おまけ3 ひまつぶしのカーチャン
続編にようやくカーチャンが初登場したのですが、続編は読者が少なくてもったいないのでこっちにも載せました。続編を読んでなくても問題ないように一部編集しています。
最近巷を賑わせている怪盗の噂がある。その名も……
怪盗カー! チャンスあれば何処にでも忍び込み悪人から盗み出す。
怪盗カー! ちゃんと戦利品は貧しい人たちに分け与える。
怪盗カー! ちゃんちゃらおかしいね、が口癖だ。
怪盗カー! ちゃん、リン、シャン、を知っているお年頃
怪盗カー! チャンスをピンチに変えることもいとわない。
ああ……一体何者なんだろう? 怪盗カーちゃん……。
最近うちのギルドではこの謎の話題で染まっている。
いろんな話題が出ては皆で楽しんでいるのだが、今回は盗賊というか義賊がブームだ。
最近流行っているドラマ『便乗怪盗、暗黒ゼイド』に影響されているというのもある。
もちろん母さん事かしわもちも例外ではない。
先ほどのドラマに加え昔の小説だの時代劇だの読んで、義賊という存在にハマったらしい。
いったい何を読んだのか知らないが、俺に殺し屋の役をやらせたがったり、弟のゆうすけには弁護士か警察にならないかと謎の言動を発している。
昔から影響されやすい人だったので、今回もいつものことだなと生暖かく見守る予定である。
「タカシー、ちょっと頼みがあるんだけど」
みんなでわいわい話してる中、かしわもちが俺に話しかけてきた。
ちょうど今日は暇してるので母さんと遊ぶのもいいかもしれない。
「いいよ。どうしたの?」
「実は宝の地図らしきものを拾ったんだけどさ、あたしはちょっと急用を思いついたから行けないんだよ。代わりに行ってくれないかい?」
「宝の地図? それならまた今度一緒に行ったほうがよくない?」
「うーん、でもこの地図に時間も書いてあるんだよ。だからチャンスは今日しかなくてね」
よくわからない頼みではあるが、面白そうなので引き受けるか。
ただ残念なのは、今日は母さんと遊ぶ気分となっていたのに遊べないことかな。
「そっか、それなら行ってくるよ」
「ありがと。それでね、できれば職業は盗賊で行ってほしいんだよ……」
そして少しの後、俺は名の疑問も持たずに盗賊に着替え、指定された場所へと来たのだった。
しばらく封印していたので、なんか久々の盗賊である。
何故封印してたかというと、俺の盗賊姿を見た母さんが『盗賊だなんて、あんたをそんな子に育てた覚えはないよ!』って言いかねなかったからである。
なにせ初期の頃の母さんはゲームを全然知らなかった。
とあるゲーム内NPCの親子がいたのだが、息子を放置していた母親にガチ説教をしたレベルである。
だが今の母さんはゲームにわりとなじんできた。
盗賊を指定してくるくらいだし、今日から俺の盗賊稼業は解禁である。
少し待つと指定された時間となり、誰かがやってきた。
小さなホビホビ族の女性で、緑色の髪を後ろでお団子に結んでいる。
容姿だけで言えばかしわもちにそっくりだが、目元を隠すマスクをしている。
もしやこの人は噂の……?
「怪盗カー、参上!」
怪盗かーさん嬢……じゃなくて怪カー!
