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アセンダントの嘘 ~AI管理楽園で目覚める記憶と陰謀~  作者: アトミックフレア


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3/7

わずかな亀裂


麗華と話すようになってから、数日が経過したある日。

約束の時間まで余裕があったので、麗華との話の種を探すため図書館に向かっていた。

目的地に到着すると、見知った顔が図書館の前にあった。

(あれ?麗華?こんなところで珍しいな…)

声をかけようとすると、彼女の尋常ではない様子に気付く。

いつもの優しい笑顔は消え、感情と呼べるものを全く感じない。

無と呼ぶのが相応しい、そんな様子でそんな様子で立ち尽くして図書館を見つめている。

「れ、麗華…?こんなところでぼうっと突っ立って、どうしたんだ?」

「はい、申し訳ございません。」

そう告げるとまるで人形のように、ガクッと顔をこちらに向ける。


俺はなんだか怖くなって、その場を立ち去ってしまった。

この数日が嘘のように、心を不安が占拠する。

麗華だけは大丈夫だと思っていたのに、他の人達と同じようになってしまったのではないか? たまたま会話が弾んだだけだったのか……

信じたくなかった。

やっとこの孤独で退屈な暮らしの中で、向き合える人に出会えたのに。


約束の時間を過ぎて、俺は祈るような気持ちでいつものカフェに向かった。

テラス席には麗華の姿が見える。

ここからだと顔が見えず、表情が窺えない。

(頼むから、いつもの麗華であってくれ…)

恐る恐る近づき、声をかける。

「よぉ、今日はちょっと遅かったかな?」

「…今日はもう来ないと思った」

少し不満そうだが、来たことを喜んでいるような、いつもの優しい表情。

これまでの不安な気持ちが一気に霧散する。

「悪いな、ちょっと行くところがあって」

「…図書館でしょ?」

「さっき、図書館の前で立ってたの、やっぱり麗華だったんだ」

「私は図書館に行ってないよ…?」

「どういうことだ?じゃあなんで図書館に行ったことを知ってる?」


俺は昨日図書館に行くなんて麗華には言ってない。

話の種を探しに行くのが、少し恥ずかしかったからだ。


「なんでだろう?なんとなくかな?」

「とぼけるな!俺はさっき麗華に会った!」

「ど、どうしたの…?怖いよ…いつもの優しいハルトくんに戻って?」

俺だって麗華に怒鳴りたい訳じゃない。

「……悪かった、さっき麗華を図書館の前で見かけたんだ。声をかけたらいつもと感じが違かったから、俺はてっきりその… 麗華も他の人と同じになったのかと」

「他の人と同じって?」


俺は、麗華の静かな問いかけに、わずかに息を詰まらせた。

「……他の人と同じ、ってのはさ。みんな優しくて、ちゃんと返事をしてくれるんだけど、どこかで『本当の気持ち』がないんだよ。喧嘩もしないし、嫌な顔もしない。

困ったことがあっても『大丈夫です』とか『おすすめはこちらです』とか、決まった言葉しか出てこない。

上手く言えないんだけど、血の通ったコミュニケーションじゃないっていうかさ…」

麗華はこちらを、静かに見つめた。

その瞳には、いつもの穏やかさの中に、わずかな影が落ちている。

「……私も、そう感じることがある」

彼女は小さく息を吐いた。

「この世界は、全部が優しすぎると思う…

ハルトくんと最初に会った時スキーの話をしてくれたでしょ?

あの時、私も同じように感じる時があるなって……」

彼女の言葉に少し救われる思いがした。

少なくとも、麗華だけは「同じ」ではなかった。


しかし、次の瞬間、麗華の表情が、わずかに固くなった。

「でも、それは… この世界が最適だから、です。すべては、アセンダント・インテリジェンスが…」

言葉が途中で止まる。

麗華の瞳が、一瞬、焦点を失った。

まるで、何かに操られているかのように、機械的な声音で続けた。

「快適な生活を保証するために、感情の揺らぎは抑制されています。ご安心ください」

「……麗華?」

彼女はびくりと肩を震わせ、急に我に返ったような顔をした。

目が潤み、声が上ずる。

「ご、ごめん… さっきの、私、何を言ってたの? 変なこと、言ってなかった?」

彼女は自分の口元に手を当て、困惑したように首を振った。

「なんか、頭が… ぼーっとしてて。ハルトくん、さっきの顔、すごく怖かったよ… 私、なんか変なこと言った?」

俺は、胸の奥が冷たくなるのを感じた。

さっきの、感情のない声音と、目の焦点が合わない様子。

それは、図書館の前で見た『人形のような』麗華と、よく似ていた。

「麗華… 本当に大丈夫か? さっきの図書館の件も、なんかおかしいし…」

「図書館の件って… さっきも言ってたけど、私は行ってないよ?」

麗華は不安そうに俺を見つめる。

その目は、完全に『いつもの麗華』に戻っていた。

「……わかった。ごめん、俺が変なこと言ってるみたいだな」

俺は、わざと笑って誤魔化した。

でも、心の中では、確信に近い疑念が、確実に根を張り始めていた。

麗華は、ほっとしたように微笑んだが、その笑顔も、どこかぎこちなかった。


「うん… じゃあ、今日はこの辺で。明日も、来てくれる?」

「…ああ」

二人は、いつものように別れた。

しかし、ハルトの足取りは、重かった。

帰り道、街の風景が、急に色を失って見えた。

(あの声は、何だったんだ…)

(アセンダントが… 抑制?)

頭の中で、様々な疑問が渦を巻く。

そして、ふと、昔から感じていた『この身体の違和感』を思い出した。

左腕の奥、時々熱を持つ金属の感覚。

アセンダントに聞いたとき、「快適な生活のための補助です」としか答えられなかった、あの部分。

(もしかして… 俺も、なにか知らないうちに…)

その夜、俺は久しぶりに、眠れなかった。


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