3話:無敵願望
『第三試合を開始します』
二人が中央に出る。
一人はだらしなく立つ男。
軽い笑い。
チンピラのような空気。
佐藤旬、三十歳。
「……あー、だりぃな」
「ま、いいけどよ」
「どうせ俺、無敵だし」
もう一人は背を丸めた若い男。
視線はずっと下を向いたまま
手はポケットに入れどこか諦めた雰囲気を感じる。
野田清人、二十二歳。
「……」
佐藤の言葉に反応するつもりは無さそうだ。
『第三試合、開始』
静寂が落ちる。
誰も動かない。
「……は?」
佐藤が眉をひそめる。
「来いよ」
と挑発するように手招きをする
「殴ってみろって 効かねえから」
ニヤニヤしながらさらに煽る
「俺、無敵なんだよ」
ほら、来いよと人差し指をくいくいとさせている。
しかし野田は動かない。
視線も上げない。
完全に無視を決め込んでいるようだった。
「……聞いてんのか?」
反応がない。
「……おい」
「来いって言ってんだろ」
苛立ちが混じる。
野田は下を向いたまま。
何も反応しようとはしない、
(関わりたくない)
それだけだった。
「……チッ」
佐藤が舌打ちする。
「つまんねえな」
一歩踏み出し、止まる。
「……いや」
「別に俺から行く必要ねえか」
笑う。
「無敵だしな」
能力ゆえの自信からか
余裕の構えで待つことにする佐藤。
時間が流れる。
誰も動かない。
(怖い)
(関わりたくない)
(何もしないのが一番安全だ)
それだけだった。
「……おい、いつまでそうやってるつもりだ?」
佐藤が顔をしかめる。
「おい、来いって」
「何もしてこねえとかありか?」
苛立ちが募る
だが動かない。
無敵だから。
来るのを待てばいい。
さらに時間が過ぎる。
沈黙が重くなる。
「……おい」
「マジで来ねえのか?」
声が変わる。
「つまんねえだろ」
「戦えよ」
返事はない。
「……来いよ」
「殴れって」
「効かねえって見せてやるから」
声が荒くなる
だがこちらからは仕掛けるつもりもない
自分に無敵の能力があるように
野田にもなにか能力があるからだ、
下手に動けばなにが起こるかわからない。
そして互いにただ立っているだけ、
ただ時間だけが過ぎる。
『制限時間、終了』
天使の声が落ちる。
「……は?」
佐藤が顔を上げる。
「終わり?」
「じぁあ勝敗は?」
『決着なし』
一拍。
『両者、敗北』
「……は?」
理解が追いつかない。
「ちょっと待て」
「今の……引き分けだろ?なんで敗北なんだよ」
『規定により』
『勝敗が成立しない場合、両者敗北とします』
空気が凍る。
「ふざけんなよ!!」
佐藤が叫ぶ。
「俺、無敵だぞ!!」
「なんで負けんだよ!!」
足元が割れる。
黒い手が伸びる。
「ちょ、待て」
掴まれる。
「離せ!!」
引きずられる。
「俺は負けてねえだろ!!」
「無敵なんだよ!!」
暴れる。
だが止まらない。
「効かねえんだよ!!」
沈む。
「ふざけんな……!」
闇へ。
消える。
もう一つの足元も開く。
野田が息を呑む。
「……え」
手が伸びる。
絡む。
「や……」
肩が震える。
「やめて……」
後ずさる。
だが逃げ場はない。
掴まれる。
引かれる。
「やだ……!」
声が震える。
初めて顔を上げる。
遅すぎる理解。
「……僕」
「僕は……最強なんだぞ……!」
震えながら叫ぶ。
「手をかざすだけで……消せたんだぞ……!」
言葉が崩れる。
「なのに……!」
手がさらに絡む。
「なんで……何もしなかったんだよ……!」
崩れる声。
「怖いだけで……逃げて……!」
床に指をかける。
滑る。
「……やだ」
涙が滲む。
「また…死んでもまだ、…」
沈む。
胸まで。
首まで。
『能力名:抹消。対象の存在を消去可能でした』
『使用は確認されていません』
「……こんなことなら、もっとちゃんとしたら、……」
闇に呑まれる。
消えた。
静寂。
コロシアムには、もう軽く笑う者はいない。
ここでは、使わなかった力も、選ばなかった行動も、すべて同じ結末に落ちる。