まさか噂となっていたあの人にこんなところで会えるなんて。
母さんも用事がなければこの人に会えたのに惜しいことをしたものだ。
ちなみに今現在の俺の心の声は棒読みでお送りしています。
「タカ……じゃなくて君が今日の相棒かな?」
「はい?」
よくわからないことを言うかあさ……じゃなくて怪盗カー、ちゃんと説明してほしいものである。
「あの地図を持っているだろう?」
「あ、はい。これですかねえ」
「うむ、それはわたしの相棒となる証。それを手にしていると言うことは間違いない。君は本日、わたしと一緒に正義のために戦うのだ」
母さん渡された地図にそんな秘密があったなんて……代わりに来たせいでえらいことに巻き込まれちゃったようだ。
とりあえず来てしまったからには正義のために戦うしかないな。
詳しく話を聞こう。
「それで怪盗カーさん、俺は何をすれば?」
「わたしにさん付けは不要だ。どうしても呼び捨てが嫌ならば、ちゃん付けなら認めよう。
怪盗カーちゃん……なんかしまらない。
「では怪盗カー、俺は一体何をするんです?」
「本日は悪の大富豪の屋敷に踏み込む。そして宝を奪い、貧しい人たちに分け与えるのだ」
というわけで本日のミッションスタートである。
目的の場所へ向かいつつ、怪盗カーとコミュニケーションタイムである。
「それでタカシ君だったかな。君は彼女とかいるのかな?」
「いえ、まだ今の所は……」
「そうか、ならばまだ一人前ではないな。盗賊ならば女の子の心を盗んでこそだ。どこかに気になる人はいないのかね?」
「いやまあ今の所は……」
「それはいかんな。恋は人を活性化させる。恋せよ青年」
怪盗カー、三度の飯より恋バナか好き。
実のところゲーム内で気になる子はいるのだが。まだ何もないので話すこともない。
ここは話を変えてもらうべき。
「善処します。ところで今日忍び込む家の詳細を教えてください」
「そうだな。悪の大富豪の屋敷とは説明したな。そこは最新鋭の魔法セキュリティによって守られている。これまで2回潜入に失敗している。3度目の失敗は許されない」
怪盗カー、三度目の失敗は許されない。
2回の失敗が許される時点でわりと甘い気もするが。
「それで今回の潜入に勝算はあるんでしょうか? 怪盗カー、参加したからには俺は成功したいです」
「うむ、勝算は君だよタカシ君。これまで突破できなかった仕掛けも君がいれば突破できると踏んでいる」
「俺にそんな力があるでしょうか?」
「自分を信じるんだ。君にわたしの好きなこの言葉を送ろう。チャンスはピンチ」
怪盗カー、チャンスはピンチ。
俺の知っている言葉とは違うが、あの怪盗カーが間違うはずがない。
きっと深い意味があるのだろう。
あれ? ふと気づいたが、さっきも通った道をまた歩いている。
「あの、どこ向かってるんでしょう? なんだか同じところを歩いているような」
「しっ、きょろきょろしたら怪しまれるよ。のんびり散歩しているように装うんだ」
怪盗カー、散歩の振りして敵を欺く。
「わかりました」
「ところで君は学生さんだったかね。学校で素敵な出会いとかはないのかい?」
「え? なんで学生だって知ってるんです?」
「ふふ、わたしの怪盗でえたあべえすには何でも書いてあるんだよ」
怪盗カー、参照するは手書きのデータベース。
てか、さっきから執拗に俺のことを聞き出そうとしている。
あわよくば恋バナに持っていこうとしているな。
なにかしらのいい話題を出さなければ延々とループしそうだ。
よし、適当にでっちあげよう。
「実は夏休み明けに、友達が女の子を紹介してくれることになってるんですよ。まだ遠いけど楽しみで」
「ほおほお、それは待ち遠しいねえ。じゃあ楽しみにしてるよ。さて、そろそろいいだろう。目的地はこっちだよ」
俺の作戦は成功し、怪盗カーは恋バナを来月の楽しみにして本題に入ってくれるようだ。
なお来月になったら、紹介してくれる予定の子がいつの間にか彼氏を作ってたって設定で乗り切ろうと思う。
ごめんよ母さん、俺はずるい息子なのさ。
そしてついに目的地へと到着した。
なんとここは、俺と同じギルドメンバーの持ち家だった!
