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アセンダントの嘘 ~AI管理楽園で目覚める記憶と陰謀~  作者: アトミックフレア


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7/7

残る温もり

遅くなりましたが投稿します。

申し訳ございません!

朝、目を覚ました瞬間から、胸の奥がざわついていた。

昨夜別れたカイエンの顔と、街の外れで見た壊れた人型の残骸が、交互に浮かんでくる。

アセンダントは「ただの作業用アンドロイドです」と淡々と告げたが、あの光景が頭から離れない。

(カイエンとはもう関わらない。あいつは何かがおかしい。)

そう自分に言い聞かせてベッドから起き上がる。

でも、部屋にいるだけで息苦しくなってくる。

この街の「普通」が、急に遠く感じられた。


外に出て、なんとなく足が向いたのは、白峰澪(しらみねみお)と会話をしたあの公園だった。

ベンチに座っていると、予想通り、澪の姿があった。

茶髪のポニーテールが朝の光に揺れている。

「ハルトくん? こんな朝早くにどうしたの?」

澪はすぐにこちらに気づいて、柔らかい笑顔を向けてきた。

いつものように、少しだけ心配そうな目で俺の顔を覗き込んでくる。

「なんか、寝不足みたいだよ。

お姉さん、人の顔色が悪いってすぐ気づいちゃうんだ」

俺は小さく肩をすくめた。

「少し、気分が乗らないだけだ」

「そう? なら、今日はお姉さんが付き合ってあげるよ。

ほら、こんな顔してたらかわいそうだし」

澪は豊かな胸の前で軽く手を叩いて、にこっと笑った。

押しつけがましい感じではなく、ただ自然に「一緒にいよう」と誘ってくる。

俺は少し迷ったあと、口を開いた。

「……今日は、ちょっと遠くまで行ってみないか?

ゲームセンターとか」

澪は目を丸くした。

「ゲームセンター?お姉さん、こういうの全然詳しくなくて……本当にいいの?」

「いいよ。俺も久しぶりだし」

「うん……じゃあ、行ってみようか。

ハルトくんと一緒なら、きっと楽しいと思う!」

澪は少し照れくさそうに笑ったが、目には好奇心が浮かんでいた。

二人は公園を出て、街の歓楽街の方向へ歩き始めた。


澪は隣を歩きながら、いろいろと話しかけてくる。

「ゲームセンターって、どんな感じなんだろう。

音がすごいとか、明るいとか……想像しちゃう」

「まあ、だいたいそんな感じだよ。

シューティングゲームとか、クレーンゲームとかある」

「クレーンゲーム! お姉さん、テレビで見たことあるよ。

ぬいぐるみとか取れてる人、かっこいいなって思ってたの」

澪は少しはしゃいだ声で言った。

その様子を見ていると、俺の胸のざわつきが少しだけ和らぐ気がした。


歩きながら、ふと麗華のことが頭に浮かんだ。

(麗華と話してた時も、こんな風に時間を忘れて、心が安らいだっけ……)

あの頃は、ただ本の話をしたり、静かに座っているだけで心地よかった。

澪と一緒に歩いている今も、同じような温かさを感じる。

でも、どこかで「この気持ちも、いつまで続くんだろう」という考えが、頭の片隅に引っかかっていた。


ゲームセンターに着いたのは、歓楽街の少し外れにある古びた建物だった。

ネオンが点滅し、機械音とBGMが漏れ出している。

澪は入口の前で少し足を止めた。

「わあ……本当に来ちゃった。

なんか、ワクワクする」

「緊張してる?」

「ううん、ちょっとだけ。

でも、ハルトくんがいるから大丈夫」


中に入ると、予想通り騒がしい空間が広がっていた。

光がチカチカ点滅し、シューティングゲームの爆発音や、クレーンゲームのBGMが混ざり合っている。

澪は珍しそうに周りを見回しながら、俺の隣を離れようとしなかった。

「どれからやろうか?」

「えっと……お姉さん、まずはクレーンゲームがいいかも。

あの可愛いぬいぐるみ、取ってみたいな」

俺は小さく笑って、クレーンゲームの台に案内した。

澪は操作パネルを前にして、少し真剣な顔になった。

「これ、どうやって動かすの?」

「レバーを倒して、アームを動かして……

ボタンを押すと掴むよ」

「ふむふむ……」

澪は一生懸命に操作を覚えようとするが、最初の挑戦はあっさり失敗した。

ぬいぐるみがアームから滑り落ちる。

「うわっ……難しい!」

「慣れだよ。もう一回やってみ」

二回目も失敗したが、三回目でようやく小さなクマのぬいぐるみを掴むことに成功した。

「やった! 取れた!」

澪は嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめて、俺の方を向いた。

「ほら、ハルトくん! これ、あげる!」

「俺に?」

「うん。今日はお姉さんが誘ってくれたお礼みたいなものだよ。

……まあ、ちょっとおせっかいだったかもだけど」

澪は少し照れくさそうに笑った。

その笑顔を見ていると、俺は思わず手を伸ばしてぬいぐるしを受け取っていた。

「ありがとう」

「どういたしまして」


そのあと、シューティングゲームも一緒にプレイした。

澪は最初は操作に戸惑っていたが、すぐにコツを掴んで、意外と高得点を出した。

「意外と得意かも!」

「澪、結構やるな」

「えへへ。お姉さん、意外と器用なんだよ?」

ゲームの合間に、澪は俺の様子を何度か窺うように見てきた。

「ハルトくん、さっきよりちょっと笑ってるよ。

やっぱり、外に出てよかったね」

「……まあ、悪くない」

俺は素直にそう答えた。

澪は嬉しそうに目を細めた。

「よかった。

お姉さん、なんかハルトくんが元気なさそうに見えて、ずっと気になってたんだ。

無理に明るくしなくていいけど、こうやって一緒に遊んで、少しは楽になるといいなって」

その言葉に、俺は少しだけ胸が温かくなるのを感じた。

(麗華と話してた時も、こんな感じだったよな……)

ただ隣にいて、普通に話しているだけで、気持ちが軽くなる。


でも、その思いと同時に、第六話で見た壊れた人型の残骸が、ふと頭をよぎった。

(……この人も、本当に人間なのか?)

一瞬だけ、そんな考えが浮かんだが、すぐに押し殺した。

ゲームセンターを出たのは、午後三時を少し回った頃だった。

澪は満足そうに、俺の隣を歩いている。

「楽しかった。

お姉さん、ゲームセンターって初めてだったけど、思ったよりずっと面白かったよ。

また来ようね、ハルトくん」

「……ああ」

俺は小さく頷いた。


街を歩きながら、澪はまだ少し興奮した様子で話していた。

「次は、もっと難しいゲームに挑戦してみたいな。

お姉さん、負けず嫌いなところもあるんだよ?」

その声は明るくて、穏やかだった。


家に帰った後、部屋の明かりを落としてベッドに横になった。

今日の澪との時間は、確かに心地よかった。

あのぬいぐるみも、今は机の上に置いてある。

でも、目を閉じると、わずかに胸の奥がざわつき、左腕の奥が疼く。熱を持ったように熱く、じんわりと痛みが広がる。

(このまま、元の普通の生活に戻れるのか……?)

夜の部屋に、静かな闇が広がっていた。


次回の更新は13日18時を予定しています。

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