見知らぬ男
澪と別れてから、数日が経った。
公園で感じたわずかな温かさは、すぐに薄れてしまった。
またいつものように、ただ時間を潰すだけの日々が続いている。
ある日の午後、俺は街を歩いていた。
すると、広場の一角で少し騒がしい声が聞こえてきた。
人だかりができている。この街では珍しいことだった。
近づいてみると、一人の男が何人もの街の人に必死に声をかけていた。
「頼む……! 俺の仲間を探してるんだ! 男が二人、女が二人……五人組だった! この辺で見かけなかったか!?」
男の声は荒く、焦燥に満ちていた。服は汚れていて、目が血走っている。
どこか、普通ではない雰囲気を纏っていた。
周りにいた人々が、順番に答える。
「いいえ、見たことがありません」「そのような情報は持ち合わせておりません」「お役に立てず、申し訳ございません」
みんな、穏やかで丁寧な声で、しかしどこか心のこもっていない返事をする。
まるで、決められた台詞を読み上げているだけのように。
男は苛立ちを露わにしながら、次々に声をかけていく。
しかし、返ってくる答えはどれも同じようだった。
俺は、遠くからその光景を眺めていた。
(……あいつ、なんか変だな)
今までこの街で見たどの人間とも違う。
感情が剥き出しで、必死で、どこか壊れかけているような雰囲気。
他の人たちのように、ただ優しくて空っぽな感じがしない。
好奇心が、俺を動かした。
男が少し離れた場所で立ち止まったとき、俺は近づいていった。
「……どうかしたのか?」
男は振り向いた。その目は、俺を警戒しているようだった。
「人を探してるんだ!」
「人?」
「背が高くて色黒の短髪の男と、小柄で頰に傷のある男、赤茶のポニーテールの女、黒髪で長い髪の色白の女……この4人を見なかったか!?」
男の声には、この街に似つかわしくないほどの必死さがあった。
「……いや、見たことないな。そいつらの名前は?」 「アレックス、リカルド、エミリア、ソフィアだ」
俺は首を振った。
「この街に住んでて、そんな特徴的な名前は聞いたことないな……」
男は苛立ったように自分の頭を掻きむしった。
「そうか……あんたはまともに話ができるようだな。この街の奴ら、みんなおかしくないか?
何を聞いても、決まったことしか言わない。まるで……人形みたいだ。
そもそもここは、どこなんだ?」
俺は少し驚いた。
この街の人間が「ここはどこだ」と聞くなんて、変だった。
「……お前、どこから来たんだ?」
男は苦しそうに顔を歪めた。
「わからない。……わからないんだ。
ただ、仲間がどこかにいるってことだけは確かだ。それ以外は……何も思い出せない」
「何もって……自分の名前もか?」
「名前は……わかる。海燕、白銀海燕だ」
彼は自分の名前を言うときでさえ、どこか確信が持てない様子だった。
俺は少し迷ったあと、口を開いた。
「……わかった。協力するよ。
とりあえず、この街のことはアセンダントに聞けばわかるはずだ」
カイエンは怪訝そうな顔をした。
「アセンダント……?」
俺は小さく息を吐いてから、心の中で呼びかけた。
(アセンダント。この街に、アレックス、リカルド、エミリア、ソフィアという名前の人間はいるか?)
『はい、ハルト様。少々お待ちください』
カイエンは、俺が急に黙り込んだことに気づいて、訝しげに眉を寄せた。
「……おい? 今、何をしたんだ?」
「この街を管理してるAIにあんたの仲間のことを聞いたんだよ」
カイエンはますます混乱した顔をした。
俺は待った。
しかし、返事はなかなか来なかった。
やがて、冷たい機械音が頭の中に響いた。
『申し訳ございません。ハルト様はこの情報にアクセスする権限がありません』
……なんだって?
今まで、アセンダントが俺の質問を拒否したことは一度もなかった。
胸の奥で、何かがゆっくりとざわついた。




