おまけ2 カーチャンは恋のキューピッド?
新作書いたので布石的なお話です
ムーンリザードのポイズンブレス!
かしわもちは38のダメージを受けた。
かしわもちは毒状態になった。
「お母様大丈夫ですか!?」
「あわわわ! なんか体が紫色になってるよ。これどうなっちゃうの?」
「3秒ごとにHPが3ずつ減っていくんだ。そのままほっておいたら死んじゃうよ」
「えええ! あたしのHP258だから258秒後には死んじゃうじゃないか」
「とりあえずこいつを倒すよ。はああああ!」
ユースの月光! ムーンリザードに1483のダメージ。
ユースはムーンリザードを倒した。
「さすがゆうすけは強いねえ。最後にお前の雄姿を見られて母さん嬉しいよ……」
「何言ってるの母さん、気をしっかり持って!」
「でも欲を言うなら、孫とまでは言わないけどお嫁さんは見たかったねえ」
「お母様、わたしがユース君のお嫁さんになります!」
「それは嬉しいねえ……。でもあたしにはもうひとり息子がいるんだよ。タカシのお嫁さんも見たいなあ……。ああ、もうHPが100切ったよ」
「とりあえず回復しますね。キュア!」
クーピーのキュア。かしわもちのHPが200回復。
「ありがとくーちゃん。思ったより遺言言う時間が無いんだねえ。とりあえず死ぬ前にタカシに相手が見つからないかなあ。あ、でもそんな時間ないかあ」
「大丈夫ですわお母様。相手を見つけて婚姻届を書けば、システムメニューのその他に結婚という項目があります。本当によろしいですか? の選択に5回ほどはいを選べばすぐです」
「そうかい……便利な時代になったねえ……」
「あ、でもはいといいえのカーソルの初期位置がランダムなのでそこには注意が必要です」
「なんかめんどくさそうだね……まあいいや。じゃああとは相手を……あ、そこゆく旅のお方。ちょっといい話があるんだけどどうだい?」
そう言って虚空に話しかけるかしわもち。
毒が脳にまで回ったのだろうか。
まるでそこに誰かがいるかのように話を続ける。
「かくかくしかじかでねえ、最後に息子がお嫁さんと一緒にいる姿を見たいんだよ……ああ、もう毒で死んじゃうよ……ぐわあああああ……がくっ」
かしわだいーん!
そのまま力尽きたように目を閉じるかしわもち。
おそらくなんやかんやのうちに時間経過で毒が治っているはずなので死んではないだろう。
そして数秒後に目を開けて起き上がる。
「よーし、こんなもんでいいかねえ」
「素晴らしいですわお母様」
「うーん、いいのかなあ……」
「ばっちりだよ。これがうまくいけばきっとすごいことになるよ。じゃあさっそく良さげな人を探して本番と行こうか」
えーと……あれはいったいなんだろうか?
たまたま歩いていたら、母さんがゆかいな仲間たち一行を見かけて隠れて見ていたのだが……わけがわからない。
このゲーム内でああいうロールプレイをしている人らは割といるし、俺も友達と中二病的な会話や演技を楽しむことはある。
ただ、あの感じだと誰か他人を巻き込もうとしているようにも見える。
うーん……まさかと思うがあれで誰かを騙して俺に彼女をあてがおうとしているのではなかろうか。
たしかに弟のゆうすけに彼女ができてうらやましいというのはあるが、ゲーム内で母親のお世話になって彼女を作りたくはないぞ。
とりあえず……見なかったことにして遊ぶことにした。
今日はのんびりと釣りをしてお小遣い稼ぎをする予定なんだ。
景色のいいお気に入りの海辺へ移動だ。
うーん、釣りはやはり楽しい。
なにがいいって、VR世界だからリアルと違って準備しなくていいことだな。
欲を言えば女の子とキャッキャウフフしながら釣りたいところだが。
おし、大物のタイが釣れたぞ。
「キャー! だれかたすけてくださいニャー!」
不意に女の子の悲鳴が聞こえてきた。
語尾にニャーとつけているってことは俺の大好きなニャコラ族に違いない。
振り向くと3体のゴブリンに追われている猫耳少女が走ってきた。
このあたりのモンスターは今の俺のレベルからすると雑魚だ。
こういう時に人助けをするのもオンラインゲームの醍醐味。
俺は剣を構えてちゃちゃっと1体のゴブリンに攻撃し、他の2体のゴブリンにボウガンを放つと、3体のゴブリンは攻撃対象を俺に変えた。
「あ、あの……ありがとうですニャ」
剣でゴブリンの相手をしていると、背後から声が聞こえてきた。
ここはかっこよく決めておこうか。
左手を上げて軽く振る。
「すぐ終わるから待ってて」
「はいですニャ!」
よし、なんとなくかっこいいぞ俺。
そのままあっさりと3体のゴブリンをやっつけた。
振り返ると、助けたニャコラっ娘がキラキラした目で俺を見つめている。
これは素敵な出会いの予感。
「ありがとうですニャ。レベル上げしてたらからまれちゃって、逃げてたらどんどんリンクしちゃいまして」
ゴブリンは戦闘中の仲間を見つけると参戦してくる。それをリンクと呼ぶ。
そういった用語を使いこなすということは、この子は初心者ではなさそうだ。
低いレベルの職業に着替えてレベル上げをしていたのだろう。
さあ、紳士的に対応しようか。
「どういたしまして。あ、レベル上げ続けるならこのあたりでしたらいいですよ。また何かあったら助けてあげられるし、俺はしばらく釣りしてるんで」
「わあ、ありがとうございますニャ。あ、でもどうせなら一緒に釣りしていいですかなニャ?」
これはもしやデートのお誘い的なあれか?
