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ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
暴食の塔編

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攻略開始☆【暴食の塔】

 ログインしてクランハウスのラウンジへ向かうと、ミーナとネネが立体地図を眺めていた。テーブルの上に浮かぶ塔の模型は、見上げるほど大きく拡大されている。いつもなら隣に座って雑談を始めるところだけれど、今日は私も先にそちらへ目が向いた。


 並んでいる塔は7本。そのうち4本には細かな形状や名前まで表示されているのに、残りの3本は黒いシルエットのままだ。まだ分かっていないことが多いらしく、そちらには具体的な情報が添えられていなかった。


「みなさ~~ん、こんほしさま~! お揃いですね~☆」


 地図を覗き込んでいると、背後から聞き慣れた明るい声がした。振り返れば、ミルキーがこちらへ手を振っている。彼女が加わっただけで、攻略資料とにらめっこしていたラウンジが、いつもの配信の空気に近づいた。


 これから難しい場所へ挑むというのに、見ている人まで楽しませることを忘れないのだから大したものだ。私なんて、塔の模型を見ただけで少し肩に力が入っていたのに。


「では改めて、本日の目的を確認します☆」


 ミルキーの言葉に合わせて地図が切り替わり、1本の塔が淡い金色で強調された。その下に浮かんだ『暴食の塔』という文字を、私たち3人が揃って見る。


「現在、エタファン内で存在が確認されている塔は4つです☆ 今日挑戦する暴食の塔と、嫉妬の塔、怠惰の塔、傲慢の塔ですね」


「そこまで揃ってると、残りも気になるよねぇ」


 ネネがソファの背もたれに寄りかかりながら、黒いシルエットを指差した。ミルキーも頷き、その3本へ表示を移す。


「はい☆ トップ層の研究班でも、7つの大罪に対応する塔があるのではないかと考えられています。ただし、こちらの3本はまだ仮置きです。存在や名前が確認されたわけではありませんので、そこはお間違えなく☆」


「その予想が当たってるなら、残りは憤怒と強欲、それから……」


「色欲、ですね」


 ミーナが続けた言葉に、思わず指先が止まった。


 昼間、カフェで出会った少女の姿が脳裏に浮かぶ。黒いロリータ服を着て、テーブルいっぱいのパフェを次々と平らげていた、あの不思議な子。別れ際、彼女は確かに私をそう呼んだ。


 ――いずれまた会いましょう、色欲さん。


 あれは何だったんだろう。ここならともかく、現実の私に向かって口にする呼び名ではないはずだ。つい尻尾へ意識を向けると、今は当たり前にそこにある感覚が、かえって昼間の奇妙な出来事を思い出させた。


「リエラさん? どうかしましたか」


「……ううん。大丈夫だから、続けて」


 顔を覗き込んできたミーナへ笑ってみせ、私は地図へ視線を戻した。考え始めたら、またあの子のことで頭がいっぱいになってしまう。少なくとも、攻略前の説明を聞き逃していい理由にはならない。


 ミルキーは私の様子を一度確かめてから、塔の横にいくつもの資料を並べた。挑戦回数や踏破率、途中で帰還したパーティの記録に、出現する魔物の報告まである。さすがに、よく調べられているらしい。


「暴食の塔は、確認されている中でも攻略が進んでいて、情報の多い塔です☆ ただ、攻略情報があるから安全、というわけではありません」


 彼女が指を動かすと、資料の一部が拡大された。赤く表示された数字を見て、私は思わず眉を寄せる。


 ≪累計全滅回数 93412≫


「うわぁ……9万回全滅って、これはさすがに引くねぇ」


「それだけ挑戦する人も多いということですが、準備をせずに突破できる場所ではないですね☆」


 数字だけで難易度を決められないのは分かる。それでも、これだけ多くのパーティが全滅していると聞いて、気軽に遊びに行こうとは思えなかった。先人たちの失敗を無駄にしないためにも、ここはきちんと聞いておこう。


