11話:必殺願望
この物語は、異世界に転生するまでの話です。
子供の頃、誰しも一度は思うはずです。
「一発で決めたい」「確実に終わらせたい」と。
曖昧なまま続くよりも、白黒はっきりさせたい。
そんな願いは、決して珍しいものではありません。
今回は「必殺願望」。
当たれば終わる。
それだけの力を持った時、人は本当に“終わらせる”ことができるのか。
そんな一戦になります。
『第十一試合を開始します』
二人が中央へ出る。
一人は、がっしりとした男だった。鍛え上げられた身体に無駄はなく、立っているだけで圧を感じさせる。足の置き方、重心の預け方、そのすべてが戦い慣れた者のそれだった。
鷹山 蓮、二十八歳。
能力は――一撃必殺。
もう一人は、やけに軽い男だった。姿勢は崩れているのに、不思議と隙がない。力が入っていない分、どこへでも動けるような、そんな柔らかさがあった。
東堂 直、二十七歳。
能力は――本能。
「……当てれば終わりだ」
鷹山が低く呟く。
「当たらなきゃ終わらねえけどな」
東堂が軽く笑う。
『第十一試合、開始』
空気が張り詰めるより先に、東堂が動いていた。迷いのない踏み込みは音すら置き去りにする速さで距離を詰め、そのまま躊躇なく拳を振るう。
――ドン。
「っ……!」
鷹山が腕で受けるが、衝撃は重い。骨の奥まで響くような一撃。それでいて、次がすでに来ている。
――ドン。
――ドン。
防ぐだけで精一杯だった。受け流す余裕も、反撃に転じる間もない。ただ削られていく。
「くそっ……!」
後退するしかない。頭では分かっている。当てれば終わり。それだけの力がある。だが、その一発が遠い。
東堂は止まらない。考えていない。ただ身体が最適な動きを選び続けているだけだ。
「遅いな」
ぽつりと落とされた言葉が、妙に軽い。
鷹山が踏み込む。全身を乗せた一撃。狙いも力も完璧だった。
――空を切る。
そこにいるはずの相手が、いない。
次の瞬間、背後から衝撃が来る。
――ドン。
「ぐっ……!」
膝が揺れる。それでも倒れない。歯を食いしばり、体勢を保つ。
「……一発でいい」
息を整えながら、低く呟く。
「一発、当てる」
東堂が近づく。無造作に見えるのに、間合いの取り方は正確で、踏み込みに一切の迷いがない。
――ドン。
「がっ……!」
腹に入る。身体が浮き、そのまま地面に叩きつけられる。呼吸が乱れ、視界が揺れる。
「……終わりか?」
淡々とした声。
それでも、鷹山は立ち上がる。足が震えているのは分かっている。それでも止まらない。
「……まだだ」
一歩踏み出す。その瞬間、足がもつれる。体勢が崩れ、前のめりに倒れる。
その腕が、振られる。
――ドン。
鈍い音が響いた。
東堂の身体が、わずかに揺れる。
「……っ」
一瞬だけ、動きが止まる。
鷹山の目が見開かれる。
「……当たった」
その言葉に遅れて、東堂の膝が落ちる。意識が揺らぎ、視線がぶれる。
だが。
身体が動く。
考えていない。ただ反応だけが残っている。
――ドン。
拳が入る。
鷹山の身体が吹き飛び、地面に転がる。そのまま動かない。
東堂もまた、その場に崩れ落ちる。
静寂が落ちる。
二人とも動かない。呼吸はあるが、起き上がる気配はない。
一拍。
『両者、戦闘不能』
間を置かず。
『結果、引き分け』
そして。
『両者、敗北』
鷹山が、わずかに目を開く。
「……当たった……のに……」
声はかすれ、そのまま力が抜ける。
東堂が、小さく息を吐く。
「……動いた……な……」
それだけだった。
黒い手が伸びる。
二人の身体を掴む。
抵抗する力は、もう残っていない。
そのまま、ゆっくりと沈んでいく。
闇へ。
消えた。
コロシアムには、静寂だけが残る。どちらも強かった。どちらも間違っていなかった。それでも――終わる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は「必殺願望」の話でした。
確実に終わらせる力。
それは強さであると同時に、ある種の執着でもあります。
ですが、どれだけ理想的な一撃を持っていたとしても、
それだけで物事が決まるとは限らない。
今回のように、どちらも正しく、どちらも強かったとしても、
結果がつかないまま終わることもある。
それもまた、現実の一つです。
次はいよいよ最終戦になります。
最後まで見届けていただけたら嬉しいです。