レベル上げより俺と釣りをして仲良くなりたい的な……。
もしや俺の時代到来なのか?
「うん、どうぞ。ここは景色が良くてお気に入りの釣りスポットなんです。釣りの効率はそこまで良くないんだけどね」
「わあ……たしかにいい景色ですにゃあ。えへへ、楽しく釣りできそうニャー。あ、うちはニャーノと申しますニャ」
「あ、俺はカーターです。よろしく」
軽く自己紹介もすませ、2人で並んで釣竿をかまえた。
いいなあこの状態。俺の憧れの状況である。
さて、何を話そうかな……と思ったところ、ニャーノさんから話題をふってきた。
「カーターさんはバージョンアップ情報とかチェックしてますか?」
「あー、そこまで細かくはチェックしてないかな。なにか面白い情報があるんですか?」
「実はですニャ、そのうち子供を作ることができるようになるという噂があるのです。結婚だけでなくついに子育てもゲーム内でできるんですよ。素敵ですにゃあ」
噂……だれかが流したデマという可能性も大きいぞ。
とはいえこのゲーム、戦闘を一切せず生活だけを楽しめることでも有名だ。
子育てシミュレーションを搭載してもおかしくはない気がする。
とりあえず無難な返事をしておこう。
「それが本当なら面白いことになりそうですね」
「ですよねー、でも子供を作るにはまず結婚相手を探さなくちゃニャのですよ」
「そういう相手はまだいないんですか?」
「はいにゃあ。どこかにいい人いニャいかなー。わあ、釣れたニャー」
これはあれか、もしや俺は結婚候補として誘われているのだろうか。
意識すると、魚を手にはしゃぐニャーノさんがとてもかわいく見えてきた。
まずはお友達になっておこうと俺の本能が訴えてくる。
とりあえず彼女の公開プロフィールを拝見させていただくべくメニューを開く。
『猫好きなので中身は男ですけどニャコラしてます。真性のネカマじゃなくてロールプレイです。あ、にゃー』
男かいっ!
心の中で盛大に突っ込む。
まあこういうネットの世界であれば、中身が男のほうが男心をくすぐる女性を演じてくれるとは言うが……。
どうせならリアル中身も女がいいなあ。
「カーターさん、カーターさん、よかったらこれをどうぞですにゃあ」
少しボーッとしていた俺にニャーノさんが渡してきたのはお魚のフライだった。
これは食べることで釣りのスキルが少しの間上昇するという、釣りのお供に最適なアイテムだ。
そこそこの調理スキルが必要なので俺には作れない代物なわけだが、いつの間にか横で作ってたのか。
「おお、いいんですか?」
「はい、さっき助けてくれたお礼ですニャー」
「では遠慮なく……。うん、おいしいです」
「えへへ、よかったですニャー」
うーん、美味しいし楽しい。
花嫁修業に調理スキルをあげている女の子、という俺の妄想が膨らむ。
いやいや、相手は中身男だしよく考えねば。
「そうだカーターさん、よかったらフレンド登録してくださいニャー」
「あ、はい。そうですね……」
これはお友達から始めていずれは的なあれだろうか。
いったいどうするべきか……。
悩む俺に対し、心の中に潜む悪魔が囁きかけてきた。
『ここはVR世界なんだぜ。男とか気にせずニャコラといちゃつけると考えろよ。猫耳やしっぽをもふもふし放題だぞ』
まあ確かにそうだ。
