスミリと自分の髪を触り 〝えっ、ジジィ!?〟 と気にし出したヴァイスを見て膨れるフブキに誰も何も言えなくなる。
「かっ!
く、夫婦漫才を見せびらかしてくるとはヤラレタァ!」
「誰が夫婦漫才だぁ!!」
1人は嬉しそうに、1人は変わらぬトーンと声で2人の声が重なった。
「にしても………お前…ヴァイスと言ったな!」
「あぁ、そうだが?」
「お前は本当に人間なのか!?」
何なんだ、何という事だ。
……コイツの魔力量は?」
「はふん?
なんだ驚いたのか、フブキ!」
仰け反らせる勢いで胸を張るスミリと心底、驚愕するフブキ。
嫌な予感のヴァイス。
「貴様は産まれたばかりの赤子か?」
「は、へ?」
「ネーロ族は相手の魔力内包量が目に見えると言われています。」
空かさずオノウが解説を入れる。
「なっ、フブキィ!!
お前はヴァイスが赤ちゃんだと言いたいのか!!」
「いやそう事じゃないだろうが」
ヴァイスだけがフブキの言葉に静かに納得していた。
そして内心ではそんな特殊な技能を持つ種族がいる事に危機感も抱く。
(魔力の内包量、つまりキャパシティの総量ねぇ。
赤ん坊か……少ないって言いたいんだな……上手い事いうじゃないか。
それが意味する所は俺が魔力適合してからの日時を指す。
どうしたもんかなぁ〜)
呆れに近い感情は長い戦場生活の中を生き抜いてきたヴァイスの処世術であり、それでも死なないための立ち回り方だった。




