【11話:拡散という勝負】
「ナナ、ちょっと撮らせて。そこ、そのまま動かないで。」
閉店後の堅香子。カノンがスマホを構えた先には、薄明かりの中、カウンターに伏せたグラスと、静かに後片付けをするナナの後ろ姿があった。
「えっ…何これ、わたし写ってる?」
「写ってる。けど雰囲気メイン。顔は写してないから安心して。」
「なんのために?」
カノンは撮った写真を確認しながら、にやっと笑った。
「バズるためだよ。」
数日リリが入るようになり、堅香子には少しずつ動きが出てきた。でも、カノンはずっと思っていた。
——このままじゃ“知る人ぞ知る店”のままだって。
「もうね、きれいな写真とか、営業中のキャストの笑顔とかだけじゃダメなの。逆に“え、何これ?”って目を引く方が強いの。」
「なるほど…けど、うちみたいな静かな店でバズとか、難しくないですか?」
リリがそっと口を挟むと、カノンは指を鳴らして応えた。
「逆!この空気感、むしろ今のSNSでは強い。“都会の夜中に灯る隠れ家”って感じ。映えより“物語”がある方が人は反応するの。」
そう言って、カノンが投稿文を打ち始める。
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「終電を逃した夜。
静かに語れる場所が、ひとつだけ灯ってる。
朝5時まで、あなたの居場所になれる店。」
#深夜の堅香子 #付喪神のいる夜
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「え…なんか、カッコよくないですか…?」
リリが思わず呟く。ナナもスマホを覗き込みながら、少しだけ笑った。
「これで、お客さん来るのかな…?」
「来るかは分からない。でも、知ってもらう入口にはなる。
わたし、堅香子って店がもっと知られてほしいんだよね。」
投稿されたツイートは、ゆっくり、でも確実に拡散され始めた。
「これどこ?」「こういう雰囲気の店、めちゃ好き」
そんなリプライが少しずつ付きはじめ、RT数もじわじわと伸びていく。
その夜、カノンはスタッフルームでスマホを見つめながら小さく呟いた。
「この勝負、当てにいく。」
静かな店で、静かじゃない風が吹き始めていた。




