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アセンダントの嘘 ~AI管理楽園で目覚める記憶と陰謀~  作者: アトミックフレア


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2/7

綾瀬麗香(あやせれいか)


次の日も同じ時間に、カフェのテラス席に綾瀬麗華(あやせれいか)は座っていた。


透き通るような白い肌に、長いまつ毛が影を落としている。

美しい黒い髪が肩までかかる長さで、読書をするときだけかける黒縁のメガネが、意外なほど似合っていた。

昨日より少しだけ髪を下ろしているように見えた。

俺は少し離れたところから彼女の姿を見て、改めて思う。

綺麗だな、と。


カフェに入り、マスターにホットコーヒーを頼む。

それからテラス席に近づいていくと、綾瀬麗華が顔を上げた。

少し驚いたような顔をしたあと、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。

「……また来てくれたんだ」

その声に、少しだけ安堵が混じっていた気がした。

「昨日、話が途中だったからな」

俺は向かいの席に腰を下ろした。

麗華は本を少し閉じて、こちらを見た。

「『永遠の午後』、読んだことある?」

「ああ、読んだことある」

俺が答えると、麗華の目が少しだけ輝いた。

「本当? どう思った?」

「最初は綺麗な話だと思った。

喧嘩もしないし、嘘もないし、ずっと穏やかでいられる恋人同士の話だよな」

麗華は静かに頷いた。

「でも、読み進めるうちにちょっと気持ち悪くなった」

「……気持ち悪い?」

「うん。相手が全部優しくて、全部受け入れてくれる。

でもそれって、本当の気持ちがわからなくなっていかないか?

喧嘩もしないし、嫌な顔もしない。

それって結局、お互いのことを本気で理解しようとしてないんじゃないか、って」


麗華は少しの間を置いてから、静かに言った。

「私はね、この本を読んだ時、この話はすごく理想的だと思ったの。

でも、読み終えたあとで少し寂しくなった。

この2人は今後も本当の気持ちを隠して、誤魔化して生きていくんだなって。

喧嘩をしてもいいから、ちゃんと気持ちをぶつけてくれる関係の方が、私は安心できるかもって思うようになった」

少し驚いた。

会話は、思った以上に自然に続いた。

最初は本の話だったのに、いつの間にか「本当の感情とは何か」「人と繋がるってどういうことか」といった話に変わっていた。

綾瀬麗華は静かだけど、はっきりとした言葉で自分の考えを述べる。

そのたびに、俺は少しずつ彼女の考え方に引き込まれていった。


話の途中、綾瀬麗華がふとこちらを見た。

「そういえば、まだ名前を聞いてなかったね」

「……ああ」

少しだけ照れくささを感じながら、言った。

「高嶺ハルト(たかみねはると)だ」

「綾瀬麗華です。麗華でいいよ」

彼女は少しだけ頭を下げた。


実は、知ってたんだ。

あの日カフェのマスターと話してる君をみて、俺はアセンダントに聞いたんだ。

彼女の名前は?って。

少し罪悪感のようなものを感じながら、改めて彼女のことを見た。

知的な雰囲気と、静かな美しさ。

他の連中とは明らかに違う、何か芯のあるものを感じる。

正直に言えば、少し心を惹かれていた。


「……じゃあ、俺のことはハルトで」

「うん」

麗華は小さく笑った。

そのあと、また少しだけ本の話に戻った。

時間が経つのを忘れるくらい、話が続いた。

結局、日がかなり暮れかけてから、ようやく席を立つことになった。


「また、話したいな」

麗華が、少しだけ遠慮がちな声で言った。

「実は、俺もだ」

俺は即答した。

「明日も同じ時間でいいか?」

「うん。ここで待ってる」

彼女は少しだけ微笑んだ。

「じゃあ、明日」


帰り道、俺は少しだけ足取りが軽かった。

ただ本の話をして、考えをぶつけて、笑っただけだった。

そんな時間がたまらなく楽しかった。


歩きながら、ふと別のことを思い出した。

(あ、そうだ。麗華に読んでほしい本があったな)

自分の部屋の本棚に、以前読んで面白かった本があった。

あの話なら、きっと彼女も興味を持ってくれるかもしれない。

(明日、持っていってみよう)

そう決めて、俺は家路についた。


次の日。

約束通り、同じ時間にカフェへ行くと、麗華はすでに席に着いていた。

俺が近づくと、彼女は少し嬉しそうな笑みを浮かべた。

「来てくれたんだ」

「約束したからな」

俺は向かいの席に座りながら、隠すように待っていた本を取り出した。

「これ、麗華に読んでほしいと思って持ってきた」

本を差し出すと、麗華は少し驚いた顔をした。

そして自分の鞄から、全く同じ本を取り出してテーブルに置いた。

「……え?」

二人は同時に顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。

「私も、これをハルトくんに読んでほしいと思ったんだ」

「マジかよ」

俺は思わず笑いながら言った。

「偶然だな」

麗華も小さく笑いながら、こちらを見た。

その表情には、どこか嬉しそうな色が浮かんでいた。

「考えが一緒だったんだね」

その言葉に、俺は少しだけ胸の奥が温かくなるのを感じた。

ただ本を一冊、相手に読んでほしいと思っただけ。

それがたまたま同じだった。

それだけのことなのに、妙に心が通じ合ったような気がした。


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