「暴食の塔は全50階層。10階ごとに階層の守護者、いわゆるボスが待ち構えています☆」


 今度は塔の断面図が現れ、10階刻みに赤い髑髏の印がついた。最上階まで目で追ってから、私はその数を確かめる。


「つまり、ボスは全部で5体か。それを倒しながら上がっていくんだね」


「はい☆ そして、攻略するうえで忘れてはいけないのが、こちらの仕様です。どぅるるるー、ばばんっ!」


 ミルキーが自分でドラムロールを口ずさみ、断面図の横に新しい説明を表示した。妙に楽しそうな紹介の仕方だけれど、書かれている内容は全然楽しくない。


「途中で塔から帰還することは可能です。ただし、一度外へ出ると、次の挑戦はまた1階からになります☆」


「えっ、セーブポイントとかないの!? 10階まで行って帰ったら、次も1階から!?」


「その通りです☆ なので、先へ進むだけでなく、どこまで戦い続けられるかを考える必要があります」


 ボスを倒して、いったん帰って補給して、次の区切りまで進める。そんな都合のいい攻略はさせてくれないらしい。50階という数字が、さっきよりずっと重たく感じられた。


 帰還できるだけ親切なのかもしれないけれど、上まで進んでから引き返す判断をするのは相当つらそうだ。もう少し行ける、と欲張った結果が、あの全滅回数に含まれているのかもしれない。


「敵の傾向についても教えてください。継戦を考えるなら、どの程度の火力が必要か知っておきたいです」


 ミーナの質問に、ミルキーが魔物の資料を開く。並んだのは巨大な猪や太ったオーガ、丸々と膨れた食虫植物、それに部屋を埋めそうなスライムだった。どれも随分と立派に育っている。塔の名前に恥じない顔ぶれだ。


「HPやVITの高い魔物が多く確認されています☆ 食べたものを体内に蓄えたり、高い自己再生能力を持っていたりと、倒すまでに手間のかかる相手ですね」


「硬いうえに回復するのかぁ……」


 攻撃を受け止めるだけならともかく、長時間耐えていれば勝てる相手ではなさそうだ。こちらが少しずつ削ったHPを向こうが回復している間にも、魔法やスキルにはMPを使う。それを何階も繰り返していたら、上に着く前に息切れしてしまう。


「つまり、中途半端に削り合うより、相手の回復を上回る火力で一気に倒したいってことだね」


「はい☆ 戦闘を長引かせないことが、結果的に消耗を抑えることにも繋がります」


「それなら、私の出番ですね」


 ミーナが嬉しそうに杖を握り直した。その顔を見ると頼もしい反面、敵の頑丈さを聞いて喜べるのもなかなかだと思う。存分に魔法を撃てる相手だと判断したらしい。


 私が前で受け止めて、ミーナが火力を叩き込む。そこにネネとミルキーがいるのだから、やりようはあるはずだ。気をつけることは多いけれど、話を聞いているうちに、実際に戦って確かめたい気持ちも湧いてきた。


「よし。気をつけるところは大体分かったよ」


「では、申請のためにギルドへ向かいましょう☆ 応援に来てくださる皆さんも、待っているはずですから」


     ◇


 街の中心にある冒険者ギルドは、今日も大勢のプレイヤーで賑わっていた。私たち4人が連れ立って歩いていると、あちこちから視線が向けられる。こちらに気づいた人が隣の仲間をつつく様子まで見えて、なんだか出発前から落ち着かない。


 その中を進み、塔への挑戦を受け付ける専用カウンターに並んだ。窓口のNPCは私たちを順に確認すると、淡々と手続きを始める。


「暴食の塔への挑戦申請でよろしいですね」


「はい、間違いありません☆」


 パーティリーダーのミルキーが答えると、NPCは続けて入場条件を読み上げた。


「パーティメンバー4名。入場に際し、全員のレベルを70へと強制シンクしての挑戦となりますが、よろしいですか」


 私は表示された条件を確認して頷いた。いつものレベルのまま戦えるわけではない以上、ステータスに任せた無茶は控えた方がいいだろう。そう考えながら隣を見ると、ミーナとネネも了承を示していた。


