3-8
星羅は疲れて夢の中で眠ってしまった。星羅を置いてノワールと合流した。
「どうだった?」
「まあテキトーに言っといてやったよ。後はあいつ次第だ」
「じゃあ出ようか」
カレンとノワールは夢から抜け出し、二人が目を覚ますのを待った。
十分ほど待つと星羅が目を覚まし、続けて銀河も目を覚ました。
「あれ? 私いつの間に眠って……」
「なんか妙にリアルな夢を……お、お前!」
銀河はノワールを見てガタリと音を立てて立ち上がった。
「なんだお前?」
「あ、いや、なんでもないです」
ノワールの演技が少々意地悪だったので、カレンは肘で小突いた。
「なあ、星羅」
銀河は隣に座る星羅に体を向けた。
「今まで心配かけて悪かった」
体を直角に曲げて銀河は頭を下げた。
「ちょっ、ちょっと、やめてよ。私は気にしてないから……」
「俺は女性嫌いだ。というより女性不信なところがある。それは認める。母さんを見て育ってきて、女性というものに偏見を持ってた。すぐに直せるかは、正直わからない」
「いいよ。私も無理に直してほしいってわけじゃないから」
「でもこれだけは言える」
銀河は頭を上げて星羅を正面に捉えた。
「俺は星羅が大切だ。男とか女だとか以前に一人の人間として」
星羅がはっと息を飲むのがわかった。
「俺は馬鹿だから恋愛とかわからない。でも、星羅は側にいてほしいって思う。他の男と話してるとこっちに来てほしいって思う。それくらい、俺は星羅のことを大切に……」
言い終わる前に星羅は銀河に飛び付いていた。
「ちょっ、おい……」
「私も! 私も銀河が大好きだよ。恋人とか幼馴染みとか名前なんてどうでもいい」
「別に俺は好きだとは……」
照れた様子の銀河はそっと星羅の背中に手を回した。
「若いって良いわね」
カレンは小声でノワールにこっそりと伝えた。
「その発言大丈夫か? 年齢バレるぞ」
はたいてやりたい気持ちになったが、今は野暮だと思いグッとこらえた。この二人から、人ときちんと向き合うことの大切さを教えてもらった気がした。
「それとね銀河。銀河ママとも仲良くして。銀河ママが男に媚売ってるわけじゃないって、本当はわかってるでしょ?」
銀河は難しそうな顔をしたが、この状況で素直にならない理由はなかったのだろう。
「母さんとも、ちゃんと話すよ。俺の……たった一人の家族だしな」
星羅は銀河の言葉を聞いて、もう一度強く銀河を抱き締めた。
「カレンさん、ありがとうございました」
星羅はお礼を言いたいと言って銀河を先に店の外で待たせていた。
「銀河くんの気持ちを聞けて良かったわね。お母さんとも仲良くなるといいわね」
「私もそこは全力でサポートするつもりです。でもきっと大丈夫だと思います」
星羅の笑顔は眩しくて、店内の光量がいくらか明るくなった気がした。
「銀河くんにはお家のことについて話すの?」
星羅は銀河に、自分が養子だということを伝えていないらしい。
「タイミングを見てからでもいいかなって思ってます」
「話しにくいことを話してくれてありがとうね」
カレンは星羅の家族関係が複雑なのではないかと予想はしていたが、まさか養子だとは考えていなかった。
「いえ……あれ? 私、夢では養子の話をした気がしますけど、前にカレンさんに私が養子だって言いましたっけ?」
カレンは完全に油断していた。星羅が養子の話をしたのは夢の中だけだった。
「にゃ~お」
その時いつの間にか猫に戻っていたノワールが星羅の足に体を擦りつけて甘え始めた。
「なあに? ノワールくん」
星羅がノワールをあやし始めたのを見てカレンはすぐに話題を変えた。
「銀河くんのことを好きって気持ちはどうするつもり? 彼、そういうの疎そうだけど」
「それは大丈夫です。意識させてやりますから」
どうやら星羅は、カレンが思っているよりも強かな女性だったらしい。
「応援してるね。またいつでも来て」
「ご馳走さまでした」
「こちらこそ」
星羅を見送り、静かになった店内でカレンはノワールに礼を言った。
「さっきはありがとう」
「ホント、お前はたまにやらかすよな」
「あはは。そう言えば、夢の中で銀河くんになんて言ったの?」
「別に特別なことは言ってねえよ。誰かに盗られたくなかったら正直に思ってることを伝えろって言った。別にちゃんとした言葉にしなくても、あいつらならわかり合えるだろ」
「ふーん。でも、それならどうして銀河くんはビクついてたの?」
夢から覚めた銀河は、夢に出てきたノワールを見て驚きと同時に怯えているようにも見えた。
「知らね。あいつがぐずぐずしてたから、ハッキリしろってちょっと強く言っちまっただけだよ」
「なるほどね」
カレンは苦笑いをしてから店の片付けを始めた。すると、誰かが扉を開ける音がした。
「あ、すみません、もう終わってて……」
「こんばんは」
そこに立っていたのはオウルだった。
「てめえ……!」
「あれれ? なんだか歓迎されてない気がするのは気のせいかな?」
「お前にしちゃ勘が良いじゃねえか。さっさと出てけ。ここは俺の縄張りだ」
敵意を剥き出しにするノワールを気にも留めず、オウルはつかつかと店内に入ってきた。
「何の用?」
「これを渡しに来ただけだよ」
オウルに手渡されたのは大きな鳥の羽だった。
「見方はわかるよね? じゃあ僕はこれで」
思ったよりもあっさりとオウルは去っていった。
「誰からだ?」
「ちょっと待ってて」
カレンは受け取った羽を机に置き、手をかざした。そして魔力を込めて羽の上を手でゆっくりと左から右へなぞった。
フワッと羽が浮き上がり、一人でにその羽は机の上に文字を綴り始めた。
これは魔法界で古くから使われる手紙の一種で、宛先の相手の魔力を感知すると、羽の基部がペンに変わり、文字をおこしてくれる。
『一週間後、オダマキの丘で待つ Louis』
「ルイスって、お前の兄貴のことか?」
「そうでしょうね」
カレンには兄がいた。しかし、もう何十年も会うどころか連絡もしていない。
「今さら何のようかしら」
「行かなくていいんじゃねえか? 魔法界は、何かと面倒だぜ?」
「そうね、でもオウルが持ってきたってことが引っ掛かるわ」
カレンの兄とオウルに深い繋がりがあったという記憶はない。正直魔法界に行く気にはなれないが、話を聞かないのも寝付きが悪くなりそうだった。
「ま、行くなら店番はやっといてやるよ」
「ありがとう。でもノワール、あなたコーヒー淹れられたっけ?」
「一日ぐらいなんとかなるだろ」
「一週間徹夜で練習ね」
「いや、勘弁してくれよ」
カレンは笑い声を上げたが心の内は冷静だった。オウルがカレンの前に姿を現したことと、兄からの呼び出しは無関係には思えなかった。
「嫌な予感がするわね」
「ん? なんか言った?」
「なんでもない。さ、片付けちゃいましょう」
店の掃除をしながら、カレンは自分の故郷のことを思い出していた。
次から4章です。




