↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
暴食の塔編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/147

20層・リトルグラトニー

 ≪暴食の塔 第16階層≫


 踊るスイーツたちの広間を抜けてからも、攻略は順調に進んでいた。カフェで会った少女のことは気になるけれど、目の前の敵が考え事を待ってくれるわけではない。通路いっぱいに膨れたクリームスライムを見つけたところで、私はいったん意識を戦闘へ戻した。


 ミルキーが右手の盾を押し込み、柔らかい身体を横へ広げる。押し流されたクリームの奥に核が覗いた瞬間、ミーナの炎弾が飛び込んだ。ネネが側面へ回り終える頃には、スライムは焼け崩れ、通路を塞いでいた身体を光へ変えていた。


「今の、あたしの出番なかったねぇ」


「次に期待しよ。どうせ、まだいっぱい出るんだから」


 そう答えた私の予想通り、第17階層では敵の数に困ることになった。広間の奥にいるのは、巨大な菓子職人を模した魔物だ。その傍らのオーブンから、焼き上がったばかりの兵士が次々と飛び出してくる。


 だったら、こちらも数で受け止めよう。召喚した骨兵とゾンビ兵を前へ出し、通路へ押し寄せる菓子の兵隊を食い止める。その間に姿を消していたネネが、菓子職人の背後へ回り込んだ。


 短剣が急所を捉えると、兵士を送り出していた腕が止まった。続く攻撃で本体が倒れ、オーブンも動かなくなる。兵隊を一体ずつ倒していたら、どれだけ時間を取られたことか。こういう相手を任せられるのは、本当にありがたい。


 第18階層にいたのは、巨大な口が目立つ不気味な魔物だった。正面から飛んでくる攻撃を呑み込み、吸収した魔力を増幅して吐き返すらしい。力任せに魔法を撃ち込めば、そのままこちらへ返ってくる厄介な相手だ。


 けれど、攻撃を呑み込むには口を開かなければならない。ミルキーが盾を噛ませて顎を支えている間に、私は骨の槍を差し込み、閉じようとする動きを妨げた。そこへミーナが側面から爆炎を浴びせると、口の外側まで守れるわけではなかったらしく、今度はしっかりとHPが削れていった。


 そのまま倒し切り、第19階層へ進む頃には、4人での動きもずいぶん噛み合ってきていた。敵の癖に合わせて誰かが仕掛ければ、ほかの3人が続けられる。順調だからと油断するつもりはないけれど、こういう手応えがあると攻略は楽しい。


「あーっ! あの敵、逃げてる!」


 私たちを見つけるなり通路の奥へ走り出した魔物を、ネネが追いかけていく。すでに次の階段へ向かう道は見えていたので、私はその背中へ声をかけた。


「ネネ、そっちまで追わなくても進めるんじゃない!?」


「何か落とすかもしれないじゃーん!」


 返事を残し、彼女は曲がり角の向こうへ消えた。直後に短い物音がして、間もなく何事もなかったように戻ってくる。戻る足取りまで軽いあたり、逃げた魔物にとっては災難だったとしか言いようがない。


「お待たせ~」


「今、すごく楽しそうに追いかけてたよね」


「逃げられると気になるじゃん。何持ってるのかなーって」


「ネネって、案外戦闘狂?」


「楽しめるときに楽しんでるだけだよ~」


 否定になっているような、なっていないような返事だった。まあ、敵を見たら食べられるか考える私が言えたことでもない。追及はそのくらいにして、私たちは第20階層へ続く階段へ向かった。


 上からは冷たい風に混じり、甘い香りが流れてくる。第10階層の守護者へ挑んだときは、近づくだけで咆哮が聞こえ、扉の向こうに大きな敵がいると分かった。今回は耳を澄ましても、暴れる音も足音も聞こえない。


 代わりに、かちゃり、と硬いものが触れ合う音がした。食器を置く音に似ている。塔の中でなければ、食事の支度でもしているのかと思っただろう。


「第20階層の守護者については、攻略班にもかなり情報が集まっています☆」


 階段を上りながら、ミルキーが説明を始めた。普段より少し声を落としているのは、上の様子を気にしているからだろうか。


「正式名称は《リトルグラトニー》。プレイヤーの間では、リトグラという愛称で呼ばれています☆」


「ボスなのに、愛称までついてるんだ」


「何度も塔に挑んでる人は、そのたびに会うからねぇ。見た目も可愛いし、けっこう人気あるんだよ」


 ネネも話に加わり、見上げていた私の隣へ並んだ。


「公式でも、リトグラのグッズっぽいアイテムが売られてた気がする」


「攻略の邪魔をするボスのグッズを、攻略してる人に売るの?」


「欲しい人は買うじゃん?」


 言われてみれば、その通りだ。何度倒されても好きなボスというのはいるし、苦労した相手ほど印象に残ったりもする。商売が上手いなぁ、と妙なところに感心しながら階段を上り切った。


