前物語のプロローグ
「四年前、フセミを除く俺たち三人が入部してから、去年まで、俺たちはずっと孤独だった。そりゃ上には何人か先輩がいたが、今よりも空気が張り詰めていた分、上下関係が激しかった」
そんな昔の話から始まると思っていたイヌマキはあっけにとられながらも、彼らの話に耳を傾ける。
「二年生の時、ここから後輩が入ってきて、新しい仲間に出会えると思ってたの。でも入部者はゼロ。一つ上のナルユメさんがリーダーになって、また作戦の日々」
「私はその前から奥の院にいたが、イチジョウ達はその頃はずっと弱かった。今貴公が自嘲するように、恐怖を画しきれてはいなかった。そんな中で、私たちは戦い続けた」
「三年生になっても入部者はゼロ。それなりに強くはなったが、やはりどこかが埋まらなかった。ヨツツジのおむすびはどんどん美味くなるのに、どうにも幸福度が足りない」
「そしてその頃にはもう、完成されてたのよ。今のポジションが。だからほとんど諦めてた。どうせ今後輩が来たって、足手まといになるだけだって」
「完成され、体系化された作戦要項に沿て行われる霊退治には一寸の隙も無かった。八年間ここにいたが、あれほど洗練されていた一年間は無かったな」
「そして一年前、四年生になった俺たちに、遂に後輩ができる。それがお前だよ。正直今の俺たちには、必要のない人材だと思っていた。すでに完成された陣形にどう組み込むべきか、悩んだものだった。そして、俺たちに後輩ができてから初めての作戦が行われた。イヌマキが経験した初陣だな」
「その作戦の終り、私たちは衝撃を受けたの。誇張抜きよ? 本当に楽しかったの。初作戦で驚いたり怖がったりしているイヌマキちゃんが、懐かしくて、新鮮で、愛おしくてならなかった」
「……あの時俺は、お前におむすびを譲ったな。……あれは、その心の表れだった」
「あの時の我々に必要だったのは、貴公だったのだよ、イヌマキ君。冷たく研ぎ澄まされた刃に、微かな熱を帯びさせた。そしてその熱は確かに我々を更に強くした。太陽の後輩なのだ、貴公は」
「一年生であれば誰でもよかったわけじゃない。真面目で素直、だが特別な時に突出した行動ができるお前だからこそ、俺たちの凝り固まった空気を揉捻することができた。……つまり、楽しかった。それだけだ」
ここまで先輩から言葉を詰め込んで伝えられたことがなかった(そこにヨツツジも参加してきたとなると尚更)ため、イヌマキはすべての情報を処理しきるのに時間がかかった。まるで一年前、初めて作戦会議に参加した時みたいに。誰が何を言っているのかも、あまり分からない程に狼狽した。しかしそんな状態のイヌマキにも、「自分がいて良かった」ということだけは伝わった。それだけで十分で、そして全てだった。
「つ、つまり、私は今褒められているという認識でよろしいでしょうか……」
「あなたって変なところで鈍感よねえ」
ミツメがそう笑いながらも「まあそういうことね」と言う。
「それは、奥の院がこのまま解散されていい理由になるんでしょうか」
イヌマキからすると、この二つの事実はあまり脈絡が無いように思えてならなかったが、その言動は四人をムッとさせた。
「おいイヌマキ……、俺たちにこれ以上言わせるつもりか? さっきもかなり恥を捨てたんだぞ」
「まあそういわずにイチジョウ。そこも彼女の良いところではないか」
「はあ、じゃあ、恥ずかしがりな男性陣に変わって私が分かりやすく言ってあげるからよく聞きなさい。次もそうやって聞き返したら、今度こそ怒るからね」
第二演習室に、強い夕日が差し込む。二月の澄んだ空気は、光を良く通し、五人の顔を赤く染める。その光は恥じらいも喜びも悲しさの表情をすべて隠している様だった。
「私たちは可愛い後輩が欲しかったってこと。最後にそれを叶えられて、本当にうれしかった。それだけで十分」




