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ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
暴食の塔編

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そもそもぉ!?

「そもそもぉ!!」


 私は、肺の底から空気を絞り出すように叫んだ。


 その声は自分でも少し驚くくらい大きく、第30階層の闘技場の空気をビリビリと震わせた。


「私には、骨兵(スケルトン)なんか目じゃないくらいの、無駄に極振りした圧倒的VITがあるのよ!!」


 言うが早いか、私は展開していた骨兵達への魔力供給と命令を強制的に叩き切った。


 前線に分厚く並んでいた骨の盾が、がらがらと音を立てて崩れ落ちる。遊撃に回していたゴブリン達も一斉に後退させ、雑兵用の召喚枠を空にする。


 強固な召喚の壁を自ら手放した瞬間、オルグランの兜の奥の赤い目が、明確な困惑を孕んでこちらへ向いた。


 それは、奴のデータベースにはない、明らかに『想定外の動き』だった。


 無理もない。今まで私はこの塔の中で、骨兵やゾンビ兵を使って前線を作り、ミルキーの盾と合わせて敵の攻撃を分散させ、ミーナやネネが動きやすい盤面を作ることに徹してきた。


 極めて合理的だった。安定していた。


 あの第20階層のリトグラが観察し、その後も塔が学習してきた私の戦術データも、間違いなくそういう『手堅い中衛寄りのサモナー』としての姿だったのだろう。


 でも。それは、私の本職じゃない。


「骨剣!」


 私は手元の白い骨剣を強く握り直すと、助走もつけずに全力で前方へ放り投げた。


 ブォンッ! と風を切る唸りを上げ、骨の刃がオルグランの顔面へ向かって一直線に飛んでいく。


 オルグランは即座に巨大な盾を上げる。


 当然、防がれる。甲高い金属音と共に骨剣が弾かれ、クルクルと宙へ跳ね上がった。


 だが、その瞬間。私はすでに、闘技場の床を全力で蹴り飛ばしていた。


「グオォォ!?」

 

 ーーそんな大きな胸で、なんでそんな動きをするんだ!?

 そんな目をしていた。

 なんでわかるかって? 目が胸に釘付けになってるから!


「リエラさん!?」


 ミーナの悲鳴のような声が背中から聞こえる。


 たぶん、今の私の姿は、完全にやぶれかぶれになった素人の特攻に見えただろう。召喚を自ら解除し、前衛の壁を捨て、単身で格上のボスの懐へ突っ込んでいくのだ。安全策の欠片もない、普通なら悪手中の悪手。


 でも、私達にとっては違う。


 これは今までの塔外での攻略で、当たり前のようにやってきた最も得意な『手』だ。


 塔に入ってから、ただあまり使わなかっただけ。ミルキーという優秀な盾役との連携を考え、中衛寄りに収まり、ミーナの最大火力を通すことに徹していただけなのだ。


 けれど、本来の私は、もっと雑で、もっと硬くて、もっと強引に前に出る。


 敵のヘイトを力技で買い、理不尽な攻撃をその身で受け、暴れ回り、無理やり戦場の中心を奪い取る。


 それこそが、魔王軍の盾たる『私』だ。


「知らなかったでしょ?」


 私はオルグランの巨大な盾の下へ、滑り込むように潜り込んだ。


 巨体が即座に反応する。丸太のような腕がしなり、戦斧が真横から迫る。


 私は――避けない。


 ガァァァンッ!!


 肩から斜めに、その重い1撃をまともに受け止めた。


 凄まじい衝撃が全身を貫き、視界が一瞬だけ明滅する。


 けれど、HPバーはほんの僅かに削れただけ。


 倒れない。


 私のVITは、この程度の1撃で沈むほどヤワじゃない。


「こっちが私の本職なの。ナイショにしててごめんね!」


 私は力強く拳を握り込み、スキルを発動してオルグランの分厚い腹部へと叩き込んだ。


 ――《発勁》。


 ただのパンチではない。

 身体の芯から魔力と体重を通し、破壊の衝撃を1点へ押し込む重い1撃をねじ込む。


『グォォッ……!?』


 5メートルを超えるオルグランの巨体が、わずかにぐらりと揺れた。


 ほんの少し。でも、私にとってはそれで十分すぎる隙だ。


 私は床を蹴ってふわりと跳び上がり、先ほど弾かれて宙に浮き、ちょうど落ちてきた骨剣へ向かって足を伸ばす。


「よっ、と!」


 空中で回し蹴りを放つ。


 蹴り飛ばされた骨剣が予測不能な軌道へ変わり、オルグランの装甲の薄い肩口へ突き刺さった。

 

