第7話『さきの知恵と法律』
チームは順調に結束を強めていたが、あかりたちの野球の実現には大きな法律的な壁が立ちはだかっていた。
公衆の面前で無防備感を得る行為は、公然わいせつ罪に問われる可能性が高い。
あかりたちは、チームの頭脳であるさきに相談を持ちかけた。
さきはクールな表情を崩さず、即座に分析を開始した。
彼女は女子野球の公式ルールブックを広げ、法典や関連判例を丹念に調べ上げた。
「待って、ここの解釈だけど。女子野球の公式ルールでは、服装規定は存在するけど、明確に禁止する条文はないの。ただ『適切なユニフォーム』と記述されているだけよ。」
「これをスポーツの文脈で解釈すれば、十分に許容されるはず。つまり——」
「つまり?」
「野球をやっている限り、法的にクリア。少なくとも、重大な問題にはならない」
あかりは胸を撫で下ろした。
「さすがさき」
「データと法律は裏切らない。私の父親が法学部教授だから、詳しく相談してみるわ。」
さきの父親は、著名な大学教授で、電話越しに詳細を論理的に説明してくれた。
ただし、電話がつながった瞬間、さきの父親は少し驚いた様子で
「さき、君がこんな…ユニークな相談をしてくるなんて珍しいな。まあ、面白い事例だ。聞いてみようか」
と笑い声を交えながら応じた。
「スポーツの世界では、通常の社会ルールが柔軟に適用される例が多い。
例えば、野球の接触プレー――タックルやスライディング――は、日常の文脈では暴行罪に該当する可能性があるが、ルール内の行為として許容されている。」
「服装についても同様だ。野球のプレーや練習に直接関連し、無防備感を得るための手段として位置づけられれば、公然わいせつ罪の要件を満たさない解釈が可能になる。」
「実際、類似の判例では、スポーツイベントでの露出が芸術的・競技的文脈で正当化されたケースがある。
練習中も、チームの活動の一部として判断されるだろう。」
この専門的な解釈を聞き、チームメンバーは安堵の息を吐いた。
あかりは目を輝かせ、さきを抱きしめた。
「さき、すごい! 君の頭脳のおかげで、堂々と戦えるわ。みんな、ありがとう。これで本気で野球だけに集中できるね。」
みゆも頷き、チームの絆がさらに深まった瞬間だった。
こうすけはそっとスケッチブックにこのシーンを描き加え、「みんなの笑顔、忘れたくないな」と心の中で呟いた。
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夜。
あかりの部屋で、ぽんぽこが見守る中、あかりはベッドに仰向けになって天井を見つめていた。
三人。
あと六人。
途方もない数字に思えるが、今日のみゆとさきの変化を見て、あかりは確信を深めていた。
あの儀式には、人の心を動かす力がある。
恥ずかしさの向こう側にある自由を、体で感じた人は——変わる。
理屈ではなく、体の奥底から。
「ぽんぽこ」あかりはぬいぐるみを抱き上げた。「仲間が増えたよ。みゆとさきが、一緒にやるって」
くたびれたたぬきのぬいぐるみは、丸い目であかりを見つめている。
「ぽんぽこダンス、名前つけちゃおうかな。みゆは『守られダンス』、さきは『集中力最適化ダンス』とか言いそうだけど——私はやっぱり、ぽんぽこダンス。お腹叩くところが、ぽんぽこみたいだから」
あかりはぬいぐるみの頭を撫でた。
「あと六人。見つけなきゃ。でも——焦らない。来てくれる人を、ちゃんと迎えられるように。
こうちゃんが描いてくれた絵みたいに、一人ひとりの形を大切にしたいから」
窓の外で、五月の夜風がカーテンを揺らした。
遠くで電車の音が聞こえる。
日常は続いている。
けれどその日常の中に、小さな革命が静かに根を張り始めていた。
あかりは目を閉じた。
明日もグラウンドに立つ。
風を感じ、ボールを握り、恥ずかしさの向こう側へ——仲間たちと一緒に。
その思いが、眠りに落ちる直前の意識を温かく包んだ。




