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妄想具現化バトルロワイヤル〜異世界転生ものが溢れるこの時代に、俺はあえて“転生するまで”を書く〜  作者: qp46


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3.5話① 佐藤旬 痛みからの解放

 佐藤旬は、痛みに慣れていた。


 幼い頃からそうだった。


 酒臭い息。重い足音。壁を叩く音。そのどれかが聞こえた瞬間、身体が勝手に強張る。父親の機嫌が悪い日は決まっていた。仕事で嫌なことがあった日。金がない日。酒が切れた日。そして、理由なんて何もない日。


 旬は殴られた。


 蹴られた。


 熱い灰皿を押し付けられたこともある。


 だが、一番苦しかったのは痛みじゃなかった。


 怖かった。


 次にいつ来るか分からない、その瞬間が怖かった。


 だから旬は、妄想するようになった。


 自分は無敵なんだと。


 どれだけ殴られても平気で、どれだけ蹴られても傷一つ付かない、鋼の身体を持った超人なんだと。


 そう考えている間だけは、少しだけ耐えられた。


 父親の拳が飛んでくる。


 頬が切れる。


 腹が痛む。


 それでも旬は、心の中で呟く。


(効いてない)


(俺は無敵だから)


(こんなの、痛くない)


 涙を流しながら、何度もそう唱えた。



 高校二年の冬だった。


 父親は、その日も酒を飲んでいた。


 機嫌が悪かった。


 旬は、それだけで理解した。


 今日は長い。


 逃げようと思った。だが遅かった。胸ぐらを掴まれ、そのまま床に叩きつけられる。


「お前みたいな出来損ないが……!」


 怒鳴り声。


 飛んでくる拳。


 腹を蹴られる。


 呼吸ができない。


 視界が滲む。


 その時だった。


 台所に落ちていた包丁が、目に入った。


 次の瞬間には、もう握っていた。


 覚えていない。


 本当に、一瞬だった。


 気づけば父親が倒れていて、血が広がっていた。


 静かだった。


 さっきまで響いていた怒鳴り声も、足音も、全部消えていた。


 旬はその場に立ち尽くす。


 震える手から、包丁が落ちた。


「……あ」


 掠れた声が漏れる。


 ようやく終わった。


 そう思った。


 だが違った。


 そこから先も、何も終わらなかった。



 旬は、結局まともな人生を歩けなかった。


 高校も辞め、仕事も続かず、気づけば半端な連中とつるむようになっていた。


 ヤクザ。


 その言葉に、どこか憧れていた。


 強い人間。


 誰にも舐められない世界。


 無敵の男たち。


 だが現実は違った。


 旬は組の中で下っ端にもなれない。ただ都合よく使われるだけの存在だった。


 パシリ。


 取り立て。


 危ない仕事。


 失敗すれば殴られる。


 だが、それにも慣れていた。


 痛みには、昔から慣れていた。



 逃亡中の車の中だった。


 助手席には拳銃が置かれている。


 組から渡されたものだ。


 “責任を取れ”という意味くらい、旬にも分かっていた。


 窓の外を眺める。


 雨が降っていた。


 静かだった。


「……結局」


 小さく呟く。


「俺、何だったんだろうな」


 憧れた。


 強くなりたかった。


 無敵になりたかった。


 でも実際は、ずっと怯えていただけだ。


 殴られるのが怖かった。


 痛いのが怖かった。


 捨てられるのが怖かった。


 だから強いフリをしていただけだった。


 旬は拳銃を手に取る。


 冷たい。


 ゆっくりと、自身の額に銃口を当てた。


 引き金を引く指に、恐れはなかった。

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