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12、風呂とコスチューム

 玄関のドアが閉まった瞬間、狭いワンルームの空気が妙に重くなったように思えた。

 俺は靴を揃えてから咲優の方を振り返った。

「とりあえず上がって。荷物なんかは適当にそこらへんに置いて」

「うん」

 咲優は遠慮がちに靴を脱ぎ、部屋の入口で立ち上がった。

 6畳ほどのワンルーム。

 部屋の左側にはベッド、右側には机と黒と緑の所謂”カワサキカラー”のゲーミングチェア、中央にはこたつ布団を抜き取った裸のこたつテーブル。そして部屋の角にテレビが置かれてある。

 それだけのものがギュッと詰まっている。

「狭っ…!」

 遂に本音を漏らした。

「ごめん、一人暮らしなもんで…」

「ううん、むしろ…落ち着くし…」

 彼女はベッドの端に腰を下ろした。

 彼女の目にテーブルの上の惨状が飛び込んでくる。

 テーブルの上にはティッシュ箱や空のペットボトル、コンビニのレジ袋が散乱している。

 俺は冷蔵庫からルイボスティーと缶コーヒーを取り出し、咲優に一声かけた。

「ルイボスティーかコーヒーあるけど…飲む?」

「…じゃあ、ルイボスティーで」

 手渡すと彼女は一口飲んでから、ちらりと風呂場のドアを見た。

「…あのさ…お風呂どう…する?」

 咲優が遠慮がちに恐る恐る聞いてきた。

「俺はどっちでもいいよ。咲優の方が先でいいんじゃないか?」

「…マジで?実は、3日くらい入ってなくて…」

「3日?」

「うん。最近はめんどくさくなって入ってなかった。風呂キャンセル界隈だわ。それに今日は結構動いたし…」

 彼女は恥ずかしそうに視線を逸らした。

「なら先に入って。タオルは脱衣所の上の方の棚にあるからそれ使って」

「おっけ。ありがと」

 咲優は立ち上がり、風呂場のドアを開けた。

 中に入る直前、彼女は一瞬だけ俺の方を見て頷いた。

 ドアが閉まり、しばらくするとシャワーの音が聞こえてきた。

 俺はテーブル前の座椅子に座り、テレビをつけ、ちょうど放送していた番組を見て時間を潰した。他にはテーブルの上の散乱したゴミをサッと片付けたり座椅子の角度を変えたりした。

 30分弱程度でバタン、と浴室のドアが開く音が聞こえた。

「上がったよ〜」

 咲優は頬を赤くし、タオルで髪を軽く拭きながら出てきた。

 服は元のやつを着直している。

「気持ちよかったよ。久しぶりにちゃんと風呂に入ったわ!」

「そうか、じゃあ俺も入ってくる」

「おっけ」

 俺は着替えを持って風呂場に向かった。

 湯船の温度を熱めに追い焚きし直し、ザパァっと一気に浸かった。

(まさか本当に家に連れてくることになるとはな…)

 湯船から上がり頭と体を洗う。

 そうして俺は50分程で上がることにした。

(本当は長風呂したいが、咲優がいるので仕方がない…)

 黒いタンクトップと短パンに着替え、髪を拭いて居室へと向かった。

────────

「……あ、」

 その瞬間、俺と咲優の目が合った。

 咲優はベッドの脇の狭い隙間にしゃがみ込み、大きな衣装ケースの蓋を開けたまま固まっていた。

 手には、ボロボロの黒い麻布のマフラーが握られていた。

 ケースの中にはマスクとボディスーツとアーマーが残されている。

「……これ、」

 咲優の声のトーンが上がった。

「なに…コレ…?」

 俺は湯気で若干湿った髪を拭きながら苦笑した。

「…衝動買いしたやつだ…」

「衝動買い?」

「中古ショップで安くなってて。それに大学の頃、コスプレやってたから、つい…」

 咲優はマスクをゆっくり取り出し、両手で持って眺めた。

「え、すご…」

「お、おう…」

「コレ、着たことあんの?」

「部屋で1回だけ。写真を撮ったくらいだ。」

 彼女はマスクを俺の顔の前に持ってきたり、マフラーを触ったりしながら目を丸くした。

「ってかごめん…勝手に開けちゃって!」

「いや、大丈夫だ。隠している訳じゃないから」

「……ッ」

 咲優は慌てて中身をケースに戻し始めた。

「戻そうとしてたのに、タイミングが悪かった。ハハ…」

「バレてるよ、もう」

 俺がツッコムと咲優は小さく吹き出した。

「ってかホントかっこいいね、これ」

「ドウモ…」

「うん、お兄さんめっちゃ似合うって!着てみたら?」

 彼女は最後に残っていたマスクをケースに戻しながらぼそっと呟いた。

「夜にコレ着て歩いたらちょっと目立つんじゃない?」

「目立つどころの話じゃないだろ」

「フフッ」

 咲優はケースの蓋をそっと閉じた。

 その表情は、さっきまでの警戒心や投げやりさが薄れていて、ただの18歳の女子が珍しい玩具を見つけたような純粋な興味に満ちていた。

「…ねぇ、」

「何だ?」

「マジでさぁ、コレまた着て見たら?明日か明後日の夜と・か・?」

 咲優は目を輝かせ上目遣いで俺を見上げた。

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