【第1話:新章の舵】
「いよいよ、始まったんだな──」
FC事業、本格始動。
言葉にすればそれだけだけど、その重みはレナの胸にずっしりとのしかかっていた。
なでしこ本店の事務所。誰もいない早朝の空間に、レナは一人、カップを片手に立っていた。
パソコンの画面には、昨日まとめた役割分担の資料と、今日のチェックリスト。
どこまでも静かな朝だったけれど、その静けさがむしろ「嵐の前」のように感じる。
──半年後に、幹部6名全員に倍の月給を支払える体制にする。
会議でそう言い切った自分の声が、まだ耳に残っていた。
(言ってよかった、って思う反面……本当に実現できるのか、っていう怖さもある)
そんな弱気を、レナは無理やり追い払うようにコーヒーを飲み干した。
このタイミングで怖がっていたら、社長の資格なんてない。
スマホに通知がいくつか届いていた。
カノンからはSNSの投稿確認。
ミユからは新しい新人教育フローのたたき台。
ヒナからは「今日も“もも”の指導してきます!」の報告。
(……みんな、もう前を見てる)
ふと、机の隅に置いた手帳を手に取る。
数ヶ月前、この手帳に「再スタート」と書いた日があった。
そこからここまで来た。バラバラだった組織が、今はひとつの方向を見ている。
──でも、ここからは「もっと難しい」。
店舗が増えれば、キャストも増える。
全員に目が届くわけじゃない。育成、ブランディング、品質、売上。全部、任せていかなきゃいけない。
そのために、「レナじゃなくてもできる」仕組みを作る。それが社長の仕事。
(私はもう、現場の主役じゃない)
そう呟いた瞬間、少しだけ胸がチクっと痛んだ。
でもその痛みは、ほんの少しの“寂しさ”に過ぎない。
「さあ、動こう」
レナは立ち上がり、手帳に新しい言葉を書き足した。
「第3章:事業拡大と、未来の幹部たち」
その筆跡は、どこか優しくて、力強かった。