お金稼ぎが趣味で、強さを求めるより金を求めてゲームをしているホノゴモ・Iさんだ。
金儲けが好きと言っても悪人ではなく、気のいいおじさんなのだが……。
「怪盗カー、ちゃんと確認しておきたいのですが、ここが悪いお金持ちが住む屋敷なのですか?」
「ああそうだよ。世間的には善人を装っちゃあいるが、裏を見ればやばいもんさ。盗みにだましに殺しまで悪いことは一通りやってるよ」
たしかホノゴモさんのよくやっている職業も盗賊である。
盗賊の特技として、魔物からアイテムを盗むと言うものがある。
盗賊の特技として、敵を驚かして動きを止める猫騙しというものもある。
モンスターであればそのまま殺すのも普通だ。
つまり……あれ?
何故だろう、考えがうまくまとまらないと言うか、考えてはいけない気がする。
考えたら損をしてしまうような?
よし。怪盗カー、賛同させてもらうよその意見に。
「わかりました。それで、どこから侵入するんです?」
「こっちだよ。あの離れにある小屋の地下が屋敷と繋がってるんだ。見つからないようついてきな」
「わかりました」
見晴らしのいい広い庭。
俺と怪盗カー、散策しながらのんびり歩く。
おや? ちらっと見た屋敷の2階の窓に動く影見える。
よく見るとホノゴモさんがいて手を振っているので、俺も手を振りかえす。
怪盗カーも気づいたようで、立ち止まって丁寧にお辞儀をしていた。
そして……誰にも見つかることなく離れの小屋に到着した。
だが扉を開こうとしても動かない。
鍵穴も見当たらないな。
「どうやって開けるんでしょうね」
「今まではここでつまづいていんだが、今日はタカシ君、君がいる。わたしの体を持ち上げてくれないか」
「わかりました」
ホビホビ族の怪盗カー、三頭身なので軽々持ち上がる。
「えーと、もうちょっと上がる?」
「うん。よいしょ……」
「タカシ、力持ちになったねえ……。あ、もうちょい右……あ、行きすぎた……あ、そこで止まって」
頭上でカチッという心地よい音が聞こえた。
おそらくはなにかスイッチがあったのだろう。
「よし、鍵が開いたはずだよ。おろしとくれ」
怪盗カーを地面に置いてからドアに手をかけると、かちゃんと開いた。
「タカシ君、君がいてくれたおかげで初めてこの先に進めそうだよ」
なるほど、俺と怪盗カーの高さを合わせないと届かない位置にスイッチがあったんだな。
小屋の端の方にハシゴが見えるが、あれはおそらく使えない飾りなのだろう。
ゲームではよくあること、うんきっとそう。
さ、見つからないうちに入ってしまわねば。
小屋は物置のようで、庭を整備するであろう道具が並んでいる。
さて、ここからどうするのか。
「怪盗カー、地下への入り口はどこでしょうか?」
「こいつで探すから待ってな」
怪盗カーがポシェットから取り出したのは、『へ』の字の形をした金属の棒らしきもの2本。
それをドヤ顔で両手に構えた。
これはダウジングロッドというやつかな。
宝探しに使う定番アイテムだ。
怪盗カー、散策開始だ。
部屋のあちこちを動き回るちっこい姿はなんとも可愛らしい。
やがて怪盗カーは、床のある場所の上で止まった。
そこは正方形の板の様なものが床に置いてあり、取手の様なつかめそうな部分がある。
「見つけたよ。この下が地下道だよに間違いないね」
「さすが怪盗カー、讃美の言葉を送ります」
「ふふっ、この程度ちゃんちゃらおかしいね」
というわけで無事に地下への道を見つけた俺たちは、取手を持ち上げて蓋を開けて中へ潜入するのであった。
地下に降りるとせまい一本道。
怪盗カーを先頭にドラクエ歩きだ。
そんな長い道でもないのであっという間に終点のハシゴにたどり着く。
そこで怪盗カーはくるっとこっちに向き直り、真剣な表情で口を開いた。
「タカシ君、ここから先は命の保証はできない。覚悟はいいか?」
「もちろんです。ここまで来て怖気つきやしませんぜ」
ここに潜入すると決めた時から命など惜しくはない。
自分のキャラを見失って、悪役の下っ端っぽい口調になってしまったが気にしない。
「その言葉が聞きたかった……行くよ!」
「へい!」
この先に何が仕込んで……じゃなくて待ち受けているのかドキドキわくわしながらハシゴを登る。
果たしてどんなお宝があるのかなー。
登り切ってどこかの部屋に出た。
見た感じ普通の西洋風の部屋である。
振り返って今来た方を見ると、どうやら暖炉が地下への秘密の入り口になっているようだ。
「なるほどな、こういう仕掛けになっていたのか」
怪盗カーが言うこの言葉は、うちの母さんも大好きな某ドラマ『便乗怪盗、暗黒ゼイド』の主人公ゼイドがよく言っている台詞である。
怪盗カーはうちのかーさんと気が合いそうだ。
ほんと用事があって来れなかったのが残念で仕方ない。
さてさて、次はどこに向かうのかな?