 目の前にあったのは、白い扉を金の装飾で縁取った、大きな両開きの扉だった。中央にはナイフとフォークを交差させた紋章があり、その周囲に果実や肉、菓子の彫刻が並んでいる。近づくと、葡萄の粒やパイ生地の重なりまで彫り込まれているのが分かった。


 立派ではあるけれど、ここまで食べ物ばかりだと徹底している。中で待っているボスも、私たちを食材として迎えるつもりなのだろうか。


「この先ですね☆」


 ミルキーが右手の盾を持ち上げ、左手の剣を構えた。ネネも雑談をやめ、扉から少し距離を取っている。2人の様子を見て、私も骨剣を握り直した。


「気をつけた方がいい攻撃はある? 大技とか、初見だと分からない仕掛けとか」


「報告されている範囲では、特別に危険なものはありません☆ 攻撃力も耐久力も、この階層の守護者としては標準的です。ここまで来られるパーティなら、比較的安定して倒せる相手ですね」


「……その説明の割に、警戒してない?」


「強さとは別に、気になる動きをするボスなんです☆」


 ミルキーは扉から目を離さずに答えた。ネネも否定しないので、冗談ではないらしい。詳しく聞こうとしたところで、目の前の扉が重い音を立て、左右へ開き始めた。


 中は、大きな晩餐会場のような部屋だった。天井のシャンデリアが長い食卓を照らし、その上には肉料理や魚介のマリネ、果物のタルト、焼きたてらしいパンが並んでいる。取り分けられた皿まで用意されているのに、食卓を囲む客の姿はなかった。


 その奥、一段高くなった場所に置かれた椅子へ、少女がひとり座っていた。長い金髪は淡い色をしていて、肩から背中へ流れている。赤いドレスの裾にはフリルが重なり、白いレースをあしらったエプロンが、小柄な身体によく似合っていた。


 両手に握っているナイフとフォークだけが、どうにも食事用には見えない。あれで肉を切り分けるなら、皿に載せる前の塊から始められそうだ。


 ≪第20階層守護者 リトルグラトニー≫


 表示が浮かぶと、少女は椅子から軽やかに飛び降りた。手にした食器を下げ、ドレスの裾を摘まんで一礼する。その仕草は確かに可愛らしく、人気があるという話にも頷けた。


 ただ、顔を上げた彼女は、すぐには向かってこなかった。私たち4人を順に眺め、武器を構え終えるまで待っている。招いた客が席へ着くのを見守るような笑顔が、この場では妙に落ち着かなかった。


「来ます☆」


 ミルキーの声と同時に、リトグラが床を蹴った。大きなナイフが一直線に突き出され、右手の盾に弾かれる。続けて振るわれたフォークも左手の剣で逸らされ、横へ回ったネネが、その隙を短剣で斬りつけた。


 リトグラは肩に一撃を受けてから後ろへ下がった。深手ではないけれど、赤いHPバーは確かに減っている。ところがネネは追撃する前に、わずかに眉を寄せた。


「……今の、もう少し早く下がれたと思うんだけどなぁ」


「受けてから動いたように見えましたね☆ 念のため、反撃に注意してください」


 攻撃を受けることが条件のスキルでもあるのだろうか。私は2人の後ろから骨兵を展開し、前線の隙間を埋めた。いきなり人数を増やされたリトグラは、しかし、こちらへ踏み込むこともなく、並んだ骨兵へ視線を向ける。


 剣を持つ個体から盾を持つ個体へ、その後ろに立つ私へと、彼女の目が動いた。最後に頭上の『悪魔の髑髏』を見上げたところで、笑みが少し深くなった気がした。


「こっちの戦力を見てる……?」


 呟くと、リトグラはナイフをくるりと回した。たまたまかもしれないけれど、こちらの反応を面白がっているように見える。


「大技はまだ使いません。まず、このまま削りましょう」


 ミーナが小さな炎弾を放ち、リトグラの横へ逃げる道を塞いだ。炎を避けた先へネネが入り、短剣で退かせる。その動きに合わせてミルキーが盾を押し込み、私の骨兵も左右から距離を詰めた。


 囲まれたリトグラはナイフを振るい、骨兵の一体を崩した。けれど、開いた隙間から逃げるより先に、次の骨兵を差し向けた私を見ている。その間にもミーナの魔法が当たり、HPは着実に減っていった。


 戦えていないわけではない。前へ出ればナイフが来るし、横へ回ればフォークで牽制される。ただ、こちらを崩せそうな場面でも深追いせず、誰かが庇いに入ると、その動きを見届けてから離れるのだ。


「変ですね。攻撃を当てることより、その後のこちらの動きを気にしているように見えます」


 ミーナが杖を構えたまま言った。私も頷き、骨兵を1体、彼女の前へ下げる。その配置替えまで見られている気がして、少し嫌な気分になった。


「大技の準備って感じでもないねぇ。だからって、待ってあげる理由もないけど」


 ネネの短剣がフォークを持つ腕を捉えた。続く一撃で銀色の食器が弾き飛ばされ、床を滑っていく。リトグラは拾いに向かわず、空になった手を見てから、再び私たちへ顔を向けた。


