21、飲み
ジョッキがカチャン、と触れ合う。
「カンパーイ!」
声が重なる。
俺は自分のグラスを少しだけ高く持ち上げ、小さく合わせた。俺はカルピスを注文した。アルコールは今回は頼まなかった。というのも、体が本調子ではないのと、この場の空気に溶け込む余裕がなかったからだ。
咲優は満足そうに笑う。
「じゃ、改めて紹介するわ。」
彼女は隣のピンク色の頭髪の少女を指した。
「この人は明莉。明莉は…まぁ、ちょっと派手めな人〜」
明莉が軽く手を挙げる。
「よろ〜。咲優から話は聞いてるよ」
「ンで、こっちが凛。凛はー」
咲優が続けて彼女に指を指す。
黒髪ロングの凛が即座に咲優に対して口を挟む。
「ちょっ…咲優バカ!初対面のヤツに余計なこと言うなし!」
「えーだって事実だし」
「マジで言う必要ないから!」
咲優はしょんぼりしたが、すぐに切り替えた。
「あ〜、で、この人は祐輝。祐輝は昔ちょっとだけエグいことしてた人」
茶髪の青年が焼き鳥の串を持ったまま苦笑いした。
「おい、それ言うことないじゃん。エグいって言っても捕まったの2回だけだっての。」
「アレ?4回じゃなかったっけ?」
「2回だわ!」
そこは自慢げに話すことでは無いだろうとツッコミたかった。
「で、最後に美羽。美羽は小柄だけどね、意外とぉ〜……」
美羽が小さくため息をついた。
「咲優ってばそういうのやめて。恥ずかしいから」
テーブルの空気が一瞬だけ微妙に歪んだような気がした。
「ハハハ……」
俺はどうにかこの冷めようとしている雰囲気を打開すべく小さく笑った。が、それ以上何も言えなかった。単純に何て返すべきか分からなかったのだ。
咲優は悪びれる素振りも無く、枝豆を口に放り込みながら続けた。
「まぁ、みんなトー横仲間って感じ。お兄さんもよく歌舞伎町に来てるワケだし、仲良くしといて」
俺は曖昧に頷いた。
唐突に祐輝が焼き鳥を食べながら俺を見た。
「なぁ、マジであの事件の人?ニュースになってたヤツ?」
俺は焼き鳥の串を持っていた手を休め、小さく頷く。
「あ、はい…」
「なんか咲優から聞いたんだけど、マスク被ってたんだって?ヒーロー。それ何?コスプレ?趣味?」
質問が遠慮なく飛んでくる。
俺は少し間を開けてから答えた。
「……そう、ですね…」
「そんで3人まとめて倒したって感じ?角材と素手で?」
明莉が興味深そうに身を乗り出す。凛は黙って俺の顔を見ている。そして美羽は俺に興味を示さずに自分のグラスの水滴を無言で指でなぞっている。
俺は焼き鳥を食べ、タレが指につかないよう、串を慎重に持ったまま答えた。
「倒した…っていうよりは…止めようとして、あぁなっただけです。ケガもしてますし…」
「へぇ〜」
祐輝はそう言い、次は鶏皮を選び口に運ぶ。
「でもさ、感謝状までもらったんでしょ?ニュースにもやってたけど。すげぇやん!」
「……あ、どうも」
「で、今どう思ってんの?ヒーローみたいに言われてるけど」
俺は考えてから正直に言った。
「…何も思ってないです……」
咲優が高ボールを飲みながら俺の方をちらりと見る。何か言いたげな顔をしていたが、結局何も言ってこなかった。
その後は、とりとめのない話が延々と続いた。
トー横界隈における最近の情勢、〇〇が補導されたという話、〇〇がサイレースでODして病院送りになったという話、新しい店ができたという話。
俺はほとんど聞き役に回った。時々質問に答えたり、話を振られることもあった。
この場の空気は俺の知っているどの居酒屋の空気とも異なっている。彼女らの言葉の端々に生活の影が潜んである。フランクに話しながらも、どこか常に周囲を気にしているような、そんな緊張感があった。
閉店時間が近くなった頃、俺達はそれぞれ金を出し、祐輝が会計を取りまとめてから店を出た。
「今日はここまでな。何かあったら咲優通じて連絡しろよ!」
明莉が軽く手を振り、凛が小さく頭を下げる。美羽は「ごちそうさまでした」とだけ言った。
夜の空気が肌に刺さる。最近は本当にひどく寒い。
咲優が隣に並ぶ。
「ありがと。来てくれて」
「……あぁ」
「みんなヘンなヤツらだけど悪いヤツじゃないからさ。まぁ、これからよろしく〜」
そうして俺と咲優もそれぞれ帰路についた。




