1、バ先から
以前、初期稿を書いたのですが、私のミスで全消ししてしまいました!(´;ω;`)モウシワケナイ…
今回からは初期稿を修正したバージョンを載せていきますのでよろしくお願いします。
4月の雨は、冬ほど冷たい訳ではないくせに、体温を奪っていく。
ネオンに濡れた歌舞伎町の道路は、赤や紫の光を反射させ、まるで街自体が眠ることを知らないパーティ会場のようだった。
今は傘をさしていても全く意味がない。風が雑居ビルの隙間を吹き抜けるたび、細かい雨粒が横から殴りつけるように顔を打ってくる。
この街では、今のシーズンあたりになると若者がどっと増える。
────そう言ったのは、昼のバイト先の店長だった。
最初は意味が分からなかった。
でも、分からないでもない。
今頃の季節は若者が地方から大量に来る。だから、誰が泣いていても悲しんでいても嘆いていても気付かない。
「お疲れ様です」
時刻は午後8時を回っていた。
俺、望田 奈雄は、雨で濡れたパーカーを軽く手で払うと、雑居ビルの細い階段を登っていく。
3階。派手で可愛らしい字体で、こう店名が書かれている。
〚メロメロちらこいど〛
コンカフェだ。俺はここで夜はバイトをしている。とはいえ、俺は接客をする訳では無い。グラスを洗い、大量のシャンパンボトルなどを運び、壊れたり足りなくなった備品を補充し、閉店後は店内の掃除を行う。いわゆる"裏方"だ。
キャストの女の子達と言葉を交わすなんてことは滅多に無い。
「ごめ〜ん!氷切らしちゃった!」
「はい、今向かいます」
「望田くん!この伝票お願い!」
「はい」
営業時間中は、ただいそいそと店内を駆け巡っているだけ。
気付けば勤務開始から4時間半程が経過している。
それでも、この仕事は嫌いじゃない。
誰かの前で笑う必要も無いし、酒を飲むといった必要も無い。
店の奥でただ黙々と動いていれば、それで給料が貰える。
東京に来てからそろそろ3ヶ月が経つ。ようやく生活だけは安定し始めていた。
俺のバイトは午前1時まで。
店長に「奈雄くん、お疲れ〜!」とだけ言われて、俺はビルを後にする。
雨はまだ降っていた。
折りたたみ傘を持ってきてはいるが、傘をさす気にもならず、湿気ったパーカーのフードを被って歩き出す。
眠らない街。
そう言われている歌舞伎町も、路地へ入ると別世界だった。
酔いつぶれて座り込むサラリーマン、スマホを片手にしゃがみ込む若者、誰かを待っているような少女。
だが俺には何もかも見慣れた光景になりつつある。
俺はその向こうにある広場の前を通る。
何人もの若者が雨なんて気にせず集まっていた。
笑っている者、タバコを吸う者、誰かと電話をしている者、何故か泣いている者。
年齢なんて俺とそこまで変わらない人達ばかりだ。
でも、中には高校生、いや、中学生くらいの子もいる。
「相変わらず、すごい場所だな…」
昼間はごく普通の広場だ。キッチンカーなどが出店していて平和なところだ。
なのに夜になると、様々なワケありの人らが吸い寄せられるように集まる。
俺は理由を知らなかった。知ろうともしなかった。知らない方が良いことなんて、この街には沢山ある。
「お兄さん!」
振り返ると、小柄な少女が立っていた。
少女は地雷系の派手な服の上に黒いパーカーを着ていて、髪はウルフカットだが雨で若干濡れている。
「ライター、持ってない?」
「あぁ…いや、俺吸わないから」
反応に困り、俺はぎこちない返事をした。
「そっか」
一言だけ言うと、その少女は仲間の元へと帰っていった。
その少女の横顔には、どこか諦めのようなものが浮かんでいる。
俺は少しだけ気になったが、再び足を進めた。
自分には関係の無い世界だ。そう思っていた。