ニャコラスキーな俺としてはそういう相手がいるだけで楽しそう。
『それに飽きたら捨てちまえばいいんだよ。相手は男なんだし、心だって痛まないさ。所詮は恋人ごっこよ』
うーん、それはどうだろうか。
でもリアル女子よりは別れやすいかもな。
なんて考える俺に、今度は心の中の天使が囁きかけてきた。
『そんなのだめ! たとえ相手が男でも真剣に付き合うことを考えるべきよ。それが愛よ青春よBLよ!』
最後の方はあれとして、確かにいい加減にお付き合いはダメだよな。
『そうそう、ちゃんと将来のことも考えて決めなさい。子育ては大変なのよ』
うーん……もっといい意見を出してくれる心の中の誰かはいないかな。
そんな俺に、心の中のカーチャンが話しかけてきた。
『タカシー、母さんねー、孫は女の子がいいなー』
まあそこは同意見である。
小さい頃弟のゆうすけの面倒を見たこともあって、次は女の子を愛でたい。
ここで悪魔の囁きが畳み掛けてくる。
『よし、付き合う意見は2票だ。多数決で決まりだな』
そうなってしまうのか。
しかし天使が負けじと対抗してきた。
『ふっ、やはりあなたは馬鹿ね。そもそもわたしは賛成派よ。よって3対0で可決。これにて閉廷!』
心の中の会議はこれで完了した。
とりあえずお友達にはなっておこう。
相手が男であろうと友達が増えるのはいいことなのである。
その時ふと、俺の後ろの茂みがざわついた。
まるで誰かが隠れているような気配を感じる。
この時俺は気がついた。そう、気がついてしまったのだ。
このニャーノさんは劇団かしわもちが放った刺客だということに……。
「どうかされましたかニャ?」
はっと気がつくと、ニャーノさんが俺の顔を覗き込んで不思議そうな顔をしていた。
頭上に?マークでも浮かんでそうな表情がまた可愛らしい。
ちょっと妄想が長引いてしまったようだな。
ちゃんとお返事をしよう。
「ああすいません、俺で良かったらフレンド登録しましょう」
「わあ、嬉しいですニャ、よろしくおねがいしますね」
八重歯を見せながらニッコリと微笑む顔がまた可愛らしい。
中身が男であろうと仲良くしておきたいなと思う俺であった。
もちろんお友達としてだ。
劇団かしわもちの手のひらで踊るつもりはない。
「キャー!」
不意に聞こえてくる女性の悲鳴。
また低レベルな冒険者がゴブリンにでも追いかけられているのだろうか。
ニャーノさんと一緒に声のした方へ向かってみた。
たどり着いた場所にいたのは、1匹のリザードの死体と倒れた女性。
女性は生きてはいるものの毒を食らっているようだ。
どうやらモンスターの毒を食らいつつも、なんとか倒したと言ったところだろうか。
こいつの毒はなかなか厄介で、俺もレベルの低い時に殺されたことがある。
「うう……わたしはもうだめです。そこのあなた、最後の願いを聞いていただけませんか?」
俺を見た女性が苦しそうに話しかけてきた。
なおこのゲーム、毒を食らったからって苦しいわけでもないし、死んだからって低レベルならばそこまで重いペナルティがあるわけでもない。
まあそういうロールプレイかもしれないし話を聞いてみるか。
「最後の願いとは?」
「わたし……死ぬ前に結婚してみたかったんです。どうか……おねがいします!」
その手に握られているのは婚姻届?
