第13話『ゆいのブリッジ』
深くしゃがみ込んだ姿勢から、ゆいは元気いっぱいに
「よし、もっと限界までいくよー! 全部、全部さらけ出すんだから!」
と明るく叫びながら、ブリッジの姿勢に移行した。
両手を後ろに着地させ、膝をゆっくり曲げて足の裏を地面にしっかり押しつけた。
深く息を吸い込み、腹筋にぐっと力を込めると、腰を高く天井に向かって突き上げ、背中を大きく反らしていく。
全身の筋肉が緊張し、引き締まった太ももがピンと張り、汗で光る腹部が美しく弧を描いた。
小さな胸全体がさらにぺったんこな状態になり、普段は陥没していた乳首が興奮とストレッチの力で一気にぴんっと硬く突き出していた。
淡いピンクの先端が朝陽に照らされて艶やかに輝き、微かに震えながら空に向かって屹立する。
汗の雫が乳輪の縁をゆっくり伝い落ち、胸の谷間を滑るように光を反射し、ゆいの呼吸に合わせて胸が上下するたび、乳首の先端がさらに敏感に尖っていく。
遠くで男子野球部の部員たちが練習を完全に止め、息を呑んでこちらを見つめていた。
彼らの視線は好奇心や欲望ではなく、純粋な敬意と驚嘆に満ち溢れていた。
「本気で自分を解放してるな……これ以上の無防備って存在するのか?」
「すげえ……あんなに小さな膨らみがぺったんこになっても、乳首だけがあんなにピンと突き出して……」
「根性半端ないぞ、あいつ」
と、感嘆の囁きがグラウンドに静かに広がった。
誰も笑わず、誰も目を逸らさず、ただ彼女の挑戦を温かく、静かに見守っていた。
儀式が終わった瞬間、ゆいの全身に淡い緑の光がふわりと灯った。
それは朝陽の反射ではなく、心の奥底から溢れ出すような、柔らかく温かい輝きだった。
トラウマの影が溶け、解放されたエネルギーが淡い緑のオーラとなって肌を包み、硬く尖った乳首の先端まで優しく照らしていた。
さきがスマートウォッチを素早く確認し、クールに眼鏡を押し上げた。
「データ更新。ゆいの心拍数と反応速度、儀式前と比べて35%向上。守備効率も推定28%アップ。無防備感の心理的解放効果ね。」
ノックが再開された。
ゆいは全裸のままセンターの定位置に戻った。
風が汗ばんだ素肌を直接撫で、体の感覚が一段階研ぎ澄まされている。
無防備な——けれど、身軽な感覚だった。
こうすけがバットを構え、ボールをトスした。
一球目。
センター方向へのフライ。
ゆいが走る。
さっきと同じ距離、同じ高さの打球だ。
しかし——ゆいの足が違った。
地面を蹴る音が軽い。
体が前のめりにならず、視線がボールに据わっている。
全裸で走る体は衣服の抵抗がなく、バスケで培った筋肉が一切の無駄なく推進力に変わっていく。
汗が風に散り、引き締まった背中の筋肉が陽光の下でしなやかに躍動し、硬く尖った乳首が走るリズムに合わせてプルプルと揺れた。
グローブが伸びた。
白球が革の中に吸い込まれ、ぱすん、と柔らかい音がした。
「ナイスキャッチ!」
あかりが叫んだ。
ゆいはグローブの中のボールを確認し、小さく息を吐いた。
捕れた。
それだけのことが、胸の奥をじんわりと温かくする。
二球目。
ライト寄りへのライナー性の打球。
低くて速い。
ゆいは斜めに切り込み、ダイビングした。全裸の体が芝の上を滑る。
泥だらけになりながら、グローブの中のボールを高く掲げた。
仰向けに近い体勢で、引き締まった腹部が陽光に晒され、胸が呼吸のたびに上下し、乳首が微かに震えていた。
「セーフにはさせないよー!」
泥だらけの顔で笑っている。さっきまでの取り繕った笑顔ではない。
