↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
第9章 大陸東部・湿地帯編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/122

第97話 北の湿地帯と、泥に潜む初見殺し

「ねえ、ナオト。ジークと別れてから北に向かって三日歩いたけど、そろそろこのルートを選んだこと、本気で後悔してもいいかしら?」


「弱音を吐くなよ、ミオ。東の大陸の北部に広がるこの湿地帯は未開のエリアなんだ。手付かずの自然が残っているということはつまり、大量の経験値と未知の食材が眠っているという証拠だぞ」


「それは魅力的だけどさ。とにかくこの足場の悪さは異常よ。一歩踏み出すごとに、ズブズブって重たい泥にブーツが吸い込まれるの。私の筋力をもってしても、足を抜くのに普段の三倍は体力を消費してる気がするわ」


「典型的な悪路のペナルティだな。泥に足をとられて全然身動きが取れないし、この濃い霧のせいで視界も最悪だ。素早さと命中率をシステム側からガッツリ下げられてる気分だよ。おまけに……」


「湿気もすごくて、服が肌に張り付いて気持ち悪いわ。それに、なんだか泥の底から腐った卵みたいな臭いガスがずっと湧き出てるし。これ、毒の沼地ってやつじゃないの? 肌も荒れそうだし、最悪の気分よ」


「微弱な瘴気とメタンガスが混ざっているようだな。俺の錬金術で作ったマスクをつけているから毒のダメージは防げているが、これがなかったら今頃息をするだけで体力を削られていたはずだ。しかも、このガスは引火性かもしれない。迂闊に火炎魔法を使えば、周囲一帯が吹き飛ぶ危険すらある」


「ちょっと、それ早く言ってよ! 私が適当に火打ち石とか使ってたら大爆発してたじゃない!」


「だから俺が常に先行して安全確認してるんだ。文句ばかり言わずに周囲の警戒を怠るなよ」


 二人の足取りは重く、霧に包まれた湿地帯はどこまでも単調で不気味な景色が続いていた。


「本当に過酷な場所ね。……って、ちょっと待って。ナオト、今、そこの泥の表面、不自然に波打たなかった?」


「波打った? いや、俺の索敵スキルには何も反応がないぞ。周囲にモンスターの魔力波形はゼロだ。ガスの泡が弾けただけじゃないのか?」


「違う、私の勘がビンビンに警告を出してるわ! あそこの泥、ただの泥じゃないわよ。何か生き物の意志みたいなものを感じるの! そこよ! 泥の中!」


「なっ!? 泥の地面そのものが隆起した!? いや、泥が巨人の形に組み上がっていくぞ! おいおい、冗談だろ!」


「ゴガァァァァァッ!!」


「こいつ、周囲の泥と同化して隠れるスキルを持っていたのか! 俺のレーダーを完全にすり抜けやがった。生命反応すら泥の温度に合わせて偽装しているなんて、不意打ちすぎるだろ!」


「巨人の泥人形! マッド・ゴーレムってところね! 私が一刀両断にして、ただの泥の山に戻してやるわ! いっけぇぇぇ! フルスイン……グッ!?」


「どうした? 剣の振りが遅いぞ! 普段の半分の速度も出てない!」


「くっ……足場が悪くて踏ん張れないのよ! 泥に足を取られて、体重が上手く剣に乗らない! それに……うそっ、大剣が泥の体に飲み込まれて、抜けない!? 引っ張ってもビクともしないわ!」


「物理耐性に極振りしたスライムみたいな特性を持っているのか。斬撃の威力を泥の流体で吸収して無効化した上に、武器を絡め取る厄介な体だ」


「ガァァッ!」


「危ない、ミオ! 奴が腕を振りかぶっている! 早く離れろ!」


「きゃあっ!? もうっ、泥にハマってて、回避ステップが間に合わないわ! 靴が脱げそう!」


「させるか! 錬金爆弾、連続投擲!」


「はぁ!? ちょっとナオト、爆発しないじゃない!」


「止めたんだ! くそっ! 周囲のガスが可燃性かもしれないんだった!」


「ちょっと、冗談じゃないわよ。私の剣は効かない、ナオトの爆弾も使えない。おまけに足場は最悪で避けられない。環境と敵の相性が最悪の形で噛み合ってるじゃない! これじゃ一方的に殴られるだけよ!」


