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3,部活動見学その一 ――a year ago――

 雅が栗原高校を受験したのは、三つ上の兄の影響が大きい。兄である貴文は県の一番高にも手が届くくらい優秀であった。貴文は栗原校より一時間ほど長くなる通学時間を辟易して、そこの高校を受けなかったが、国立難関大学に受かった彼は一番高を受験しても確実に受かっていただろうと確信できる。一番高には届かないなりにも、偏差値60後半の学校で生き生きとしている兄を中学時代、羨ましく感じていた。

 雅はこれといって何かに秀でていたわけではない。バドミントン部に所属していたが、レギュラーに選ばれたこともなかったし、成績も中の上といったところだ。それでも、兄が通っていた学校に行きたくてボーダーラインの成績でなんとか合格できたのだった。

「兄ちゃん、これおもしろい」

「そりゃ、どうも」

 中学三年間サッカーに熱を燃やした貴文は、高校では意外なことに文芸部に所属していた。しかも、幾つかの賞を受賞し、部長まで勤めあげたという優秀っぷりだ。

 貴文の小説はことあるごとに見せてもらっているが、それが面白いわけで。今読んでいるのは、部活引退のときに書いた最後のお話だ。

「文芸部楽しそうだねー」

「まぁ、それなりに楽しかったけど」

 大学の課題をこなしながら貴文は応えた。パソコンのキーボードを叩く音とシャーペンを走らせる音しかしない。対する自分は課題など何一つ手をつけていない。これだから有能な兄をもつと大変なのだ。

 入学式も近いわけで、焦らないといけないのはわかっているが、こうも兄が余裕綽々だと腹が立つ。なんとはなしに、というか貴文の反応がどんなものになるか気になってしまったことが雅の因縁の始まりだ。

「そっかー、私も高校文芸部にしようかなー」

 途端、今まで見向きもしなかった貴文が、驚くほどの素早さで驚くほどの驚いた形相で振り返った。

「おまっ、正気かっ……!?」

「へ?」

 感情の起伏が少ない兄にしては珍しい様子だった。それが不思議でならなくて、問い詰めてみると、

「今年、いや来年までは……、あまり、うん。大事なもんを色々失う気がするぞ……」

と、ぼやかすような発言である。

「楽しかったんじゃないの?」

「それは、そうだけど。後輩がカオスだ」

 余計意味がわからない。ううむと考え込んでいると、ポンポンと頭を軽くたたかれた。

「正直あまりお勧めしない」

 そう言って、貴文は再び課題に取りかかった。

 止められた。が、謎が多ければ多いほど、俄然興味が湧いてくる。何て言ったって兄を唸らせる部活だ。勿論、入部する気はサラサラないが、部活見学位は、いってみようと思った。――それが、後の後悔に繋がることは知らぬが仏というやつである。


 部活動紹介では、派手なパフォーマンスの運動部と比べて精彩を欠いていた。特別興味を引かれることはない。しかし、兄が三年間所属していた部活だ。見学だけ済ませて、他の面白そうな部活に回ろう。そう思って、文芸部部室に入った。

 中には、何人か見学希望者がいて、部員がそれに対応しているようだった。かといって、何らかの活動をしているわけないので、退屈そうだ。

「見学希望者よね、この紙書いてもらえる?」

 呼び掛けられて振り向くと、高校生とは思えない妖艶な雰囲気を纏った美女がいた。つい狼狽して、真っ赤になって口をパクパクさせていると、美人高校生がクスリと笑みを溢した。

「もうすぐ他の部員がくるから。そしたら、文芸部の説明を行うから少し待ってて」

「は、……はい。」

 なんというか卑怯だ。説明なんて聞く気はサラサラ無かったが、美女に微笑まれて退室なんてできやしない。他の見学希望者も、同じなのだろう。そうでなけれは、とっくに出ている。結局、例の説明会なるものが始まる頃には十人少しの人数が集まっていた。

「十三人か。篠原ご苦労だったな」

「ん。あとは任せたわよ、高崎くん」

 美人先輩とバトンタッチしたのは高崎と呼ばれた先程入室したばかりの男の先輩だ。校章の色から二人とも二年生のようだ。

「部長、副部長、及び三年生の先輩方に変わって文芸部の説明を務めることになった二年二組の高崎俊介だ」



 これが私の苦難の始まりだった。






 分けるつもりはなかったのですが、思ったより、長くなりそうなので分けました。

 というかこれ以上書く気力がなかったというか。

 次は7月にあげます。




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