打球を追いかけ、飛び込み、捕った——その一瞬の興奮から溢れ出す、純粋な笑みだった。
三球目。
頭上を越える大飛球——さっき落としたのと同じような打球だ。
ゆいの足が一瞬止まりかけた。体の奥で、恐怖が顔を覗かせる。
落としたら。 また意味がないと——
しかし、足は止まらなかった。
走った。
全力で背走した。
全裸のシルエットが陽光の中を駆け抜けていく。
肩甲骨が翼のように動き、鍛えられた脚が芝を蹴る。
さっきと同じグラウンドの端。
同じ距離。 最後の一歩でグローブを伸ばす。
白球が革に触れる瞬間——ゆいの体は引かなかった。
ばしん。
グローブの中に、白球が収まっていた。
ゆいはグラウンドの端で立ち止まり、グローブを見つめた。
呼吸が荒い。
心臓が壁を叩くように鳴っている。
汗が全身を濡らし、硬く尖った乳首が朝陽に輝いていた。
さっきと同じ打球。
さっきは落とした。
今は捕れた。
何が変わったのか——ゆい自身にもうまく説明できない。
ただ、グローブを伸ばす瞬間に、怖くなかった。
落としてもいいと思えた。
落としても、自分に価値がないわけじゃないと
——そう思えた瞬間に、体が自然に動いた。
ゆいはボールを内野に投げ返した。今度は送球が真っ直ぐにあかりのグローブに収まった。
あかりが、マウンドの上で小さくガッツポーズをした。
練習後。
四人がベンチで水を飲んでいると、ゆいがぽつりと言った。
タオルを首にかけ、全裸のまま、練習着に着替える気配はない。
汗が引き始めた肌に風が触れ、細かな鳥肌が立っているが、ゆいは気にしていなかった。
「私さ、野球が嫌いだと思ってた。ずっと。お父さんに押しつけられたスポーツだから。バスケに逃げたのも、野球から離れたかったからだし」
誰も口を挟まなかった。
ゆいは水のペットボトルを両手で包むように持ち、ラベルの文字を見つめていた。
「でも、バスケで全国大会に負けた時——お父さんに『逃げたから負けた』って言われた時——壊れちゃったの。何をやっても、どこにいても、結局ダメなんだって」
涼しい風がベンチの上を抜けていった。遠くで男子部員たちが片づけをしている音が聞こえる。
「半年間、何もできなかった。バスケのボールも触れなかったし、ましてバットなんて」
ゆいはペットボトルのキャップを回した。 きゅ、と小さな音がした。
「でも今日——あの儀式、最高に恥ずかしかったけど——体のこわばりが取れた感じがした。最後のフライ捕った時、久しぶりにただ『嬉しい』って思えた。勝つとか負けるとか関係なく」
あかりはゆいの隣で、黙って頷いていた。隣に座る四人の肩が、互いの体温を微かに分かち合っている。
こうすけがスケッチブックを開いた。二枚の絵が描かれていた。
一枚は、儀式直前のゆい——必死にトラウマと闘っている瞬間。
もう一枚は、最後の大飛球をキャッチした瞬間のゆい——泥だらけで、全力で、そして笑っている姿。
「ゆい。どっちも描かせてもらった」
ゆいは二枚を交互に見比べた。
不格好な自分と、輝いている自分。
「……両方とも、私だよ!」
ゆいは二枚の絵から目を離さずに元気よく言った。
「両方とも、私だから。どっちも好き!」
あかりがふっと笑った。
みゆが小さく拍手した。
さきが眼鏡を押し上げ、ノートパソコンに何かを打ち込みながら、口元だけで笑っていた。
グラウンドに長い影が伸びていく。チームは四人になった。
あと五人。
まだ道半ばだが、今日という一日は——ゆいにとって、ボールを掴むことを怖がらなくなった、最初の日になった。




