【14話:届ける意味】
「…反応、落ち着いてきたな。」
スマホの画面をスワイプしながら、カノンは静かに呟いた。
堅香子の投稿が“深夜の隠れ家”として話題になったのは、ほんの数日前。RTもいいねもじわじわ伸びて、コメントには「こういう店、待ってた」なんて言葉も並んでいた。
でも、それは一瞬の熱だった。
今はもう、通知の数も、アクセスのグラフも、静かになっている。
「バズっても、意味ないんじゃないかな…」
スタッフルームで、ぼそりと漏らした独り言。
広報として評価されてる自分。
でも、中身はずっと手探りだ。
「カノンのおかげで、堅香子いい流れきてるよ。」
レナにそう言われても、どこか実感が湧かない。
ヒナに「投稿見て来たってお客さん、いたよ」って言われても、「たまたまだよ」って心がささやく。
わたし、何のために広報やってるんだっけ。
その日、堅香子に顔を出したカノンは、珍しくカウンターの隅に座っていた。
リリが不思議そうに見てくる。
「どうしたんですか?今日、飲んでる側…?」
「たまにはね。ちょっと、疲れちゃって。」
その時、隣の席にいたスーツ姿の男性が、ふと声をかけてきた。
「もしかして…カノンさん、ですか?」
カノンは一瞬、驚いて顔を上げる。
「え?…あ、はい。」
「Instagramで、あの投稿見たんです。あの“終電逃した夜”のやつ。あれ見て、すごく救われた気がして。」
男性は、穏やかな表情で言った。
「その日、仕事で落ち込んでて。帰れなくて、何となくスマホ見てたら、あの写真が流れてきて。
“ここに行こう”って、気づいたら歩いてました。」
「…来てくれたんですね。」
「はい。あの日から、何度か来てます。派手じゃないけど、ここって、落ち着けるんです。
…あの投稿、僕にはちゃんと届きました。ありがとうございます。」
カノンは、何も言えなかった。胸の奥がじんわりと熱くなる。
誰かに、届いた。たった一人でも、確かに、心に届いていた。
その夜、帰り道。スマホを見つめながら、カノンは小さく笑った。
「バズじゃない。わたし、ちゃんと届けたんだ。」
そして、新しい投稿の草案をメモに書き始めた。
──“今日も灯りは、朝まで。誰かの居場所になりますように。”──




