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妄想具現化バトルロワイヤル〜異世界転生ものが溢れるこの時代に、俺はあえて“転生するまで”を書く〜  作者: qp


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9話:描きたい願望

『第九試合を開始します』


 二人が中央へ出る。


 一人はスーツ姿の男。

 疲れの残る顔。

 だが目だけは死んでいない。

 畠中 泰造、五十五歳。


「……ここまで来たか」


 小さく息を吐く。


 もう一人は細身の女。

 短髪。

 整った顔立ち。

 一見すると男にも見える中性的な美形。

 ラフな服装。

 気だるげに立っている。


 竹中 奏多、二十九歳。

 フリーター。


 指先で鉛筆をくるくる回す。


「へぇ」


 口元を歪める。


「おっさんがここまで残るとか、ちょっと面白いじゃん」


 泰造が肩をすくめる。


「運が良かっただけだ」


 奏多が笑う。


「でも」


「私は負けない」


「そういうふうに描いてるから」


『第九試合、開始』


 奏多が空中に線を引く。


『能力名:天才漫画家。描いたものを具現化します』


 数秒。

 獣が形を成す。


「現実じゃあり得ないものほど強いでしょ?」


 飛びかかる。


 泰造が一歩引く。

 避ける。


「……若いな」


「は?」


「そういうの、昔は俺も考えたことあるよ」


 奏多がさらに描く。

 刃。

 炎。


「私は違う」


「私は描いたものを現実にしてる」


「つまり」


「私が現実なの」


 泰造が距離を詰める。


「……そうか」


「そりゃ便利だな」


 奏多が笑う。


「でしょ?」


 さらに描こうとする。


 その時。


 泰造の姿が、ぼやける。


 透明化。


「……どこ行った」


 奏多が視線を走らせる。


 その瞬間。


「……っ」


 一瞬だけ、顔を背ける。


「ちょ……」


「なにそれ……」


 ほんのわずか。

 意識がズレる。


 泰造が踏み込む。


「……すまんな」


 低く呟く。


 ――ドン。


 拳が入る。


「っ……!」


 奏多がよろめく。


「ふざけんな……!」


 体勢を立て直す。


 急いで描く。


「私は……!」


「ただ好きな物語を……!」


 線が震える。


「描きたかっただけなのに……!」


 さらに描く。

 だが乱れている。


「世間はそれを許さない!」


「全部否定してくる!」


「だから……!」


 息が荒くなる。


「だから私は……!」


 泰造が止まる。


「……そうか」


 少しだけ目を細める。


「つまんねえ現実だったんだな」


「……は?」


 奏多が睨む。


 泰造が息を吐く。


「でもな」


 ゆっくり言う。


「現実ってのは」


「思い通りにならねえから、現実なんだよ」


「うるさい!!」


 奏多が叫ぶ。


「私は間違ってない!」


「世界がおかしいだけだ!」


 描こうとする。


 手が震える。


「私は……!」


 迷う。


「何描く?」


 その一瞬。


 泰造が踏み込む。


「お前のはな」


 低く言う。


「ただの都合のいい妄想だ」


「違う!!」


 ――ドン。


 拳が入る。


「……あ」


 奏多の身体が崩れる。


 鉛筆が落ちる。

 転がる。


 泰造が見下ろす。


「想像の中じゃ最強でもな」


「現実じゃ、ただの人間だろ」


 静かに言う。


 奏多が手を伸ばす。


「……まだ」


「描ける……」


 指が震える。


「私の物語は……」


 届かない。


『敗者は、地獄行きです』


 足元が割れる。

 黒い手が伸びる。


「……やだ」


 奏多が呟く。


「私はただ……」


 掴まれる。


「描きたかっただけなのに……!」


 引きずられる。


「なんで……!」


「なんで……!」


 沈む。


「……私……」


 最後に、かすれる声。


「……間違ってないよね……」


 闇に呑まれる。

 消えた。


『第九試合、終了』


 泰造がその場に立つ。


「……」


 小さく息を吐く。


「いい夢見れてよかったな」


 ぽつりと呟く。


「そろそろ起きろ」


 誰に向けたのか分からない言葉だった。


 コロシアムに静寂が戻る。

 理想は、現実には勝てなかった。

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