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17、襲撃

 赤い光の地下空間で、俺達はゆっくりと歩き始めた。

 しかしマスク越しに見える世界は熱を帯びて歪んで見える。

 ソファの上では既に相変わらず複数の男女が体を重ねていた。

 一人の女が仰向けにされた状態で、太く黒いバイブが根元まで挿入されている。

 バイブのシリコンの表面が光に反射し、抜き差しされるたび、水っぽい音が聞こえた。

 女の腹が微かに膨らむように見え、喘ぎ声が「ヤバ…っ…あっ…!///」と途切れ途切れに漏れる。

 またその向かいでは拘束具に繋がれた別の女がアナル用のプラグと性器のローターを同時に埋め込まれている。

 とんでもない性癖の連中だと心の中で俺はツッコんだ。

 音楽に混じって肌がぶつかる音、玩具の振動音、潮を吹く音が絶え間無く響く。

 今度は咲優の方が俺の半歩後ろを歩きながら静かに周囲を観察していた。

 咲優はパーカーのフードを深く被り、表情が引きつっていて、それ以外の表情にはほとんど変えない。

 しかしここへ来た理由は度胸試しのようなものだ。

 それ以外のことはするつもりも、されるつもりも無い。

「あれ、別の出口っぽいよ?」

 咲優が小さく顎をしゃくる。

 部屋の奥に黒いカーテンで仕切られた通路が見える。

 俺は頷き、ゆっくりとその方向へ足を進めた。

 途中、壁に沿って置かれたテーブルの上には、使い捨てタオルと開けられたアダルトグッズのパッケージと謎の注射器などが散乱していた。さらに大きめのディルドに電気マッサージ器、それにSMプレイに使われると思われるロープやロウソク。

 使用済みのものも混じっていて、体液が乾きかけている。

 俺はマスクの内側で咳き込むと同時に息を整え、できる限り目立たないように歩く。

 咲優は俺のコートの袖を先程から掴み、距離をぴったりくっ付けたままついてくる。

 俺達は誰にも触れず、そして触れられないようにただ歩いた。




 部屋を一通り見回し終えた後、俺たちが向かっている奥の方の通路から足音が近づいてきた。しかも複数人。

 いかにもヤンキー風の色黒の男が3人。金髪で刈り上げ、首筋にまで刺青が伸びているやつまでいる。

 筋肉質の体に黒のタンクトップ。鋭い視線で睨み、すぐに俺達の前で止まった。

 一番前の男がゆっくりと歩み寄ってくる。

 俺と男との距離は約3m程あるのに強い圧を感じる。

「ねぇ、アンタら誰?」

 声が低く、ドスの効いた声で聞いてきた。

 周りの連中は一瞬視線を向けたが、すぐに絡み合いに戻る。

 俺はマスクを被ったまま一歩も動かなかった。

「通りすがりの者だ……」

「お客さん、何?コスプレ?最近ヘンなのが増えてんなぁ〜」

 その男が俺を上から下まで舐め回すように見てくる。

 コートにボディスーツのラインが僅かに浮かび、黒いマフラーも首元からその一部を覗かせている。

 別の男が鼻で笑う。

「な〜んかイヤ〜な匂いがするんだよね〜。アンタら普通の客じゃねぇべ」

「匂いって……な、何のことだ」

「”偵察”の匂いだっつの。もしかしてネットに上げるつもりで来た?最近そういうのを撮ろうとしてるクソ共がいんのよ」

 3人の視線が一斉に俺のマスクへと集まる。

「…………違う…………!」

 俺が震えた声で短く答えると一番前の男がさらに一歩接近してきた。

 息が酒とタバコの混じった匂いで、マスク越しでも強く感じる。

「嘘つけ。マスク被ってる時点で怪しさ満点だわ。顔見せろやコラ」

「……これはただのコスプレだ…。イベントから流れてきただけだ。」

 他の男からがクツクツと笑う。

「お前さぁ、さっきからその女の子と一緒にキョロキョロしてて…なんつーか挙動不審なんだよな。普通ココに来る客はそんな事しねぇで速攻でヤリ始めるもんなんだわ」

 咲優が俺の袖を強く掴んだ。

「お兄さん……」

 明らかに恐怖で声が震えていて、今にも泣きそうな声だった。

 男達はさらに距離を縮めてきた。もう2mも無い。

「オイ、コスプレくん。マスク脱げやコラァ!そんで顔見せろやウラァ!」

 一番前の男が壁の隙間に手を伸ばした。それに続いて他の男らも壁に手を伸ばした。

 長さが50cm程の角材がゆっくりと引き出される。

 先端が少しかけていて、既に何度か使われた痕跡がある。しかも所々に血痕のようなものまである。

 恐らくだが以前にもここへ来た人達をそれで痛めつけたのだろう。

 3人の持つ角材の影が赤い照明の中で長く伸びる。

「いいから脱げや!それと身分証だせや!黙ってっとマジで殺っぞやゴラァァ!」

 一人が角材で俺の頭部を軽く叩いてきた。

 バチンッ、という音がマスクの中で響く。

 頭部への痛みはほとんど無いが、叩いた時の音が耳に響いたせいで耳が痛い。

 しかし、次は本気でやるつもりなのだろう。

 男の一人が角材を再び俺のマスクの上に振り上げた。

 複眼に角材の木の肌が写る。

「オイ最後だ。脱げや。そうしねぇと今度こそ──」

 俺のコートの下にボディスーツの硬そうなラインが浮かび上がっているのが見えたらしい。

「オイ何だコリャ…?」

 3人がとうとう俺を囲み出した。

 俺は過呼吸気味になり、マスクの中で上手く呼吸ができなくなってしまった。

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