その2
全天候対応型の複合商業施設『フレンドパーク』。
つまり、全部建物の中に作られ、その中には百を超える店舗が入っており、土産屋があれば、市販されているお菓子の特別に豪華なバージョンが売られていたり、ここに来なければ手に入らないものがたくさんある。
「なんで日本土産を見てるんだ?」
そのはずなのに、異世界人向けの入り口近くにあった日本土産の店を覗いている。
「見ろ、新選組だぞ」
「この扇子欲しいかも……。でも、高い」
新選組の半被を着ているアルに、キョウトの老舗の扇子を見ている姫川さん。
「サイタマで見るもんじゃないよな」
トウキョウ土産が羽田空港で買い揃えられてしまうような、ありがたみのなさを何倍にも凝縮している台無し感。
「ここになにしに来たんだ?」
「そうだ、ここの限定スイーツを食べに来たんだ」
俺が声をかけるとアルは慌てて半被を脱いで、その目的を初めて明かす。
「限定スイーツ?」
生肉だろうが構わずに齧りつきそうな、デリカシーの欠片のないアルがスイーツなんて食べるのか?
初めてアルを認識した定食屋『小冬』では果物の盛り合わせとバニラアイスを食べていたから、甘い物が苦手とかではなさそうだが、スイーツとは程遠い場所にいる。
無人島のヤシの実とかに噛り付いている方が似合うだろう。
「フレパ限定のスイーツが食べれるんだぞ」
そんな聞き慣れない略し方をされても困るが。
「姫川さんもそれ目当て?」
「はい。コンビニとかスーパーで売っているようなものなら買えるんですけど、そこに行かなきゃ食べれない物って、一人ではどうしてもハードルが高くて」
「ああ、わかるかも。たまに駅前に移動販売車のクレープ売りが来てるけど、あれってなかなか一人じゃ買えないもんな」
食べてみたいとは思うが、周囲の視線が気になってその勇気を出せない。
かといって、スーパーやコンビニで売っているパックに入ったクレープは、ちょっと違う。
あれはあれで美味しいのだが。
「な、なんでわかったんだ、サトー。お前もこういうのに興味ある年頃なのか?」
「年頃は関係ないが、なんの話だ?」
「クレープだよ、クレープ! フレパ限定のクレープを食いにきたんだ」
アルが熱心に叫んでいるが、クレープを食べるためにわざわざこんなところに来たと言うのか?
ラーメン屋『北海』に行った時、ちょっと歩いただけで文句を言っていたのに。
大食いのアルがクレープだけなわけがない。
「他には? ここに来た理由」
「まずはクレープを食ってからだ」
そう言うなら入り口で足止めをされるなよ。
目当てのクレープ屋は『スイートフラワー』、看板には苺がやたらと散りばめられていた。
「苺がオススメなのか?」
アルと姫川さんが目当てに来るというだけあって、そのクレープ屋には平日にも関わらず十人以上が並んでいた。
異世界人だろうが関係なく、最後尾に並んで待つ。
こういう有名スポットのせいか、並んでいるのは若い女性だけということはない。
おばちゃんグループもいれば、カップルもいて、街中のクレープ屋よりは待たされても、男でも並びやすい。
「そんなことはないですよ。ここの売りは生クリームにありますから。このお店が施設の一番奥にあることにも関係してるんですけど、このすぐ外に牧場があるんです」
「牧場?」
そんなもの遠足なんかで来た時に見た覚えがない。
「知らなくても無理もありません。一般には解放されず、外から牛の姿を見ることもできません。それぐらい広いところで放牧されているんです」
「ストレスない牛から絞るミルクが美味いってやつか」
「そうなんです!」
姫川さんが食い気味に目を輝かせる。
「ホッカイドウにでも行けば搾りたてを味わえるかもしれませんが、なかなか難しいんです。でも、ここでは異世界の技術も借りて、最高の牛が育てられているんです。肉牛用ではなく、乳牛用なのでその味は格別です」
「な、なるほど」
「そのミルクで作られた生クリームや牛乳アイスなどがここのクレープには使われているんです」
「それじゃあ、ここでしか味わえない特別な味ってのも納得だ」
でも、そこまでできる会社の存在には、心当たりが一つしかない。
「もしかして、ここも魔王の系列店?」
「その通りです。異世界の食べ物を売ることは禁じられていますけど、異世界の技術で作られた食べ物が味わえるのが、この『フレンドパーク』なんです」
テレビですら素顔を見れない魔王であるが、彼の経営するすべての会社はチェーン店だが、どうやらゲート近くのここは例外らしい。
「そういえば魔王の店ってコンビニとか小売店はないけど、それも異世界の食べ物を売れないことと関係してるの?」
「そうですよ。基本的にその場で食べる物の商売のみが日本から許可が出ているみたいです。テイクアウト可能なファストフードとかはグレーゾーンなんでしょうね」
外食チェーン店ばかりな理由はそれか。
あれだけ儲けているのなら、それこそ飲食店以外の事業だって拡大し放題なのに、聞く店はすべて飲食店。
ここで売っているクレープだって、持ち帰りこそはできるが冷蔵庫なんかで保存はできないから、その日のうちに食べるしかないだろう。
「ってことなんだが、アル」
「ここも食い逃げができないってことだろう。わかっている」
真剣な顔をしているアルは、前に並んでいる人たちが受け取るクレープを物欲しそうな目で見ている。
「サトー、金はあるが魔王の店に金は落としたくないので貸してくれ」
言っていることは支離滅裂過ぎるが、そこまでしてでもクレープを食べたいということなのだろう。
「奢ってやるよ。タクシー代だ」
「サトーは優しいな!」
わかったから、俺の名前を叫ぶように言わないでくれ、恥ずかしいから。