「怪盗カー、ここからどこへ?」
「慌てちゃダメだよ。まずは周りをよく観察してご覧。あたしには既に見えてるよ」
俺はきょろきょろと周りを見渡すが何も見えない。
怪盗カーには見えて俺に見えないってことは……下の方か?
視点を下げて周囲を見渡すとそれが目に入った。
「見つけたようだね」
小さな案内板のようなものが置いてあり、赤い矢印と共に『宝物はこちら』と書かれている。
あからさま過ぎるので逆に罠という可能性もあるのではなかろうか。
「怪しいですね。罠だったりしませんか?」
「いいや、あたしの勘だとこれは本物だね。恐らくこの家は広いから、家主は宝の隠し場所を忘れないように目印をつけておいたんだよ」
家主のホノゴモさんは背の高いエルフ族である。
まるでホビホビ族に合わせたようなこの高さに目印をつけるだろうか。
もしかすると普段の生活の邪魔にならないように低くしてるのかもしれない。
よし、そういう設定と思おう。
「なるほど。でも侵入者に使われてしまうとはなかなか間抜けな家主ですね」
「ふふ、ここから侵入されるなんて思ってもなかったんだろうね。じゃあ行くよ」
矢印の先にはドアがある。
怪盗カーは迷わずそこに向かって歩き、ドアを開けて普通に出た。
「おじゃましまーす」
「おじゃましまーす」
怪盗カー、ちゃんと礼儀正しく挨拶。
もちろん後に続く俺もそれにならって挨拶だ。
それがよかったようで、怪盗カーは振り返っていいねのポーズ。
さて、廊下にもちゃんと目印の矢印がある。
この廊下から見渡すだけでかなりの数の部屋があるとわかるので、案内板はとてもありがたい。
ホノゴモさんに後でお礼を言っておこう。
廊下にはいろんな絵や彫刻が置いてある。
美術品の価値はよくわからないが、恐らく高いものなのだろう。
怪盗カーはさすがにそういったものに精通しているのか、順番に見ながら感嘆のため息を漏らしている。
そしてひとつの絵の前で立ち止まって指を差した。
「タカシ、げっこう。ほら、げっこう」
指差すその絵は「月光」という名前なのだろうか。
料理人らしき女性が手にするフライパンには目玉焼きらしきもの。
それを天高く掲げていて、まるで夜空に浮かぶ月に見えなくもない。
「いい絵ですね」
「そうだろうそうだろう」
怪盗カーはまるで自分が描いた絵が誉められたかのように嬉しそう。
なにか思い入れのある絵なのかもしれない。
ガチャッ。
その時不意にひとつのドアが開いた。
隠れる間も無く、中から一体のタルタルが現れる。
おそらくこの屋敷の警備員だろう。
あ、知らない人のために説明しておくと、タルタルというのは高性能な魔導兵器である。
体も頭も手足も樽で出来ているコミカルな見た目。
正式には樽型Tactical Auto Robot、略して樽TARという名称らしいが、みんなタルタルって呼んでる。
兵器と言っても戦いだけでなくお手伝いとかの仕事もこなせる便利な子たちである。
「やばいね、変装するよ」
怪盗カーはポシェットから木の枝のようなものを2本取り出す。
そしてそれらを両手に持って、立ち木のポーズ。
昔ヨガにはまった母さんがやっているのを見たことがあるやつだ。
すごい……もう観葉植物にしか見えない。
『ドチラサマデスカ』
警備タルタルは俺と観葉植物を交互に見ながら話しかけてきた。
変装セットを持っていなかった俺はなんとかして切り抜けるしかない。
巧みな話術を見せてやるぜ。
「あ、カーターです。ほら、ホノゴモさんと同じギルドメンバーの」
『ビビビ……照会完了。確カニアナタはカーター様。それとーー』
「ヘックショーイ! ちきしょーめぇ!