「湿地帯の初見殺しか……向こうは泥の体だから悪路を無視して移動してきやがる。足場なんか関係ないってわけだ」


「ゴガァァァァッ!!」


「また来るわ! 右から薙ぎ払い攻撃! ……くっ、大剣が抜けないなら、手放すしかないわね!」


「武器を捨てるのか!? 素手でどうにかできる相手じゃないぞ!」


「武器がなくても、どうということはないのよ! 私の戦闘力を甘く見ないでよね!」


「甘くはみてないが、どうするつもりなんだ!?」


「武器がないなら自分の体を使うだけよ! 力任せの攻撃だから予備動作が大きいのよね。相手の攻撃の切れ目を読んで……息継ぎの瞬間、そこっ!」


 ミオは両手を泥の腕に添え、自らの体ごと回転するようにして攻撃を受け流した。


「すごいな……自分から泥の腕に飛び乗るようにして軌道を逸らしたのか」


「ふふん。筋力に頼らない、水のように受け流す技術! 武器がなくても、タイミングさえ合えば敵のバランスを大きく崩せるのよ! ナオト、こいつの背中がガラ空きよ! 爆弾がダメなら別の手をお願い!」


「ナイスだミオ! 火薬がダメなら、水分が豊富な環境をこちらも利用する! 凍てつけ! 氷晶錬成(フロスト・アルケミア)!」


 ピキ……ピキピキピキッ!


「ガ、ギギ……ッ!?」


「やったわ! ナオトの氷結魔法が泥人形の水分を凍らせていく! ドロドロだった体が氷の像みたいに固まっていくわ!」


「ああ。これだけの水分量、凍らせるには最高の条件だったってわけだ。内部まで完全に凍結した。これで動けないはずだ」


「泥の装甲も、凍ってしまえば脆い氷の塊ね! 私の大剣、返してもらうわよ! ……せいッ!」


 凍結した泥人形はミオが大剣を引き抜いた衝撃で音を立てて砕け散った。


「倒したな。魔力反応ゼロだ」


「ふぅぅ。たった一匹の雑魚相手に信じられないくらい苦戦しちゃったわ。息が上がってるのなんて久しぶりよ。本当に疲れたわ」


「ああ、俺もだ。手持ちのカードを封じられた気分だった。ジークの特訓で魔力の節約を身につけていなかったら、あの一匹相手に力を使い果たして、最悪死んでたかもしれないぞ。危ないところだった」


「足場の悪さに、物理攻撃の無効化、それに環境による魔法の制限。意地悪なギミックが多すぎるわよ、この湿地帯。開発者の性格の悪さが滲み出てるわ」


「確かに適正レベルがおかしいな。俺たち、西の大陸のダンジョンボスを余裕で狩れるレベルまで育っているはずなのに、ただのその辺を歩いているモンスターにここまで苦労させられるとは。東の大陸の奥地は、まだまだ未知の領域だ」


「それはそうと、見てよナオト! あいつが崩れた跡に、すっごく綺麗な青い魔石が落ちてるわ! それに、経験値が……かなり稼げた気がするわよ!?」


「……マジか。この短時間の戦闘でか!? それにこのドロップアイテム……鑑定してみたが、高純度の水属性魔力を持っている。市場に流せば金貨十枚は下らないレア素材だ。これはとんでもないお宝だぞ」


「ハイリスク・ハイリターンの極みね! どうする、ナオト? 敵が強すぎるから、引き返す?」


「馬鹿言え。こんな美味しい狩場、ゲーマーが見逃すわけないだろう。環境のギミックと敵のクセさえ理解してしまえば、あとは対策を組むだけだ。これだけ経験値が美味いなら、リスクを背負う価値は十分にある」


「ふふっ、そうこなくっちゃ! 苦労した分、報酬がデカいなら燃えるわよね! それに、この先にどんな美味しい食材が隠れてるかも楽しみだし!」


「食欲の方も忘れてなかったか」


「さあ、どんどん進みましょ! 極上の経験値と、とびっきり美味しい湿地帯のモンスターが私たちを待ってるわ!」


「やる気を出してくれたのはいいが、足元には十分気をつけろよ。よし、北の湿地帯の攻略、本格的にスタートだ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。