表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/42

【16話:次のわたしへ】

「初日、よく頑張ったね。」

ヒナの声が、想像以上にやさしかった。

カウンターの奥からその光景を見ていたレナは、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。

あの子──“もも”は、今日が初日。たどたどしい笑顔も、ぎこちない立ち姿も、全部が初々しくて、まぶしかった。

(わたしにも…あんな頃、あったっけ。)

思い返す。初めてカウンターに立った日。笑顔が引きつって、伝票を落として、常連のお客さんに助けられたあの日。

今はもう、忘れてしまったような気がしていたけれど。あの子の姿が、過去の自分を照らし返してくる。

「レナさん、厨房の備品発注、来週分どうしますか?」

ミユの声がかかる。自然体で、テキパキと現場を回す姿は、もう店長そのものだった。

「ありがとう、任せる。必要なもの、ミユの判断でいいよ。」

自分が現場に立たなくなって、どれくらい経っただろう。

少し前なら、すべてを自分の目で見て決めないと不安だった。けれど今は違う。

(この子たちがいるなら、もう任せていいのかもしれない。)

不意にヒナがももと笑いあっているのが目に入る。

あのヒナが、後輩に言葉をかけている。

かつては「敵」とすら感じていた彼女が、今や誰かの“背中”になり始めている。

(…なんか、すごいな。)

レナは少しだけ複雑な気持ちを抱えたまま、ゆっくりと立ち上がる。

その背中を、カノンが追いかけてきた。

「レナさん、Xのトップ画像、そろそろ別の子に変更しますね。」

「うん、ありがとう。カノンに任せるよ。」

当たり前のように、広報も現場も、それぞれのプロが支えてくれている。

ももはきっと、そんな背中を見て育っていく。

レナは、少しだけ視線を上げた。

(もう、全部わたしがやらなくてもいい。今度は、わたしは“切り開く側”に立たなきゃ。)

「…ねえ、カノン。明日ちょっと時間ある?今後の広報戦略、少し話したくて。」

カノンが笑って頷く。

「もちろん。楽しみにしてます。」

社長という肩書きの重さは、今も変わらず背中にのしかかっている。

けれどその重みを、みんなと一緒に背負っていけることが、なによりの強さだと今なら分かる。

レナはそっと、胸の内で言葉をつぶやいた。

(次のわたしへ。そろそろ、本気で踏み出そうか。)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