壊れたもの
俺とカイエンは、広場から少し離れた場所に移動して話をしていた。
「手分けして探そう。この広場で午後三時ごろ落ち合おう」
「……わかった。恩に着る」
カイエンは少しだけ警戒した目で俺を見たが、結局頷いて去っていった。
俺は広場を後にし、街の外れに向かった。
(アセンダント。カイエンが目を覚ましたという場所の近くで、何か変なものはないか?)
『ハルト様、郊外の南東方面に、通常ではありえない損傷を受けた輸送用トラックが確認されております。そちらに向かうことを推奨します』
アセンダントの声は、いつも通り淡々としていた。
街の郊外、ほとんど人の通らない片隅に、俺はついにそれを見つけた。
大型の電気トラックが、大きく傾いて止まっていた。
車体は大きく歪み、側面がへこみ、ガラスも粉々に割れている。
この街では、絶対に見ることのない光景だった。
「……事故?」
俺は訝しげに近づいていった。
運転席は空で、後部荷台の扉が半開きになっていた。
中を覗き込むと、いくつかの荷物と、四つの人型をしたものが転がっていた。
最初は人間だと思った。
しかし、すぐにそれが違うとわかった。
皮膚のような外装がところどころ剥がれ、金属の骨格や配線がむき出しになっている。
関節の部分が不自然に曲がり、頭部はひび割れて中身が覗いていた。
明らかに、生きてはいない。
しかも、その外見の特徴が、カイエンが必死に探していた人物たちと一致していた。
背が高く色黒の短髪のもの。
小柄で頰に傷のあるもの。
赤茶のポニーテールだったもの。
黒髪のロングヘアの色白のもの。
全部、壊れていた。
(これが……カイエンの仲間か?)
俺は思わず後ずさった。
『ハルト様。これらはただの損傷した作業用アンドロイドです。
この街では、稀にこういった廃棄物が残されることがあります』
アセンダントの声が、静かに響いた。
作業用アンドロイド……?
確かに、見た目は機械だ。
人間ではない。
でも、カイエンがあれだけ必死に探していた相手が、ただの壊れた機械だったというのか。
つまり、カイエンもアンドロイドなのか?
俺は、胸の奥でざわつくものを抑えきれなかった。
広場に戻る道中、俺はあることを思いついた。
(もしカイエンがアンドロイドなら、何か判別する方法があるはずだ)
「アセンダント、作業用アンドロイドを判別する方法について何か知らないか?」
『はい。作業用アンドロイドであれば痛みを感じません。また、人間と違い道徳的な価値観を持ち合わせてはいません。
例えば、腕を強く握って反応を見る。
または、大切な人と見知らぬ誰かを天秤にかけて、どちらを取るか質問をするなどの方法が考えられます』
「……なるほど」
広場に戻ったとき、カイエンはすでに待っていた。
「どうだった?」
「……すまない、何もわからなかった。お前の方は?」
カイエンは肩を落として首を振った。
「同じだ。誰一人、知ってる奴はいなかった」
俺は少しの間、沈黙したあと、静かに聞いた。
「……お前、痛みを感じるか?」
カイエンは少し不思議そうな顔をした。
「痛み? 急に何を……」
「例えば、今、俺がこうやってお前の腕を強く掴んだら……」
俺は、彼の左腕を思いきり掴んだ。
カイエンは一瞬、顔をしかめたが、すぐに表情を消した。
「……別に、なんともない」
「なんともない?」
「痛みは、特に感じない。……なんでそんなこと聞くんだ?」
俺は、さらに続けた。
「じゃあ、聞くが……お前が仲間を探してるとして、
もしその仲間を助けるために、街の誰か一人を殺さなきゃいけないとしたら、どうする?」
カイエンは、わずかに眉を寄せた。
「……殺す」
答えは、迷いなく出た。
背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
俺は静かに手を離した。
「……わかった」
「おい……どうしたんだ? 急にさっきからおかしいぞ?」
「なんでもない。ただ、少し疲れただけだ」
俺は話を逸らした。
「今日のところは、もう解散にしよう。
また何かあったら、声をかける」
カイエンは、俺の顔をじっと見つめてきた。
「……お前、なんか変だぞ」
「気のせいだろ」
俺は、それ以上何も言わずにその場を離れた。
カイエンは、しばらく広場に残ったまま、俺の背中を見送っていた。
―――――――
その夜、カイエンは一人で街を歩いていた。
(……変だった)
高嶺ハルトの態度の変化が、どうしても引っかかっていた。
急に冷たくなり、質問も意味不明だった。
まるで、何かを試しているような感じがした。
カイエンは、ふと思い立って足を止めた。
(……あいつが探してた場所、確か南東の方だったよな)
こっそり、ハルトが向かった方向へと足を向けた。
街の外れ、ほとんど人通りのない場所。
そこに、大きく傾いた輸送用トラックがあった。
カイエンは、ゆっくりと近づいていった。
荷台の中を覗き込んだ瞬間、彼の動きが止まった。
「……嘘だろ」
そこには、四つの人影があった。
しかし、それは「壊れたロボット」ではなかった。
アレックス。
リカルド。
エミリア。
ソフィア。
全員、血まみれで、動かなくなっていた。
カイエンは、膝をついた。
「……おい」
アレックスの肩を揺さぶった。
反応はない。
「……おい、起きろよ」
声が震えていた。
「……嘘だろ……お前ら……」
カイエンは、順番に四人の顔を確認した。
全員、すでに冷たくなっていた。
「……なんでだよ……」
拳を握りしめた。
「なんで、こんなことになってんだよ……!」
涙が、頰を伝った。
しかし、次の瞬間、カイエンの表情が歪んだ。
(……高嶺ハルト)
あいつは、ここに来ていた。
なのにこんな目立つようなトラックに気づかないわけはない。
絶対に知っていた。
なのに、俺に何も言わなかった。
むしろ、隠そうとしていた。
「……ちくしょう」
ゆっくりと立ち上がった。
この街を管理しているという存在。
ハルトが話しかけていた、管理AIアセンダント。
「……あいつら、全部繋がってんだな」
血まみれの手で顔を拭った。
「街には戻れない。
アセンダントがいる限り、俺は目をつけられる」
暗い目で夜の街を見下ろした。
「だが……いつまでも隠れてはいられねえ」
ゆっくりと拳を握りしめた。
「てめえらには……絶対に、報いを受けさせてやる」
夜の風が、冷たく吹き抜けていった。
次回の更新は7/11の18時を予定しています。




