11、家路
終電を完全に逃した。
映画館を出たら電車に乗り真っ直ぐ家に直行するはずだったが、咲優と出会ったことで、以前の埋め合わせをして二人で話しているうちに気付けば午前2時を回っていた。
咲優はロック画面の時計を見て舌打ちをかました。
「チッ、やらかした…終電ないやん」
「…悪い、俺がちゃんと時間を確認してなかったのが…」
「いいよ、別に。じゃ、早く行こ?」
真夜中の歌舞伎町を抜け、新宿の通りを歩き始めた。
新宿のあの喧騒が遠ざかるにつれて静けさが増す。
時折すれ違うタクシーの走行音と飲み屋帰りと思われる人の笑い声だけが響く。
咲優は俺の後ろを歩いていた。厚底ブーツのゴトッゴトッという低い足音が規則正しく鳴る。
「そのブーツ、重くないのか?」
俺が振り返ると、咲優は首を横に振った。
「平気。いつもコレ履いてるし」
少しの間、またも沈黙が続いた。
俺は何か話を繋げようと言葉を探した。
家に連れて帰るって言ったは良いが、実際は何をどうすればいいのか分からない。
信号で止まった時、咲優がぽつりと言った。
「ってか、お兄さんってなんでこの街に毎回いるの?会う時毎回歌舞伎町だったじゃん。しかも夜に。」
「あそこらへんのコンカフェで夜はバイトをしているからな」
「ふ〜ん。」
彼女は歩行者用信号の赤い光を眺めながら続ける。
「お兄さんがコンカフェでバイトって、なんか意外だね」
「俺は最初はその仕事がとても怖かった。ヤバイ人間の巣窟なんじゃないかって…。でも、働いてるうちに慣れてしまった」
「あーね」
咲優は軽く返した。
それからはあまり互いに会話が続かなかった。
信号が青になり、俺達はまた歩き始めた。
しばらく歩いて、東新宿駅近くの住宅街に入った。
街灯がまばらになり、足音だけがやけに大きく聞こえる。
すると咲優が急に足を止めた。
「ねぇ、お兄さん…。本当に…何もしないの…?」
俺も立ち止まり、後ろを向いて答えた。
「何もしない。約束する」
咲優はそれに対して
「あ、ふ〜ん…」
と返した。
「…うん」
余計気まずくなるばかりだ。
後ろで歩いていた咲優が俺の横に並んできた。
横を歩く咲優の小さな姿が心做しか妙に弱々しく見えた。
────────
ようやく見慣れたアパートの前についた。
古びた外壁と自動販売機の青白い光。
俺は家の鍵をバッグから取り出し、咲優の方を見た。
「着いた。ここだ。」
咲優はアパートを見上げると目を細めた。
「…ま、まぁ、普通の家…だね」
「…そうだな…」
恐らく咲優はこのアパートの外装を見て「ボロい家だな…」と思ったはずだ。しかし今の言葉は確実に気を遣って褒めたのだろうと感じた。いや、そうに違いない。
俺は鍵を鍵穴に刺してガチャリ、と回した。
咲優は俺の後ろにくっ付いて玄関に入ってきた。
「…お、おじゃまします…。」
そうかしこまって咲優は言った。