『デハオ二人トモ、ゴユックリドウゾ』
なんか急に観葉植物が大きな音を立ててびびったが、タルタルは去っていってくれた。
なんとかピンチを切り抜けたようだ。
変装を解いた怪盗カーが感心したような顔で拍手をしてきた。
「お見事だよカーター君、あのピンチをあっさり乗り切るとは」
「どうも怪盗カー、ちゃんちゃらおかしいぜ、ってやつですよ」
「はっはっは、そうかいそうかい。では急いで向かうよ」
警備タルタルに一度見られた以上、時間は残り少ない。
急いで目的を達成するべく宝物庫へと向かう。
矢印に従い廊下を歩き、階段をのぼりまた歩く……。
そしてついに宝物庫にたどり着いた。
『宝物庫』と書かれた看板が横に置いてあるので間違いない。
怪盗カーがドアノブに手をかけると、鍵はかかっていないようだった。
罠を警戒することもなく普通に入る。
「おじゃましまーす」
「おじゃましまーす」
中には宝石やら金塊やら、様々な価値ある品が所狭しと置いてある。
そして部屋の中心には宝箱があり、横には看板が立っている。
『今日の怪盗に盗られたら困るお宝はこれ』
ふむ、家主のホノゴモさんは何にでも分かりやすく目印をつける人のようだ。
なんともありがたい。
「ようやく見つけたね。さあ、急いで取ってずらかるよ」
怪盗カーが箱を開けると、封筒のようなものが入っていた。
だがそれを取ると同時に警報のようなものが鳴り始めた。
最後の最後に罠があったようだ。
「あの窓から急いで逃げるよ! 先に行っておくれ」
「はい!」
俺は窓に走って行き、鍵を開ける。
だがそこで絶望的な事実に気づいてしまった。
よく考えたらここは……。
「怪盗カー3階です!」
「かい?」
「いやあの、ここは3階です」
「ふふ、そんなの承知の上さ。でも今日は大丈夫なんだよ。なんせ今日この屋敷では避難訓練をしてるからね。見てみな」
避難訓練?
窓を開けて下を見下ろすと、なんと巨大なマットのようなものが敷いてあるのが見えた。
周囲にはたくさんのタルタルたちがいるようで、俺とカーさんがわいわいしている間に準備していたのだろう。
「ほんとだ、飛び降りても平気そうです」
「よし、じゃあ背翼の陣でいくよ!」
「え、それはどんな? うおっ!」
背翼の陣がどんなものか聞こうとしたら、怪盗カーは俺の背中に飛びついてきた。
怪盗カーが俺の背中で翼となる……これが背翼の陣か!
