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妄想具現化バトルロワイヤル〜異世界転生ものが溢れるこの時代に、俺はあえて“転生するまで”を書く〜  作者: qp46


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11.5話 鷹山蓮 はじめの一発

 もう一人は、がっしりとした男だった。


 短く刈った髪に、無駄のない立ち方。黙っているだけで張り詰めた空気を纏っている。


 名は鷹山蓮、二十八歳。


 プロボクサーを目指していた男だった。



 蓮が初めてボクシングに憧れたのは、子供の頃に読んだ漫画がきっかけだった。


 主人公は、たった一発の拳で相手を沈める。


 圧倒的な一撃。


 誰よりも強く、誰よりも真っ直ぐなその姿に、蓮は心を奪われた。


 ページをめくるたび、胸が熱くなる。


 自分も、こうなりたい。


 本気でそう思った。


 小学生の頃には、鏡の前でシャドーボクシングを真似していた。漫画の必殺技の名前を叫びながら拳を振るう。その時間だけは、自分が本当に強くなれた気がした。



 だが、蓮は昔から感情の抑え方が下手だった。


 すぐ熱くなる。


 頭より先に拳が出る。


 喧嘩も多かった。


 高校時代、ついに暴行事件を起こし、そのまま退学になる。


 夢だったボクサーへの道も、その時一度終わった。



 その後は普通に働いた。


 スーツを着て、頭を下げ、営業先を回る。


 だが蓮は、どうしてもその生活に馴染めなかった。


 上司に怒鳴られるたび、胸の奥が煮えくり返る。


 理不尽を飲み込むことができない。


 ある日、ついに殴った。


 気づいた時には、上司は床に倒れていた。


 当然、会社にはいられなくなった。


 実質クビだった。



 だが、その時。


 蓮は少しだけ、嬉しかった。


 終わった、と思ったからだ。


 ようやく戻れる。


 子供の頃、本気で憧れていた場所へ。



 二十八歳。


 遅すぎる挑戦だった。


 それでも蓮は、プロボクサーになることを諦めなかった。


 ジムへ通い、働きながら練習を続ける。


 誰より走った。


 誰より殴った。


 身体が壊れても止まらなかった。


 才能がないことくらい、自分でも分かっていた。


 若くもない。


 センスも飛び抜けていない。


 だから、努力で埋めるしかなかった。


 限界を超えるしかなかった。



 蓮は、“一撃”に異常な執着を持っていた。


 どれだけボロボロになっても、最後に一発当てれば勝てる。


 漫画みたいに、たった一撃で全部ひっくり返せる。


 その瞬間を、ずっと夢見ていた。



 深夜のジムは静かだった。


 サンドバッグを叩く音だけが響いている。


 蓮は汗だくのまま、何度も拳を振るっていた。


 腕が痛い。


 息が苦しい。


 視界が揺れる。


 それでも止まらない。


「まだ……!」


 掠れた声が漏れる。


「まだ足りねぇ……!」


 もっと速く。


 もっと重く。


 もっと強く。


 身体が悲鳴を上げているのは分かっていた。


 だが蓮は、それを無視した。


 止まった瞬間、自分は終わる気がしたからだ。


 夢を諦めたまま終わるのが、何より怖かった。



 拳を振り抜いた瞬間だった。


 心臓が、嫌な音を立てた。


 全身から一気に力が抜ける。


 膝が崩れる。


 呼吸ができない。


「……は……?」


 視界が滲む。


 冷たい床が近づいてくる。


 倒れ込みながら、蓮はぼんやり天井を見上げた。


 昔読んでいた漫画の主人公が、頭の中に浮かぶ。


 最後の最後まで立ち上がる、あの男。


 蓮は、小さく笑った。


「……一発くらい」


 掠れた声が漏れる。


「決めたかったな……」


 その言葉を最後に、鷹山蓮は静かに動かなくなった。

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