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第11話『ゆいの儀式』

 元気いっぱいのショートヘアに、活発な大きな瞳。制服姿ながら、スポーツで鍛えられた引き締まった脚と、控えめな胸。


 頰が少し赤らみ、アイスクリームの棒をくわえたまま、3人をまっすぐ見つめている。


 「さっきから見てたんだけど」


 ゆいは単刀直入だった。


 「あんたたち、何やってんの?」


 あかりは水道の蛇口を閉め、ゆいに向き直った。汗と水に濡れたショーツ一枚の姿のまま。


 恥ずかしさは——もう、痛みではなかった。むしろ、この姿こそが最も正直な自分であるという感覚が、足元を支えている。


 「ゴミ拾い」


 「見りゃわかる。そうじゃなくて——なんでその格好で?」


 「それは——」


 あかりは少し考え、それから笑った。「長くなるけど、聞いてくれる?」


 河川敷のベンチで、あかりは話した。


 野球部への入部志願のこと。田中先輩の条件。


 初めてグラウンドに立った日の恐怖と解放感。


 ぽんぽこダンスのこと。みゆとさきが加わった経緯。


 女子部を作りたいということ。九人集めなければならないこと。


 ゆいは腕を組んで黙って聞いていた。その目は真剣だった。


 「——で、ゴミ拾いは、私たちの活動を知ってもらうため。言葉じゃなくて、行動で見せたかったの」


 あかりが話し終えた後、しばらくゆいは口を開かなかった。


 川のせせらぎと、遠くの車の音だけが聞こえている。六月の風がベンチの上を通り過ぎ、あかりの濡れた肌を冷やしていった。


 ゆいが口を開いた。


 「あんたさ」


 「うん」


 「その——無防備感?ってやつ。怖くないの?」


 「怖いよ」


 あかりは即答した。


 「毎回怖い。恥ずかしくて死にそうになる」


 「なのに、やるの」


 「うん。だって——怖さの向こう側に、すごいものがあるから。でも、ただ下着姿で清掃してるだけじゃ、本物の無防備感は手に入らないの」


「じゃあ、どうするの?」


「私たちは部室で『儀式』をしてるんだ。こうすけくんの前で完全に全裸になって、ぽんぽこダンスっていう特別なダンスをするの。胸をプルプル揺らしたり、深くしゃがみこんでお腹をポンポン叩いて、全力で自分を解放する……。最初は本当に耐えられないくらい恥ずかしい。でも、それをやりきった瞬間に、心の底から自由になれて、無防備感が体中に染み込んで、強くなれる気がするの。怖さの向こう側に、本当の自分と絆があるって信じてるから——」