 HPはもう残り少ない。それなのに、追い詰められた様子が見えなかった。最初から同じ表情をするボスだと言われれば、それまでなのかもしれない。ただ、こちらの動きに合わせて視線が変わるせいで、単に笑顔が固定されているだけとも思えなかった。


「リエラさん、トドメをお願いします☆」


 ミルキーが盾でナイフを押さえ、ネネが横へ抜ける道を塞ぐ。ミーナの炎が後方に広がったところで、私は骨剣を両手で握り、前へ出た。


 ここで何かを仕掛けてくるかもしれない。剣を振れる距離へ踏み込みながら、その手元を警戒した。けれどリトグラは、刃ではなく私の顔を見つめていた。


 目が合った瞬間、彼女の唇がゆっくり動く。声は聞こえなかったが、その形は「見つけた」と言っているように見えた。


「はぁぁっ!」


 気になっても、剣を止めるわけにはいかなかった。振り抜いた骨剣が身体を捉え、残っていたHPを削り切る。少女の姿にひびが走り、細かな光となって食卓の上へ散っていった。


 ≪第20階層守護者 討伐完了≫

 ≪第21階層への扉が解放されました≫


 表示を確かめてから、私は剣を下ろした。4人とも無傷で、切り札を使う必要もなかった。攻略としては文句のない勝ち方なのに、最後に見た口の動きが頭から離れない。


「……今、何か言ってなかった?」


「リエラちゃんの方、見てたよね。あたしの位置からだと、口元までは見えなかったけど」


「『見つけた』って、言ったように見えたんだけど……」


 自分でも、言い切ることはできなかった。声を聞いたわけではないし、そう思って見たからそう読めただけかもしれない。ミルキーはリトグラが消えた場所を見つめたあと、ゆっくり盾を下ろした。


「何度戦っても、気になる相手ですね☆ 攻略班でも、あの観察するような動きには何か意味があるのでは、と話されています」


「何かって?」


「挑戦者と戦いながら情報を集めて、上の階層へ伝えているのではないか、という説です☆」


 私は思わず、開いたばかりの扉へ目を向けた。その先には上へ続く階段がある。ここで見せた動きを、これから戦う相手が知っているかもしれないということか。


「装備やスキルだけではありません。誰を守るのか、攻撃を受けたあとにどう動くのか。そうした連携まで見ていると考えると、説明のつく場面はあります。ただ、情報を送っているところが確認されたわけではありません☆」


「わざと攻撃を受けたみたいに見えたのも、どのくらい削れるか確かめてた……とか?」


「その可能性はありますね☆」


 確かに、それなら妙な動きにも理由がつく。勝つことが目的ではなく、こちらを調べるために戦っていたのなら、自分のHPが減っても慌てなかったことには納得できる。


 もっとも、納得できることと、本当にそうであることは別だ。今の私には、不気味なボスの仕草を何でも意味ありげに受け取ってしまいそうな自覚もあった。昼間の少女に続いてあんな目を向けられれば、多少は疑り深くもなる。


「だから、手札を増やさずに倒したんですね」


 ミーナの言葉にミルキーが頷いた。ネネは短剣を収め、肩をすくめる。


「見てたとしても、今ので全部分かったわけじゃないしねぇ。わざわざ得意技の発表会をしてあげることもないじゃん」


 それはそうだ。私も今回は骨兵を中心に戦っていて、眷属たちまで呼んではいない。こちらの手の内が何もかも知られたと考えるのは、さすがに早すぎる。


 それでも、普段通りの連携を見せたことは確かだった。ミーナが魔法を放つ間、誰がどこで敵を止めるのか。骨兵が崩れたとき、私がどう補うのか。そういう部分を次の敵に利用されたら、単に硬い相手を殴るより厄介なことになる。


「もしその説が当たってたら、私たちの戦い方を、上のボスに食わせてるってことか……。悪趣味だね」


「次の階では、敵の反応にも注意しましょう。今まで通りに動いてくるとは限りません」


 ミーナの言葉に頷き、私は骨剣を握り直した。ここまで突破してきたのは、私たちがきちんと敵へ対処できていたからだ。それまで、向こうの思い通りだったことにしてやるつもりはない。


 ただ、この先も同じ調子で進めると思うのはやめよう。守る相手も、頼れる仲間も変わらないけれど、戦い方まで同じにする必要はないのだから。


 階段へ向かう前に、一度だけ食卓を振り返った。豪華な料理の向こうで、少女が座っていた椅子だけが空いている。もう何もいないと分かっていても、先ほどの笑顔がそこに重なった。


 見つけた、というあの言葉が誰に向けたものだったのか。答えを出せないまま、私は3人とともに次の階層へ進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。