2、少女とライターと
俺は夜のコンカフェバイト以外にも、昼のバイトも掛け持ちしている。
バイトの1日というものは、意外と静かなものだ。
俺は開店前の店内でダンボールを開け、新刊を棚へ並べていた。
雑誌、マンガ、小説、参考書など、毎日何百冊もの本が届いては、それが様々な人の手へと渡っていく。その繰り返しだ。
「望田くん、そのダンボールお願い」
「はい。」
返事をして俺は台車を押す。
この仕事は嫌いじゃない。というのも、夜のバイト先であるコンカフェと同じような裏方の仕事だからだ。
昼休憩。バックヤードの椅子に腰掛け、おにぎりを片手にスマホを開く。
『新宿・歌舞伎町で未成年者を一斉補導。』
『路上トラブルで男性負傷。』
『家出・自殺相談件数、過去最多』
「……………」
ここ最近、毎日のように同じような記事を目にしている気がする。
昨日もあの広場には大勢の若者がいた。
高校生もしくは中学生らしき子もいた。
何をしている場所なのか、俺には分からない。分からないままでいい。
そう思って俺はスマホの画面を閉じた。
その後、昼のバイトを終えた俺は、夜のバイト先に向かい、そこでも淡々と仕事をこなした。
「今日は、あっちから帰るか・・・」
理由は特に無い。
広場は今日も人で埋まっていた。
笑いながらTikTokを撮る者、地面に座り込む者、イヤホンを片耳にだけ付けて、ぼんやりと天を眺めている者。
昨日と全く変わらない景色だ。
それなのに同じ人は一人もいないように見えた。
「あ!」
「また会った!」
振り返ると昨日のライターを借りようとしてきた少女が立っていた。
「・・・まただな。」
「今日はライター持ってない?」
「俺は吸わないから持ってない。」
「アッハハ、そーだった!」
少女は悪びれる様子も無く笑った。
昨日よりもその表情は少しだけ柔らかかった。
「お兄さんさぁ〜、」
「ん?」
「この辺で働いてる感じ?」
「うん、まぁそんな感じだ・・・」
「ふ〜ん」
「・・・・・・何だ?」
「いや?」
少女は俺の顔をじっと見つめてきた。
一拍置いて少女は少しだけ首を傾げた。
「お兄さん、この街の人じゃないでしょ」
「・・・・・・なんで分かる?」
「う~ん、顔」
「顔?」
「まだ、この街の顔してないから」
意味が分からなかった。
俺が首を傾げると、少女はクスッと笑う。
「そのうち分かるよ〜」
「.........」
沈黙が流れる。
広場の喧騒だけが2人の間を埋めていった。
「そ、そういえば・・・」
俺は思い出したように口を開く。
「名前・・・何て言うの・・・」
「あ~~・・・」
少女はわざとらしく目線を逸らして考え込んだ。
「まだ秘密」
「秘密?」
「そ!」
そう言うと少女は、後ろにいる仲間へ「今そっちに行く」というふうに手を振った。
「じゃ、お兄さん。またね!」
そう言い残し、軽い足取りで仲間の元へと消えていった。
俺は少女の背中をぼんやり見送った。
あの子は一体何なのだろう?
そうぼんやりと俺は考えた。