 ゆいの目が熱く輝いた。スポーツ一家で育ち、負けん気が強い彼女にとって、これはただの恥ずかしい儀式ではなく、「トラウマをぶち壊す」ための挑戦に映った。


 そして、ゆい自身大きなトラウマを抱えていた。


 「……マジかよ。それ、聞いただけでも相当すごいな。でも——」


 ゆいはあかりを真っ直ぐ見つめ、声を少し震わせながら言った。


 「その儀式、私にもやらせて!全力で。本気で全部、さらけ出してみたい」


 あかりの目が輝いた。


 「ゆいちゃん——」


 「ちゃん付けやめて。ゆいでいい」


 「ゆい。一緒に、やってくれる?」


 四人目。


 部室で、ゆいの儀式が始まった。


 部屋の空気にはグラウンドの土の匂いが混じり、チームの日常を感じさせる落ち着いた空間だった。


 ゆいは制服を脱ぎ、腰に手を当て、胸を張って不敵に笑う。その構え方は——大勝負の前に自分を奮い立たせる、いつもの癖だ。


「やるよ! むしろ楽しみ!」


 ゆいは元気いっぱいに宣言し、パープルのブラジャーを外しショーツを脱ぎ捨てた。


 陥没乳首の淡いピンクが露わになり、一瞬ためらいが見えたものの、膨らみの非常に小さい小さな胸を張って笑顔で立っている。


 こうすけがスケッチブックを構え、静かに鉛筆を走らせる。


 彼女はダブルピースを決め、M字開脚でしゃがみ込みながら、エネルギッシュに体を動かして儀式を披露した。


 「こうすけ、ゆいの元気ポンポンダンスだよ! 見ててね! みんなのためにパワー全開だよ!」


 その後ブリッジポーズに移ると、ゆいは両手と両足で体を支え、背中を大きく反らした。


 腰が天井に向かって突き上がり、膨らみの僅かな小さな胸全体がさらにぺったんこになり、陥没していた乳首が興奮とストレッチの力でぴんっと突起状に突き出ていた。


 淡いピンクの先端が微かに震え、汗の雫が乳輪の縁を伝って光る。


 こうすけの鉛筆が素早く、しかし丁寧に動き、乳首の硬くなった形、影の微妙な濃淡、張りつめた肌の質感を一本一本の線で克明に捉えていく。


 「……くっ、こんなところまで……全部、見られてる……」


 ゆいの声が震え、抑圧された感情が一気に爆発した瞬間、目から熱いものがこぼれた。


「恥ずかしすぎるー!」


 儀式が終わると、ゆいは汗を拭きながら立ち上がり、こうすけをまっすぐに見つめた。


 こうすけはスケッチブックを静かに閉じ、穏やかな笑顔でゆっくりと言葉をかけた。


 「ゆい、本当に素晴らしいよ。君のその明るさと前向きなエネルギーは、見た人を自然と元気にする力がある。恥ずかしがらずに全力で表現できるところも、とてもかっこいいと思う。」


 その言葉を聞いた瞬間、ゆいの胸にこれまで感じたことのない温かいものが広がった。


 こうすけは続けた。


 「こんな風に素直に自分を出せる子は、チームにとって本当に大切だよ。僕も、ゆいのその笑顔に救われるよ。」


 今まで周りの大人や友達から「うるさい」「子供っぽい」「もっと大人しくしなさい」と言われ続けてきたゆいは、こうすけの純粋で肯定的な言葉に、心の奥が震えた。


 初めて「自分の明るさ」をまるごと受け入れてもらえた気がして、自然とこうすけを深く慕う気持ちが芽生えた。


 「こうすけ……ありがとう!」


 ゆいは目を少し潤ませながらも、力強い笑顔を浮かべ、拳を握った。


 「私、このチームに入るよ! こうすけみたいにみんなを明るくできる存在になりたい。みんなと一緒に、本気で勝ちたい!」


 こうすけの励ましがきっかけで、ゆいは心からチームへの加入を決意した。


---------

 

 夜。

 河川敷に、四人の少女とこうすけが残っていた。


 涼しい風が吹く草の上で、四人はゴミ拾いの疲労感と、新しい仲間が加わった高揚感の中にいた。


 ゆいは河原の石を遠投して遊び、みゆとさきはゆいのエネルギーに圧倒されつつ笑っている。


 こうすけはスケッチブックを開き、その光景を描いていた。


 四人の少女たち。それぞれが異なる形で傷を抱え、異なる理由でここに集まった。けれど今、夕日の中で笑い合っている姿には——共通の何かがある。


 鉛筆が、ゆいの力強い横顔を捉えた。

 描きながら、こうすけの胸に不安がよぎった。


 この子たちの汗まみれの勇気が、いつか世界の視線にさらされるかもしれない。その時、俺は——


 こうすけは鉛筆を止めた。

 空を見上げた。オレンジと紫が溶け合う夕暮れの空。あかりの笑い声が、風に乗って届く。


 ——みんなの盾になりたい。


 その思いが、前よりも強く、深く、こうすけの中に根を張った。


 俺にできることは限られている。絵を描くこと。そばにいること。


 けれどもし、この子たちが世界の視線にさらされる日が来たなら——俺は、その視線の前に立って、この子たちの勇気を守る。


 父親なら、こう言うだろう。


「お前に何ができる」


 けれど——今のこうすけには、答えがあった。

 何ができるかはわからない。でも、ここにいることはできる。


 こうすけはスケッチブックに目を戻し、鉛筆を走らせた。四人の少女たちが夕日の中で笑う姿を、一本一本の線に刻みつけるように。


 帰り道。


 あかりとこうすけは、いつものように並んで歩いていた。住宅街の街灯がぽつぽつと灯り始め、どこかの家から夕食の匂いが漂ってくる。


 「四人になったよ、こうちゃん」


 「ああ」


 「あとは五人」


 「……ああ」


 「不安?」


 こうすけはしばらく黙っていた。


 「不安っていうか——責任、みたいなもの」


 「責任?」


 「あの子たち、みんなお前を信じてついてきてる。俺は——それを見てるだけだけど、見てるだけだからこそ、わかることがある」


 「何?」


 「汗まみれの姿が——絆の証に見えた」


 あかりは足を止めた。


 街灯の光が、こうすけの横顔を照らしている。いつもは感情を表に出さない幼馴染の目に、微かな潤みがあるように見えた。


 「こうちゃん」


 「ん」


 「ありがとう。いつも——見ていてくれて」


 こうすけは何も言わず、スケッチブックを脇に抱え直した。


 二人の影が、街灯の下で長く伸びている。

梅雨の湿った空気の中に、夏の予感が混じっている。


 あとは五人。数字はまだ届かない。けれど今日、河川敷で流した汗が——確かに、何かを前に進めた。


 あかりは空を見上げた。雲の隙間から、一番星が小さく瞬いていた。

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