 着地と同時にその柄を掴む。引き抜く。そのまま斬る。


 斬る。殴る。蹴る。


 もう1度、至近距離から骨剣を投げる。盾で弾かせる。弾かれた骨剣を、今度は膝で蹴り戻す。


 嵐のようなデタラメな連撃。


 オルグランの兜の奥の赤い目が、ここに来て初めて大きく揺らいだ。


 そう。見えていなかったのだ。


 リトグラが見たのは、あくまで『骨兵を操る慎重な私』だけ。そして第21階層以降に塔が学習したのも、ミルキーの後ろに位置取り、ミーナとネネを繋げるパイプ役としての私。


 でも、それはこの塔に入ってからの最適化された私であって、私の『全部』じゃない。


「リエラさん……」


 後方で、ミーナが小さく呟くのが聞こえた。


 その声には心配が混じっていた。けれど、決して「止めて」と制止する声ではなかった。


 分かってくれたのだと思う。私が自暴自棄になって無茶をしているのではなく、1番輝ける『元の位置』へ戻ったのだということを。


◇


 そして、その私の無茶苦茶な盤面変更を、最初に戦術へ組み込んだのは――やはりミルキーだった。


「ポジションを変えます☆」


 ミルキーの凛とした声が戦場に飛ぶ。


 それまでベルナデッタと共に正面で重い攻撃を受け流していた彼女が、すっと滑るように半歩横へずれた。


 正面を譲る。この私に。


 代わりにミルキーは、私が暴れ回って作った乱戦の隙間へ、まるで水のように滑り込んできた。


 オルグランの盾が、目障りな私を押し潰そうと上から迫る。


 その瞬間、ミルキーの右手の盾が真横から完璧なタイミングで叩き込まれた。


 盾で、巨大な盾を弾く。


 ただ力任せに弾くだけじゃない。衝撃のベクトルをずらし、相手の盾の縁をわずかに浮かせ、その下にできたほんの一瞬の隙間へ、左手の剣をスッと差し込む。


 浅く。けれど、恐ろしいほど正確に。


 関節の隙間。重装甲の継ぎ目。


 彼女の剣は、派手な大ダメージを一切狙わない。私が暴れて引き出した敵の隙に、外科手術のような精度で小さなダメージを確実に積み重ねていく。


「うわ、細かっ……!」


 目の前で繰り広げられる神業に、思わず声が出た。


 オルグランの盾はまだ機能している。戦斧も振れる。巨体も崩れていない。


 でも、確実にその動きが鈍っていく。


 システム上の数値にすれば、ほんの数%の小さなデバフかもしれない。けれどトッププレイヤーの集う戦場では、そのコンマ数秒の『小さな鈍り』が命取りになる。


「脱帽だよ、ミルキー!」


「恐縮です☆」


 真面目に返しながら、ミルキーはまたカンッと澄んだ音を立てて盾を当てる。


 オルグランの防御が数センチ外へ流れる。そこへ私がすかさず重い《発勁》を叩き込む。さらに、ミルキーの剣が装甲の継ぎ目へ正確な1撃を刻む。


 その連携は、完全な即興だった。


 事前の打ち合わせなんて一切ない即興なのに、あまりにも完璧に歯車が噛み合っていた。


 さすがはトップクランの最前線攻略班。私が前衛へ戻り戦況がカオスになった瞬間に、即座にそれに合わせて自分の役割を『メインタンク』から『サブタンク兼デバッファー』へと完全に書き換えたのだ。しかも、一切の迷いなく。


