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妄想具現化バトルロワイヤル〜異世界転生ものが溢れるこの時代に、俺はあえて“転生するまで”を書く〜  作者: qp


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8話:忘れたい願望

この物語は、異世界に転生するまでの話です。


子供の頃に思い描いた願望。

その中には、強さや特別さだけでなく、「忘れたい」という気持ちもあります。


辛い記憶。

消したい過去。


それらから解放されたいと願うのは、決しておかしなことではありません。


今回は「忘れたい願望」。


忘れることは、本当に救いになるのか。

そんな一戦になります。

『第八試合を開始します』


 二人が中央へ出る。


 一人は神経質そうな男。

 目が落ち着かない。

 何かに怯えるように周囲を見ている。

 白石 恒一、三十四歳。


「……」


 唇を噛む。


 もう一人は、やけに軽い男だった。

 姿勢はだらけている。

 だが動きは妙にしなやか。

 東堂 直、二十七歳。


「お、俺の番か」


 軽く肩を回す。


「なんかよく分かんねえけど、やればいいんだよな?」


 白石が眉をひそめる。


「……ふざけてるのか」


「いや全然」


 東堂が笑う。


「こういうの、ノリでいけるっしょ」


『第八試合、開始』


 白石が一歩下がる。


『能力名:忘却。対象の記憶を消去します』


「……忘れろ」


 低く呟く。


「ここにいる理由も……」


「戦う理由も……」


 空気が揺れる。


 東堂が首を傾げる。


「ん?」


「なんか言った?」


 白石の顔が固まる。


「……は?」


「もう一回いい?」


 東堂が軽く笑う。


「聞こえなかったわ」


「ふざけるな」


 白石が声を強める。


「忘れろ!!」


「全部だ!!」


 空気が歪む。


 東堂がぽりぽり頭をかく。


「いやだから」


「何を?」


 白石の手が震える。


「効いてるはずだ……!」


「お前は今、何も分からないはずだ……!」


「いや分かるけど?」


 東堂が普通に答える。


「戦うんだろ?」


「……なんでだよ」


『能力名:本能反応。思考を介さず最適行動を行います』


 東堂がふっと身体を傾ける。


 白石の視界から消える。


「っ!?」


 気づいた時には、目の前。


 ――ドン。


「がっ……!」


 腹に衝撃。

 息が詰まる。


「おお、当たった」


 東堂が軽く言う。


「なんか勝手に動いたわ」


「なんで……」


 白石が膝をつく。


「なんで効かねえ……!」


「いや知らん」


 東堂が肩をすくめる。


「考えてねえし」


「……は?」


「なんか危なそうだなって思ったら動くし」


「殴れそうなら殴るだけ」


 白石の顔が歪む。


「そんな……」


「そんなの……」


「ズルだろ……!」


「ズルってなんだよ」


 東堂が笑う。


「ゲームじゃねえんだから」


 白石が頭を掴む。


「全部忘れればいい……!」


「嫌なことも……」


「怖いことも……」


「全部……!」


 空気が歪む。


 白石の目の焦点が消える。


「……あ」


 手が止まる。


「……ここ……」


 周囲を見る。


「……なんだ……」


 東堂を見る。


「……誰だ……?」


「え、急にどうした」


 東堂が引く。


「ちょっと怖いんだけど」


「……なんで……」


 白石が震える。


「……何してるんだ……俺……」


 東堂が一歩近づく。


 白石が後ずさる。


「来るな……!」


 足がもつれる。

 倒れる。


「……やだ……」


 声が幼くなる。


「わからない……」


「何も……」


 東堂が頭をかく。


「いやマジで大丈夫か?」


「これ終わってる?」


 少し迷う。


 でも身体は止まらない。


「……ま、いっか」


 踏み込む。


 ――ドン。


 軽い一撃。


 白石の身体が崩れる。


『敗者は、地獄行きです』


 足元が割れる。

 黒い手が伸びる。


「……あ……」


 白石が呟く。


「……なんだ……これ……」


 掴まれる。


「……やめ……」


 言葉が途切れる。


「……わからない……」


 引きずられる。


「……怖い……」


 目が揺れる。


「……なんで……」


 沈む。


 ほんの一瞬だけ、何かを思い出しかける。


「……これで……」


 小さく、呟く。


「……もう……」


 言葉が続かない。


 それでも。


「……忘れられる……」


 安堵にも似た表情が浮かぶ。


 次の瞬間には、それすら消える。


 闇に呑まれる。

 何も分からないまま、消えた。


『第八試合、終了』


 東堂がその場に立つ。


「……終わった?」


 周囲を見る。


「よく分かんねえけど勝ったっぽいな」


 軽く伸びをする。


「ま、なんとかなるもんだな」


 コロシアムに静寂が戻る。

 忘れること

 それは救いではない。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は「忘れたい願望」の話でした。


記憶は、人にとって重荷になることもあります。

けれど同時に、それは自分が自分であるためのものでもある。


すべてを忘れるということは、痛みだけでなく、意味も一緒に手放すことになります。


今回の一戦は、そんな「忘却の代償」を描いた形です。


次回はまた違った願望の戦いになります。

引き続き読んでいただけると嬉しいです。

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