お役所の受付に行けばすぐもらえると聞いたことはあるが、なんでこんなものを持ち歩いているのだこの人は。
なお死んでもすぐに街で復帰できるので、言われるまま結婚しようものなら、そのまま生きた夫婦の完成である。
「結婚! わたしじゃだめですかニャ?」
ニャーノさんが結婚という言葉に食いついてきた。
この人は女同士でもいいのか。
てか結婚できるのだろうか……。
「あ、あの……女同士はさすがに……。そっちの男性の方で……」
「大丈夫ですニャ、愛があれば同性婚もできるゲームなのです。それにもうすぐ死んじゃうんだからより好みしてる場合じゃないですニャー!」
どうやらできるらしい。
それにしてもこの状況なんなんだよ……。
その時ふと、俺の後ろの茂みがざわついた。
まるでだれかが隠れているような気配を感じて振り向き……俺は見なかったことにした。
なんとかしわもちによく似たホビホビ族が立っていたのだ。
手に木の枝を持ったその姿はまるで学芸会における木の役をしている小学生のよう。
その表情からは、絶対にばれない変装をしているという自信が満ちあふれていた。
あまりにあからさますぎたので見ないふりをする以外に何もできない……なんと恐ろしい攻撃なのか。
つまりニャーノさんは劇団かしわもちの刺客ではなく、こっちの女性が本物だったのか。
ふう、ニャーノさんを疑って冷たい態度とったりしないでよかった。
ただ……さっきニャーノさんと話してた時に背後がざわついたとか気配を感じるとか、誰もいなかった場所で勘違いしてかっこつけてた自分が恥ずかしい……。
とりあえずは……なんか面白そうだし成り行きに任せるか。
「ああ……もうすぐ死んでしまう……。よいしょ……」
倒れている女性は懐から回復薬を取り出して飲み、HPが回復した。
この感じだと、死んでしまう前に毒の効果時間が切れるだろうな。
さあどうなるのか。
『タカシ……聞こえますか? 今あなたの心に直接話しかけています……』
どこかから声が……というか思い切り背後から声が聞こえてきた。
ニャーノさんにも聞こえているようで、何事かと彼女も振り向いた。
そして……何も見てないよといった顔で倒れている女性の方に向き直った。
やはり常人はあれを見ると、なかったことにしようと脳の防衛反応が働くのだろう。
『タカシ……素直になるのです。その女性の願いを聞けばあなたも幸せになれますよ……』
困ったなあ、どうしよう。
このままでは俺も劇団かしわもちに仮入団する羽目になる。
俺がなにか言うかしないと話が進まないしどうしたら……。
とその時、アラーム音のような音が俺の頭に鳴り響いた。
これは……警告アラーム?
『身体の異常を検知しました。まもなく強制ログアウトを開始します』
機械音声が聞こえつつ、俺の頭上にビックリマーク入りの赤い玉、通称赤玉が浮かぶ。
これは現実の俺の体になにかあったことを知らせる安全のための機能だ。
俺以外にも見えるので、ニャーノさんがそれに気づいて心配そうな顔をしてくれた。
「ニャッ!? カーターさん大丈夫ですか?」
「うーん、何があったかわかんないですがちょっと落ちてきます」
「じゃあ後でメッセージ飛ばしてくださいニャ。このお方はわたしが責任持って結婚しておきますニャ」
「え? いやあの……。と、というかあなたのお母様が死んでしまう前に晴れ姿を見せてあげないと……」
倒れている女性も今の俺の状況に気づいて戸惑っておられる、っていうかさっきの母さんの死にかけの演技を見て本気で信じてるのか?
とりあえず毒はもう治ってるようなので問題はないだろう。
あとは……と後ろをなんとなく振り向くと、かしわもちにクーピーちゃんが耳打ちしているのが見えた。
おそらく今の状況を説明しているのだろう。
「タカシー!」
なんか急にこっちに向かって走ってきた。
おそらく説明をうまく理解できずに俺がピンチと思ったのだろう。
木のふりをするのをやめて勢いよく走ってくる。
そして俺に向かって抱きつくように飛びついてきた瞬間……。
『強制ログアウト完了しました』
こうして俺はゲーム世界から現実へと帰還した。
おそらくゲーム世界では、かしわもちが俺に飛びついた瞬間、俺が消えるという某映画のラストシーンみたいな展開になっているのだろう。
そのへんはゆうすけ達に任せるとして、まずは自分の体を確認だ。
結果……右手が腰の下に入ってしまっていて圧迫されていたようだ。
痺れてしまって感覚がないが、普通に寝ている時になったこともあるのでそのうち治るだろう。
とりあえずすぐゲームに戻るのはやめておこうか。
俺はノートパソコンのもとへ向かい、エターナルファンタジーのサポートアプリを立ち上げた。
ここからフレンドとかにメッセージを送れる。
急用を思い出して落ちてしまったときなど、PCやスマホからゲーム内にメッセージが飛ばせるので便利である。
ニャーノさんに『手首を寝違えただけでたいした緊急事態じゃありませんでした。また今度遊びましょう』と送信。
さて、なんだかんだでいい時間となっているので今日はもう寝るとするか。
今日も母さんの謎行動のおかげで楽しいゲームない生活を過ごせたな。
最後はギャグ漫画によくあるはちゃめちゃぶったぎりエンドだったがな。
しかし……ほんと恋人欲しいな。
ゲーム内ではなく現実で、さらに欲を言えばその恋人と一緒にゲームをしたい。
なんて考えながら眠りにつく。
このときの俺はまだ知らなかった。
この夏、素敵な出会いが待っていて楽しい夏になるってことを……。
だったらいいのに……。
おやすみ。
探してみてください。




