表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想具現化バトルロワイヤル〜異世界転生ものが溢れるこの時代に、俺はあえて“転生するまで”を書く〜  作者: qp


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/29

12.5話 小野寺勇太 画面の中の勇者

小野寺勇太は、本気で自分が“勇者”になれると思っていた。


 子供の頃からゲームが好きだった。剣を持った主人公が世界を救い、仲間を守り、最後には魔王を倒す。そんな物語に、勇太は夢中になった。


 現実の自分は、弱かったからだ。


 運動もできない。勉強も普通。友達も少ない。クラスの中心にいるような人間にはなれなかった。だからこそ、ゲームの中の勇者が眩しかった。


 どれだけ傷ついても立ち上がる。


 誰かに必要とされる。


 最後には、“お前がいてくれてよかった”と言われる。


 勇太は、本気でその世界に憧れていた。



 だが現実は、ゲームみたいにはいかなかった。


 高校を卒業しても何をしたいのか分からず、そのまま家に引きこもった。最初は少し休むだけのつもりだった。


 だが気づけば一年が過ぎ、二年が過ぎ、勇太は部屋から出られなくなっていた。


 ゲームの中だけが、自分を勇者にしてくれる。


 電源を入れれば、自分は特別になれる。


 魔王を倒せる。


 仲間に頼られる。


 誰かに必要とされる。


 だから現実を見るのが怖かった。



「働け」


 父親は何度も言った。


「いつまでそんなことやってるつもりだ」


 母親も最初は庇っていた。だが年月が経つにつれ、その声も少しずつ減っていった。


 勇太は、それでも変われなかった。


 ゲームの中では、自分は勇者だった。


 だが現実では、何者でもない。


 その差を認めるのが怖かった。


 だから、逃げ続けた。



 三十二歳になった頃には、家の空気は完全に壊れていた。


 父親はもう、勇太と目を合わせない。


 母親も疲れ切った顔をしている。


 そして、ある日。


「もう出ていけ」


 静かな声だった。


 怒鳴り声ではなかった。


 だからこそ、重かった。


「俺は……勇者になるんだ」


 勇太は震える声で言った。


 本気だった。


 本当に、本気だった。


 だが父親は、ただ目を伏せる。


「もういい」


 その一言だけだった。



 追い出された勇太は、ボロボロのリュックを背負ったまま街を歩いていた。


 中にはゲームソフトと、安物の剣。


 通販で買った勇者のコスプレ衣装。


 通行人たちは、そんな勇太を見て目を逸らす。


 関わりたくない。


 そういう目だった。


 勇太は、それが辛かった。


 ゲームなら、困っている人を助ければ感謝される。


 勇者は必要とされる。


 なのに現実では、誰も自分を見てくれない。



 寒い夜だった。


 公園のベンチに座り込みながら、勇太は空を見上げている。吐く息は白く、指先の感覚ももうほとんどなかった。


 腹も減っていた。


 だが、不思議と怒りはなかった。


 ただ、少しだけ悲しかった。


「……なんでだよ」


 掠れた声が漏れる。


「勇者って、困ってる人助けるんじゃないのかよ……」


 誰も助けてくれない。


 誰も話しかけてくれない。


 誰も、自分を必要としてくれない。


 勇太は震える手で、安物の剣を握る。


 本当は分かっていた。


 自分は勇者なんかじゃない。


 ただ、勇者になりたかっただけだ。


 ゲームみたいに、誰かに必要とされたかっただけだ。


「……俺は」


 小さく呟く。


「勇者は……こんなところで、負けない……」


 震える声だった。


 今にも消えそうな、弱々しい声だった。


「ホンモノに……なる……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