第39話 胸をワクワクさせることがあった後に、シリアスが待っている
「大橋くん、大丈夫か⁉生きてる?生きてると言ってくれ!」
「……勝手に死んだことにしないでもらえます?」
部室に入って早々、青春先輩に絡まれてしまった。何とも幸先の悪いことで。しかし、他の部員たちも俺を心配そうに見ている。それも俺の左手を見ているようだ。試合も近いのにけがをしてしまったからな。このケガで試合を顧問は出してくれるだろうか?出れないとなると、試合に出るために払った金が無駄になってしまう。できれば出させてほしいのだが…。
「大橋くんに残念な話がある」
俺が考え込んでいる間に平静を取り戻した青春先輩はいつになく、真剣な表情で俺を見た。俺はゴクリと唾をのみ込んで、青春先輩の顔を見た。
「実は、君にけがを負わせたハンマー投げのハンマーたけしが、退部処分となった。これまでにも何度も熱い思いをハンマーに乗せて、練習に励んでいたのだが、ハンマーへの熱いパトスが行き過ぎて、ハンマーの扱いが悪くなり、ハンマーの選手から外されてしまい…」
「あの、すみません。何の話です?全然、話が頭に入ってこないのですが?」
「青春の悪いところが出てるね。私が代わりに話すよ」
青春先輩はその後もべちゃくちゃと誰かに話し続けていたが、俺はそれを無視して、俺に声をかけてきた女の先輩について行った。凛とした佇まいで、まさに大和なでしこって感じの女の人だ。身長も170センチほどと女性にしては大きな背丈。ピンと背筋を伸ばしており、なにより胸がデカい。こんな人が陸上部にいたとは。
俺の視線が先輩の胸に行きそうになると、殺気を感じた。俺はびくっと体を震わし、周囲に視線をやると加藤が睨みつけるかのように俺を見ていた。両手にハードルを持っている。練習準備に励んでいるらしいが、なぜに俺を睨む?俺、やっぱ加藤から嫌われているのでは…?
「大橋くん、ごめんなさいね。青春はあの通りのやつだから、話がまあ進まないの。部長に推薦したやつをぶちのめしたいかもしれないけど、あと半年は我慢してね?」
「いえいえ、大丈夫ですよ。俺はいい部長だと思ってますし」
「そう。それなら良かった。一応、自己紹介をしておくね?私は陸上部の副部長をしている、遠藤五月です」
「大橋良太です」
「ふふっ、名前は知っているよ。うちのハンマー投げのバカがけがをさせた相手だもの。それも陸上部の次期エースになる人材を」
「いやいや、エースは言い過ぎですよ。俺はそんな大それたやつじゃない」
「そんなことないよ。大橋くん、速いもの。陸上部では速い人はモテるよ」
「マジすか!」
「うんうん、モテるよー。私も足の速い人がタイプだし」
「そうなんですか!じゃ、じゃあ俺、彼氏にりっこう…」
「良太、何しているの?」
「ひぃ!」
遠藤先輩の彼氏に立候補しようとしたところに、加藤が後ろから急に声をかけてきた。なんてタイミングで声かけてきやがるんだ。
「雪女ちゃん、お疲れ様。大丈夫だよ、大橋くんを取ったりしないから」
「ち、違います。そんなんじゃありません。ただ、先輩と良太が何をお話ししているのか知りたかっただけです」
「ふふっ、何の話をしていたと思う?」
「良太にけがを負わせたアイツの話かと」
目つきがすごいことになっているぞ。何人か殺ってそうな目だ。遠藤先輩の目も加藤と同じですごい目をしている。
俺、今日死ぬの?
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