【13話:橋渡しの役目】
「おつかれさまです…今日も、いい感じでしたね。」
堅香子の閉店後、リリは静かに制服をたたみながら、ナナに声をかけた。
「うん。リリがいるとやっぱり空気が柔らかくなる。助かってるよ。」
「…ありがとうございます。」
いつもなら、ただ照れて終わっていた。けれど今は少し違った。堅香子での経験が、確実にリリの中に積み上がっていた。
ここでは、大きな声や派手な動きは必要ない。丁寧に、静かに、お客様のペースに寄り添う。
——そうか、わたしにはこういう接客が合ってたんだ。
翌日、リリはMePの控室で「なこ」と「るる」を前にしていた。2人は店舗の責任者だが、年上で、現場にも慣れていて…正直、今までちゃんと話せたことがなかった。
「今日、少し話してもいいかな。堅香子で働いてみて、思ったことがあって…」
なこが驚いたように目を丸くし、るるも「うん、もちろん」と穏やかに答えた。
「MePって、明るくて、かわいくて、すごく魅力ある店だと思う。でも、強みがふんわりしすぎてて、新人さんがどう振る舞えばいいか、ちょっと迷っちゃうかもって…」
「たしかに…なんとなく“ノリで合わせて”って感じになっちゃってるかも。」
るるが小さく笑いながら言うと、なこも頷いた。
「ねえ、それって…何かにまとめたら変わるのかな?」
「うん。たとえば、“MePらしさってこうだよ”っていう軸があれば、もっと安定すると思う。だから…2人と一緒に、簡単なマニュアル作ってみたい。」
リリはそう言って、バッグから小さなノートを取り出した。
そこには、堅香子での接客メモ、ナナとの会話、ミユの指導法──いろんな気づきが書かれていた。
「…なんか、すごいね。リリちゃん、めっちゃがんばってるじゃん。」
なこが少し驚いたように笑い、るるが嬉しそうに続けた。
「じゃあ、作ってみよっか。“MePのトリセツ”!」
3人が笑ったその瞬間、リリはようやく、自分の居場所を見つけたような気がした。