「問題ありません。その条件でお願いします☆」


 全員の同意を受け、NPCがカウンターの水晶へ手をかざす。淡い光が私たちを包み、視界の端にクエスト受注の通知が浮かんだ。


 ≪クエスト受注 暴食の塔≫


「転移準備が整いました。皆様の無事と、ご武運をお祈りします」


 足元に広がる魔法陣へ目を落としたところで、周囲の景色が白く染まっていく。ギルドの喧騒が遠ざかり、私は隣にいる3人の姿を確かめながら転移を待った。


     ◇


 光が収まると、塔の入口前に設けられた広場へ立っていた。まず目に入ったのは、巨大な石造りの門だ。視線を上げてもすぐには全体が収まらず、その奥に続く塔を見ようとして、さらに首を反らすことになった。


「おぉ……映像で見るのと全然違うね、これ」


 配信で見たことはあったけれど、自分の足で入口に立つと大きさの感じ方がまるで違う。門の近くにいるプレイヤーが小さく見えるせいで、余計にそう感じるのかもしれない。半ば開いた扉の向こうは暗く、ここからでは中の様子を窺えなかった。


 あそこを通って、50階まで上がるのか。さっき見た断面図を思い出しながら塔を見上げていると、隣でネネが息を吐いた。


「こうして入口に立つと、やっぱり緊張するねぇ」


「ネネさんでも、そういうことを言うんですね」


「そりゃ言うよ~。気楽にお散歩って場所でもないじゃん?」


 口調はいつも通りだけれど、ネネの視線は門と周囲のプレイヤーの間を動いている。ミーナも塔を見上げたあと、杖を持ち直していた。誰かが張り切りすぎているより、今くらいの方がちょうどいいのかもしれない。


 そのとき、広場の外周から大きな歓声が上がった。振り返ると、見学者用の柵の向こうで、大勢のリスナーたちがこちらへ手を振っている。


「ミルキーさん、頑張ってください!」

「ネネちゃん、派手にやっちゃってー!」


 名前を呼ばれたミルキーが笑顔で応じると、さらに歓声が大きくなった。ネネも片手を高く上げ、さっきまで塔へ向けていた真面目な顔を緩める。


「ミーナ様の爆裂魔法、楽しみにしてます!」

「リエラ様ー! 絶対勝ってきてくださいねー!」


 色とりどりのサイリウムに、頭上で振られる武器、次々と繰り出されるエモート。これだけの人数が揃うと、どこを見ても誰かと目が合う。塔に気を取られていた私も、慌てて手を振り返した。


 ミルキーのファンである星屑隊は、揃った掛け声で声援を送っている。その近くではネネのファンが元気に飛び跳ね、ミーナを応援する一団が魔法のエフェクトを打ち上げていた。頭上で弾ける光に歓声が重なって、攻略前というよりお祭りの会場みたいだ。


 私の臣民たちも負けじと声を張り上げているのだけれど、こちらは少しばかり注文がおかしい。


「リエラ様ー! 今日も新しい技、期待してます!」

「骨王様ー! 思いっきり暴れて、塔を更地にしてきてくださいねー!」


 いや、攻略しに来たんだけど。更地にしたら、後から挑戦する人たちが困るでしょ。


 そう思ったものの、楽しそうに手を振ってくれる姿を見ていたら、こちらまで笑ってしまった。無事に帰ってこようと心配してくれる人も、派手な戦いを期待している人もいる。せっかく見送ってもらうのだから、入口で縮こまったままでは格好がつかない。


「感心感心。臣民たち、応援ありがとう!」


 私は大きく手を振り、3人の顔を見た。ミーナが頷き、ネネが笑って、ミルキーが門へ向かう道を示してくれる。それを確かめてから、もう一度リスナーたちへ向き直った。


「新生リエラ魔王軍、出陣よ!」


 応える歓声に背中を押され、私たちは門へ歩き出した。入口が近づくにつれて、その向こうの暗闇が視界を占めていく。それでも、隣を歩く仲間の足音が聞こえていると、広場へ着いたときほど気圧されずに済んだ。


 目指すは50階。まずは最初の1階から、私たちの攻略を始めよう。


 私は3人と並んで、暴食の塔の門をくぐった。

お待たせミルキーちゃんだよ☆

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