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妄想具現化バトルロワイヤル〜異世界転生ものが溢れるこの時代に、俺はあえて“転生するまで”を書く〜  作者: qp46


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8.5話 白石恒一 自意識過剰

 目が落ち着かない男だった。


 誰かに呼ばれたわけでもないのに肩を震わせ、何かに怯えるように周囲を見回している。


 白石恒一、三十四歳。


 どこにでもいる会社員だった。



 恒一の人生は、良くも悪くも“普通”だった。普通の家庭に生まれ、普通に学校へ通い、普通に就職する。特別な才能もなければ、大きな不幸もない。誰かに羨ましがられることもなければ、ニュースになるような転落もない。ただ静かに、社会の中へ埋もれていくような人生だった。


 だが恒一には、一つだけ人より強すぎるものがあった。


 “過去”への恐怖だった。



 中学時代。


 あの頃の記憶だけが、今でも頭にこびりついて離れない。


 変な髪型。寒いギャグ。空気も読めずにはしゃぎ回っていた自分。好きな女子に送った痛々しいメール。急に不良ぶってみた時期。誰にも頼まれていないのに目立とうとして、盛大に滑った文化祭。


 今思い出すだけで、全身が熱くなる。


「うわぁぁぁ……」


 深夜、一人で突然声を漏らしてしまうこともあった。布団の中で悶えながら頭を抱え、なんであんなことをしたんだ、どうして止めなかったんだと、自分自身を責め続ける。


 だが、どれだけ苦しんでも過去は消えない。



 本当は、周りはもう覚えていなかった。


 それくらいの出来事だった。


 だが恒一だけは違った。自分の中では、今でも鮮明に残り続けている。


 風呂に入っている時、仕事帰りの電車、寝る前の静かな時間。ふとした瞬間に中学時代の記憶が頭を殴ってくる。そのたびに恒一は全身から血の気が引いていくのを感じていた。


(消したい)


(忘れたい)


(知ってる奴ら、全員死んでくれ)


 そこまで思ってしまうほど、過去が怖かった。



 三十四歳になっても、それは変わらなかった。


 会社では普通に働いている。同僚と話し、上司に頭を下げ、笑顔だって作れる。だが内心では、ずっと怯えていた。


 もし昔の知り合いに会ったら。


 もし過去を思い出されたら。


 もし、あの頃の自分を笑われたら。


 そんな妄想ばかりが頭の中で膨らんでいく。



 ある日、仕事帰りの電車の中だった。


 窓に映る自分の顔をぼんやり見つめながら、恒一はふと思った。


(……あ)


 まるで答えが降ってきたみたいだった。


(俺が消えればいいんだ)


 自分がいなくなれば、みんなも忘れる。


 過去ごと消える。


 もう思い出さなくて済む。


 もう怯えなくて済む。


 その考えは、不思議なくらい自然に胸へ落ちてきた。



 樹海の中は静かだった。


 風の音だけが聞こえる。


 恒一はロープを握りながら、ゆっくり周囲を見回した。誰もいない。誰にも見られていない。それが少しだけ安心だった。


「……もう、いいだろ」


 小さく呟く。


 普通に生きたかっただけなのに。


 ただ普通でいたかっただけなのに。


 過去だけが、ずっと自分を追いかけてくる。


 忘れたい。


 消したい。


 全部、なかったことにしたい。


 恒一はゆっくりとロープを首へかける。


 最後まで、目は落ち着かなかった。


 まるで誰かに、自分の過去を見られているみたいに。

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