【15話:あこがれの背中】
「…あ、はじめまして!今日から入りました、ももです…!」
声は震えていたけど、瞳は真っ直ぐだった。
面接のとき、カノンが載せた求人投稿の言葉が頭から離れなかった。
──“派手じゃなくていい。だけど、誰かの記憶に残る子が、ここには必要です。”
「それなら、わたしも…できるかもしれない」
そんな風に思えたのは初めてだった。だから、怖くても飛び込んだ。
そして今日が初出勤。
なでしこのドアを開けた瞬間、思わず息をのんだ。
制服姿のキャストたちが、自然に笑い、軽やかに言葉を交わしている。
何気ないその動き一つひとつが、どれも洗練されていて、まるで舞台を見ているようだった。
「ももちゃん、いらっしゃい。今日は緊張しなくていいからね〜」
ミユがやさしく笑ってくれた。でもその声の奥に、店全体を見渡す鋭さがあることにもすぐに気づいた。
「これが…店長なんだ…」
その後、ヒナが近づいてきた。
「新入りか〜。緊張してんの?だよね〜ガハハ!まあ、すぐ慣れるよ。…って言って慣れなかったらどうしような!」
冗談交じりに笑いながらも、動きには一切の無駄がない。
ヒナの周りには常にお客さんの笑い声があって、空気が途切れない。
「すごいな…」
数時間後、ももは慣れない笑顔に喉をからしながら、裏で水を飲んでいた。
——私、ほんとにここでやっていけるのかな。
そんな不安がこみ上げたそのとき、帰り際にヒナが声をかけてきた。
「おつかれ。初日、よく頑張ったね。」
ふと見上げると、ヒナは思ったよりずっとやわらかい目をしていた。
「緊張してるの見えてたけど、ちゃんと伝わってたよ。…一生懸命って、伝わるからさ。」
その一言が、不安だったももの心に、じんわりと染み込んだ。
帰り道。制服姿の自分が窓ガラスに映る。
まだまだ拙くて、周りのキャストたちと比べると“何もできない子”だ。
でも——
「いつか、あの人たちみたいになりたい。」
その思いだけは、はっきりと胸の奥で光っていた。




