表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想具現化バトルロワイヤル〜異世界転生ものが溢れるこの時代に、俺はあえて“転生するまで”を書く〜  作者: qp46


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/29

10.5話 阪本多一郎 とめられない♡トキメキ

 阪本多一郎は、昔から“普通”になれなかった。


 声が高い。


 仕草が女っぽい。


 好きになる相手も、周りとは違った。


 それだけで、子供の世界では十分すぎる理由だった。


 笑われる。


 真似される。


 気持ち悪いと言われる。


 多一郎は、そういう視線に慣れていた。


 慣れるしかなかった。



 中学二年の頃だった。


 同じクラスの男子に、恋をした。


 笑顔が優しくて、背が高くて、誰にでも気さくに話しかける人気者だった。


 多一郎は、その姿を見るだけで嬉しかった。


 当然、叶うはずのない恋だった。


 だから告白したのも、半分は勢いだった。


 断られて終わる。


 そう思っていた。


 だが。


「……別に、いいよ」


 男は、笑いながら言った。


「付き合ってみる?」


 頭が真っ白になった。


 夢みたいだった。


 本当に、夢みたいだった。



 放課後、一緒に帰った。


 ジュースを分け合った。


 他愛もない話をした。


 たったそれだけのことが、多一郎には世界の全部みたいに思えた。


 夕焼けの帰り道。


 隣を歩くその時間が、永遠みたいだった。


(止まればいいのに)


 本気で思った。


(この時間のまま、全部止まっちゃえばいいのに)


 それくらい幸せだった。



 全部、嘘だった。


 数日後、多一郎は教室に呼び出された。


 行ってみると、クラスの男子たちが集まっていた。


 中心には、あの男がいる。


 嫌な予感がした。


「おい、こいつマジで信じてんだぜ」


 笑い声。


「試しに付き合ったら、本気にしやがって」


 教室が爆笑に包まれる。


 多一郎の身体が固まる。


 男は、心底おかしそうに笑いながら言った。


「お前みたいなオカマ、好きになるわけねぇだろ」


 頭の中が真っ白になる。


 笑い声だけが響いていた。


 その日から、多一郎は完全に“おもちゃ”になった。


 机は汚され、陰口を叩かれ、廊下を歩くだけで笑われた。


 それでも。


 それでも多一郎は、あの夕焼けの帰り道だけは嫌いになれなかった。


 本当に幸せだったから。


 たとえ全部嘘でも。


 あの時間だけは、自分にとって本物だった。



 大人になった多一郎は、“阪本多一郎”を捨てた。


 派手な化粧。


 香水。


 ヒール。


 喋り方も、立ち振る舞いも、全部作り変えた。


「やぁねぇ、アンタほんと見る目ないわよ〜」


 笑う。


 演じる。


 明るい“美魔女ママ”を。


 オカマバーの店内では、誰も昔の自分を知らない。


 その時間だけは楽だった。


 好きな自分でいられた。


 客たちも笑ってくれる。


 ここだけは、自分の居場所だと思っていた。



 だから、信じてしまった。


「ママ、絶対儲かる投資あるんすよ」


 常連客の甘い言葉を。


 最初は少しだけだった。


 だが、一度増えると止まらない。


 もっと。


 もっと。


 気づけば店の金にまで手を出していた。


 そして、全部消えた。


 借金だけが残った。



 閉店後の店内は、静かだった。


 薄暗い照明。


 煙草の匂い。


 誰もいないカウンター。


 多一郎は、一人で椅子に座っていた。


「……ほんと、バカねぇ」


 乾いた笑いが漏れる。


 この店だけは守りたかった。


 ようやく手に入れた居場所だった。


 なのに、自分で壊した。


 視線を上げる。


 壁に飾られた写真には、客たちと笑う自分が映っていた。


 全部、楽しかった。


 本当に。


「……止まればよかったのにねぇ」


 ぽつりと呟く。


 あの夕焼けの日みたいに。


 あの店の時間みたいに。


 幸せだった瞬間だけで、全部止まってしまえばよかった。


 多一郎は煙草を咥える。


 火をつける。


 大きく吸う。


 肺が痛い。


 昔から吸いすぎだと言われていた。


「……あーあ」


 小さく笑う。


「ほんと、向いてない人生だったわ」


 店内に撒かれたガソリンの匂いが広がる。


 煙草を指で摘む。


 少しだけ、目を閉じた。


 せめて最後くらい。


 時間が止まればいいのにと、思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