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『新生』寄る辺商

「それで、ロクマを怪異化させるプロセスだが」


 第二回目の作戦会議で、イチジョウが仰々しく言った。


「奴の言動と連動させた怪奇現象を発生させる」


 一同、一度聞いただけでは「ふむふむ」とはならなかった。代わりに浮かんできたのが「どうやって」の一言。その旨を感じ取ったイチジョウは「説明が難しいな」といって頭を触る。


「奴が使うマイクやスライド、会場の証明に不具合を発生させる。ハウリングしたり、全く別の映像が流れたりな。すると会場はどうなると思う?」


 イチジョウの問いかけにいち早く答えたのがミツメだった。


「混乱する。それもファンの子たちはほとんど女の子だし、軽いパニックが起こるんじゃないかしら」


「まあ、その通りだ」とイチジョウ。


「怪現象に対峙している我々が、発生させる側に回るのか……。わくわくするな」


 フセミがどのようなことに興奮するのか、イヌマキもだいぶ分かってきた。


「しかし、奥の院の仕業だとばれないのでしょうか」


 イヌマキが懸念を示すと、リーダーは「そこが大事なんだ」と言うように彼女を指差した。


「そう。ロクマは必ず奥の院を怪しむだろう。それも想定内だ。そしてその怒りすら怪異化に利用する。まあつまりいつもの作戦のフェーズ2に当たるな。挑発、怒りの発言、実体への誘発。ロクマは実体と言うより、本性への誘発と言ったところか」


 その説明に一番目を光らせたのは、やはりミツメだった。


「すごく良い! そうなれば、どれだけあいつが言い訳しても効果無しね!」


「俺たち奥の院の学内での信頼回復は正直望めない。だからこそ、あいつだけを引きずり下ろす」


 イヌマキは想像する。奈落に突き落とそうとしてくるロクマの足首を持ち、彼もろとも落下していくミツメの姿を(その姿はミツメ以外では想像しにくかった)。そして奈落に落ちたロクマは二つの意味で絶望する。一つは自身が堕ちたこと、もう一つは、奥の院がもう既に、奈落の住人であったこと。


「しかし、最後はどうするのだ。オーラル・アタックで沈めるのか」


 フセミの疑問にも、イチジョウは対策済みだったようだ。


「会場内の照明を落として逃走する。混乱に乗じてな」


 その言葉に最も嫌悪を示したのは、ミツメだった。


「なんでよ。最後にぎゃふんと言わせたいじゃない!」


 彼女の激情を見るに、未だ彼への憎悪が一番強いのはミツメであることを想像するのは容易い。


「最後の最後で、俺たちが奴に直接手を下したら意味がないだろう。肝心なのは、奥の院の存在をいかに不在にして怪奇現象だけを発生させられるかだ」


 ロクマにだけわかる意趣返しをして、観客からは彼自体が怪現象を発生させるように仕向ける。なるほどよくできた作戦だとイヌマキは感心する。と同時に、作戦の突拍子の無さに隠されていた根本的な疑問が浮かんでくる。それは、イチジョウ以外の他メンバーも同じだったようだ。


「ですが、私たちが動かずに怪現象を起こすなんて……」


 イヌマキがそう言い切る前に、イチジョウは勢いよく談話室二の扉を開く。


「協力者は、すでに要請済みだ」


「あ!」


 全員が軽く叫ぶ。彼らの心に浮かんでいるのは、忘れられないあの夜の出来事であった。



「お久しぶりだね。みなさん」


 寄る辺商の店主は、半年ほど前と変わらぬ軽快な口ぶりで再開の言葉を述べた。


「カクシノさん、お元気でしたか」


「ええ。お陰様で。イヌマキさんたちも息災みたいで良かったよ」


「色々と困難はあったが……。まあ、息災と言えば息災だな!」


 フセミがそう言って笑っていると、カクシノに続いて談話室に入る人影が二つ。


「スズリちゃんも! 来てくれたのね」


「……ご無沙汰しております。皆さまに再びお会いできてうれしい限りです」


「スズリさん。お店の方はどうですか」


 当時もっとも深く協力したであろうイチジョウも、珍しく私的に尋ねる。


「ええ。カガリ様のご指導のおかげで、ようやく骨董屋のいろはを掴めてきた次第です」


「なるほど、それでカガリも来てくれたのね」


 スズリの後ろで、完全に出るタイミングを失って手持無沙汰気味に窓を眺めていたカガリが、あの時と変わらぬぶっきらぼうさで言った。


「まあ、あんたらには借りがあるしな。……それとスズリ、俺は何も有意義なことを教えてないぞ。嘘を言わないでくれ」


「嘘ではありません」とスズリが少し頬を膨らめる。この半年間で、光を薄く塗り広げた様な憂いのようなものが彼女から消え去っているのを、一同感じていた。


「『新生』寄る辺商が、初めて何かに協力する時が来たねえ」


 カクシノはそう言いながら嬉しそうに談話室を見回し、「良いところだね」と呟いている。


「イチジョウ、この三人に事情はもう話してるの?」


 イチジョウが返事をするまでもなく、カクシノはすかさず答えた。


「すべてリーダーさんから聞いたよ。色々と大変だね」


 宵山での困難があったからこそ、度々起こる危険な作戦に、彼は同情すると同時に、彼らの運命を奇異な目で見ていた。


「しかしまあ、君たちはよく不思議なことを起こすねえ。京都で骨董屋をやってるだけじゃ、絶対経験できないことだもの。これも僕の経験のためだと思ってさ、ぜひ協力させておくれよ」


「私は奥の院の皆様のおかげで、新しい自分を見つけることができました。できることなら返り血でも浴びるでしょう」


 スズリもまた、彼女なりの誠意と覚悟を見せた。


「正直、宵山の刺客役みたいなことはもうごめんだが、カクシノ様と同じく、あんたらといると妙に面白みのある日々になる。ロクマと言う男も、全く許せないしな」


 「頼もしい限り」とミツメが演技に見えるほど目を潤ませているが、きっと本心からなのだろう。


「我々奥の院は孤独じゃない。相手が数で攻めるなら、こちらは少数精鋭を雇う」


 

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