「ネネさん☆」


「分かってるって!」


 ネネの楽しげな声がしたが、そこに彼女の姿はもうない。


 ここぞとばかりに、隠密スキルで完全に気配を消している。


 オルグランの強烈な殺意と視線が、目の前で鬱陶しく暴れる私へと完全に固定される。


 その攻撃はミルキーの盾に巧妙に弾かれ、巨体を支える足元は細かく削られ続ける。


 そして、見えない背後には死神のようなネネが潜んでいる。


 最悪だ。敵から見れば、これ以上ないくらい嫌な盤面が完成していた。


「ベルナデッタ、押して!」


「承知!」


 真紅の騎士が大剣を構え、私とは反対側からオルグランへ強烈な圧をかける。


 エルーサの優しく温かい回復光が私の僅かに削られたHPをすぐさま満たし、そして――背後で、ミーナの炎がじわりと、太陽のように膨れ上がっていくのを感じた。


 詠唱が始まっている。


 長い。重い。空気が乾燥し、肌を焦がすほどの熱。


 間違いなく、戦況をひっくり返す極大魔法の気配。


 オルグランも本能でそれに気づいたのだろう。私へ向けていた視線が、一瞬だけ、忌々しそうにミーナへと向いた。


「行かせないっ!」


 私は手にした骨剣を躊躇いなく手放し、両手でオルグランの巨大な盾の縁へガシッと掴みかかった。


 当然、単純な力比べなら分が悪い。相手は5メートル超えの巨体を持つオークジェネラル。こっちはステータス画面上だけは立派だが、見た目はただの低身長サキュバス系美少女だ。