お前が俺の翼だ、とか言って告白するアニメが一瞬頭をよぎる。
「よくわからがなんとかなれー!」
俺はなんでもできちゃう魔法の言葉と共に窓からダイブした。
そしてマットの中心に飛び込み、一回ジャンプ。
そのままかっこよく着地を決めたのである。
俺の華麗なる着地に周囲のタルタルたちが囃し立てながら拍手をしてくれる。
「いやあどーもどーも」
「ふふ、あんたの後ろであたしがバランサーとなる。これぞ背翼の陣だよ」
よし、無事に飛び降りれたしこのまま逃亡だ。
怪盗カーをおんぶしたまま俺は門までダッシュした。
このまま脱出してしまえはミッションは完了だ。
特に追手が来るでもなく、俺とカーは無事に脱出したのだった。
「さあ怪盗カー、安全なところまで来ましたよ」
「ああ……でもあたしとしたことがやっちまったよ……」
後ろから悲壮感漂う声が聞こえる。
一体何があったのか。
「どうしたんです?」
「逃げる時にマスク落としちゃったんだよ。これは怪盗カー、三度目のピンチだね」
怪盗カーちゃん素はピンチ。
怪盗のマスクというのはたいてい、目元を隠すだけで全てを偽ることができる。
例えば俺の母さんと怪盗カーは姿形やら髪型やら声やらはそっくりだが、マスクをしていることで別人と判別できる。
そのマスクがなくなるというのは、最終回以外にあり得ないのだ
「やばいですね、何か代わりのものを探しましょうか」
「いや、今日はこのまま退散するからそれには及ばないよ。それよりこれを受け取りたまえ」
背後から差し出されるのは、先程宝箱に入っていた封筒のようなものである。
「これは?」
「中身を確認したのだが、私には無用の長物だ。今回は君と君の大切な人のために譲ろうと思う」
「はあ……」
「では目を閉じてくれるか。30秒でいい」
怪盗カー、30秒目を閉じている間に姿を消した。
いや、よく見たら遠くの方に背中が見えてるな。
3分くらいにしとけばよかったのに……。
そしてしばらく見ていると怪盗カーは角を曲がって消えていった。
俺はなんとなく、その消えた方角をしばし眺めるのだった。
すると、その角から見覚えのある人影がやってきた。
どうやらあれは俺の母さんことかしわもちのようだ。
俺に向かって手を振りながら歩いてきた。
「タカシー、なんとか用事終わったよー。なにか面白いものはあったかい?」
「怪盗カーに会ったよ」
「ええ! あの怪盗カーにかい? あー、おしかったなあ。あたしも会いたかったよー」
「はは、また会えるチャンスはあるよ」
「そうだね、ところでそれはなんだい?」
かしわもちは俺が手にしている封筒を指差す。
なんだろう?
「怪盗カーと一緒に見つけた戦利品だよ。なにかわからないんで今から開けるよ」
「へー、それが宝物かい。ワクワクだね」
封筒を開けると、招待状のようなものが入っていた。
『豪華な夕食にご招待ペアチケット。ホノゴノ邸にて』
「ホノゴノさんの家でご馳走を食べられるみたいだね」
「へー、いいもんだね。誰か誘う相手はいるのかい?」
誘いたい相手……一人の女の子の顔がふと頭をよぎる。
とはいえ俺は空気の読める子。
「母さん、一緒にどうだい?」
「あらあら……あたしでいいのかい?」
「もちろん。今日は用事で遊べなかったし、今からでも楽しもうよ」
「ふふ、そうだね」
こうして俺と母さんは、ホノゴノさん宅にて豪華な料理をご馳走になるのだった。
美味しいし楽しい、とても素晴らしい食事会だったとさ。
さてあとはお約束の一言。
怪盗カー……知り合いのような気もするけど一体誰なんだろう?
そういえば、気になることが一つ。
ふと庭を見たときに、トイレに行くといった母さんが何かを探すように歩いていてなにかを拾っていた。
ポシェットに収めているそれはどこか見覚えのある布切れだったが、なにか思い出せない。
まあその程度のことなんですぐ記憶からは消え去ったのであったとさ。
気が向いた方は続編も読んでみていただけると嬉しいです。母さんのキャラが強すぎるのでかなり後の方まで出すのを我慢していたのですが、初登場以降は頻繁に出てきます。なんていうか、書いてて楽しすぎるのがかしわもちです。




