【12話:深夜の灯りを探して】
「朝5時まで、あなたの居場所になれる店。」
何気なくスクロールしていた深夜2時のInstagram。その一文と、薄暗いカウンターの写真に、指が止まった。
—堅香子。
聞いたこともない名前だった。ハッシュタグには「#深夜の堅香子」「#付喪神のいる夜」。コンカフェ…らしいけど、派手さはない。むしろ、静かで、落ち着いていて、どこか物語の中に入り込んだような空気を感じた。
ただその日は、見るだけで終わった。
それから数日間、彼は夜になるとなんとなく堅香子のアカウントを覗くようになった。投稿される写真は、どれも控えめで、でも不思議と惹かれるものがあった。煌びやかな店にはない、静けさがあった。
「こういう店…行ったことないな。」
普段はチェーンのバーか居酒屋、たまに一人カラオケ。誰かと騒ぎたいわけじゃない。ただ、帰りたくない夜に、少しだけ寄り道したい——そんな気分になることが最近増えていた。
仕事が終わって終電を逃した金曜の夜。ふと、その店のことを思い出した。
「…行ってみるか。」
迷いながらも、地図アプリを開いて歩き出す。周辺の店が全てしまっている中、1件ほんの小さな灯りが見えた。
「ようこそ。」
扉を開けると、ほんのりとした照明と、低めの音楽。カウンターにはリリという名札のキャストがひとり、静かに笑っていた。
「お疲れさまです。今日は、どんな夜でしたか?」
驚いた。テンション高めの接客ではない。でも、その一言が、妙に心に刺さった。
グラスの音、遠くの会話、穏やかな空気。何も派手なことはない。でも、それが心地よかった。
「また来ようかな…」
帰り道、自然にそんな言葉がこぼれた。知らなかった。自分が“こんな場所”を求めていたことに。