 絵面だけを見れば、大人に立ち向かう子供のようで無謀にもほどがある。


 でも、私のVITはそんな常識的な絵面を容易く裏切る。


「ん、ぐぐぐっ……!!」


 私の踏ん張りに、足元の頑丈な石床が悲鳴を上げて軋む。


 途方もない圧力が全身へとかかる。


 それでも、私は押し返さない。ただ、『止める』。


 たった1秒。いや、0.5秒でもいい。ミーナがその恐ろしい詠唱を完了させるのに必要な、そのわずかな時間を私がこの身体で稼ぎ出す。


「リエラさん!」


「こっちは任せて! 撃ち抜いて!」


 私は、歯を食いしばりながらニカッと笑った。


 たぶん、顔が引き攣っていて、かなり無理のある不格好な笑顔だったと思う。


 でも、ミーナはそれ以上何も言わなかった。


 代わりに、彼女の紡ぐ詠唱の声が一段と深いものへと変わる。彼女の杖の先端に集まる炎が、赤から、すべてを焼き尽くす純白へと変わり始めた。


◇


 その瞬間。


 オルグランの背後の空気が、音もなく裂けた。


 一閃。


 ネネの両手の短剣が、オルグランの首元を斜めに走った。


 狙ったのは、鎧の分厚い首当てと肩鎧の間にある、ほんの僅かな可動部。


 普通なら、静止している相手にすら狙うことが難しい場所だ。


 だがネネは、乱戦の中で動き回る巨体に対し、そこへ一切の迷いなく刃を通した。


 赤いヒットエフェクトが派手に弾ける。


『ガァァァァァァッ!?』


 オルグランが、戦闘開始から初めて大きな呻き声を上げた。


 致命傷ではない。もともと規格外の体力を誇る第30階層の守護者だ。その程度で倒れ伏すようなヤワな相手ではない。


 だが、それで十分だった。


 戦斧を振るう腕の力が一瞬抜け、私が掴んでいる盾を押し込む圧力がフッと弱まる。そして、奴の視線と意識が完全に乱れた。


 詠唱の時間を稼ぎ、標的を固定するには、それだけでお釣りがくる。


「全員、下がって☆」


 ミルキーが鋭く叫ぶ。


 ベルナデッタが大剣を引いて飛び退き、エルーサが後退しながら万が一のための防御結界を厚く張る。


 ネネは仕事を終えた暗殺者のように、影へ滑り込んで一気に距離を取る。


 ミルキーも右手の盾を構えたまま、美しいバックステップで安全圏へと跳んだ。


 下がらないのは、私だけ。


 いや、下がれないのではない。『下がらない』のだ。


 怒り狂うオルグランの真正面で、私はさらに両足に力を込めて深く踏ん張った。


 ミーナの極大魔法を、一歩も逃がさず確実に全段当てるために。


 オルグランという巨獣を、このデッドゾーンに完全に縫い止めるために。


「リエラさん、巻き込みます!」


「上等! 私ごと巻き込んで!!」


 私は笑いながら叫ぶ。


 胸の奥が、かつてないほど熱く滾っている。


 怖くないわけじゃない。痛いのは嫌だ。


 でも、私には分かっている。ミーナの放つ魔法なら、私ごと巻き込んだとしても、絶対に勝利への道筋を切り開いてくれると。


「全て燃え灰になれ。全て燃え燼になれ。其の未来を終焉へ……」


 後方にはエルーサがいる。ミルキーがいる。ネネがいる。


 そして何より――私は、この程度の熱でそう簡単に落ちるような盾じゃない。


「ミーナ!!」


 私はオルグランの巨大な盾を全力で押さえ込みながら、声の限り叫んだ。


「いっけえええええええええっ!!」


 瞬間。


 闘技場の世界が、純白の光に染まった。


「インフェルノ!!」


 ミーナの凛とした声が響き渡る。


 それは、ただの爆炎などという生易しいものではなかった。


 闘技場の石床に刻まれた巨大な炎陣が一斉に開き、空間の空気そのものが発火して燃え上がる。


 赤。橙。そして中心部へ向かうほどに輝く白。


 幾重にも重なった超高温の炎が、まるで世界を飲み込む巨大な花のように咲き誇り、中心にいたオルグランを――そして私を、完全に呑み込んだ。


 凄まじい熱が来る。


 爆発の衝撃が来る。


 あまりの轟音に、一瞬だけ他の音が遠ざかる。


 私は顔の前で腕を交差し、奥歯を強く食いしばる。


 味方の魔法とはいえ、フレンドリーファイアのダメージ設定がある以上、私のHPバーも目に見えて削れていく。視界が赤く揺れ、灼熱のエフェクトが全身を包む。


 でも、足は一歩も引かない。


 私の背後には、私を信じて魔法を放ったミーナがいる。


 私の隣には、最高の連携を見せてくれた仲間達がいる。


 私の前には、絶対に倒すべき強敵がいる。


 だったら、ここが魔王たる私の居場所だ。


『ぐ、ゴォォォォォォォォッ!!』


 業火の中で、オルグランの巨体が大きく揺らぐ。


 分厚い重装鎧が赤熱し、ミルキーが刻んできた小さな攻撃箇所へ炎が集中していく。巨大な盾が限界を迎えたように軋み、戦斧も激しい熱を帯びていく。


 それでもなお、オルグランは膝を突かない。


 さすがは第30階層の守護者。さすがは暴食の将軍。


 けれど、その赤い双眸にもう、私達を完全に掌握しているという確信は一切なかった。


 私は吹き荒れる炎の中で、新たな骨剣を再生成する。


 肌を刺すような熱風を気合で押し返し、崩れかけた盾の向こう側へと、最後の1歩を踏み出した。


「これで――」


 オルグランの瞳が、炎越しに真っ直ぐに私を捉える。


 もう、第20階層のリトグラが集めたデータなんて一切関係ない。


 奴は今、ここにいる『私』を見ている。


 骨兵の後ろに隠れるサモナーでもなく、中衛でチマチマと指揮を執る裏方でもない。


 最強のVITで理不尽を受け止め、武芸で殴り合い、前線のど真ん中で誰よりも泥臭く暴れ回る。


 これが私だ。


「終わりに、するっ!!」


 私は雄叫びと共に、骨剣を宙へ放った。


 白い刃がオルグランへ向かって飛ぶ。


 盾が反応し、骨剣を弾く。


 その瞬間を待っていた。


 跳ね返ってきた骨剣へ、私は全身を捻って回し蹴りを叩き込む。


 ギィンッ!


 再加速した白い刃が予測不能な角度からオルグランへ襲いかかる。


 そして私は、その骨剣とほぼ同時に懐へ飛び込んだ。


 右の掌を引き絞る。


「っるぁぁ――発勁ッ!!」


 骨剣と武芸。


 私の最も得意な、滅茶苦茶な2つの攻撃が同時にオルグランへ叩き込まれた。


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