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ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
大陸東部・無法地帯・再来編

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第93話 ジークの素性と、託された願い

 放浪の剣士が、その真の姿を現そうとしていた。


「ジーク? なんだ、このプレッシャーは。さっきまでの村人Aのステータスはやっぱり偽装だったのか?」


「見つけたぞ、忌まわしき亡霊め。東の遺跡周辺を巡回していた我ら黒死の三騎士を呼び寄せるほどの強烈な腐臭。まさかこんな荒野の片隅に隠れ住んでいたとはな」


「呼び寄せただって? そうか、ジークさん、東に遺跡があるって話をした時、あんたわざと……」


「ああ。お前たちが来る前から、少しばかり気配を垂れ流して誘き寄せていたのさ。奴らは俺を狙ってきたんだ。お前たちは下がっていろ」


「一人じゃ危ないよ! 私も前衛に出る! ナオト、サポートお願い!」


「ミオ、加勢は少し待とう。相手のステータスが読めないんだ。強敵かもしれない。まずはジークの動きを見てみよう」


「狂人が。そのような赤錆に覆われたなまくらで、我らに刃向かうつもりか? 三方向から同時に切り刻んでやる! 散開だ!」


「奴らは三位一体のフォーメーションを取っている。厄介なヘイト管理が必要な場面だ」


「……いくぞ」


「消えた!? どこに行ったの!?」


「いや、速すぎるんだ! 俺の動体視力でも追えない! ……右だ! ジークが一瞬で距離を詰めたぞ!」


「ガァァァァァッ!?」


「うそ! 一刀両断!? あの分厚い鎧をバターみたいに切り捨てたわ! 錆びた剣で!」


「おのれ、ならば前後に展開して挟み撃ちだ! 俺が動きを止める、お前は最大火力の範囲魔法で焼き尽くせ!」


縛鎖の呪縛(シャドウ・バインド)! 捕らえたぞ!」


「マズい、ジークの足元に黒い影の鎖が! 移動を封じられた!」


暗黒の業火(ダーク・インフェルノ)! 灰になれぇぇぇ!」


「あれじゃ避けられないわ! 私が鎖を!」


「不要だ。ハッ!」


「えっ? 剣を投げた!?」


「なんて投擲スキルだ! 錆びた剣が範囲魔法の詠唱をしていた魔族の胸に深々と突き刺さった! 詠唱中断、いや、即死だ!」


「武器を手放したな、愚か者が! 足が止まったままでは俺の剣は避けられまい! 死ねぇぇッ!」


「ナオト、武器がないわ! 今度こそ危ない!」


「見切っている。その程度の太刀筋」


「すごい! 足は地面に拘束されたままなのに、上半身の動きだけで魔族の剣戟を見切って躱してる! 紙一重の神回避よ!」


「これで終わりだ。……聖なる力よ」


「手に黄金の光が!?」


「ガァァァァァッ!?」


「手刀が魔族の鎧を貫通した……。いや、装甲を無視して魔力構成そのものを破壊したのか。アンデッド特効どころの騒ぎじゃない、存在そのものを消去(デリート)するような一撃だ」


「……ふぅ。少しは運動になったな」


「ジークさん。今何したの?」


「ただ手刀を振っただけだ。昔取った杵柄というやつさ」


「嘘つけ。あんな出鱈目な威力、ただの剣士じゃないだろ。俺たちの鑑定スキルでも全く見抜けなかった。隠蔽スキルも規格外だ。あんた、まさか」


「俺はかつて、勇者と呼ばれていた男だ」


「勇者? って、魔王を倒すおとぎ話の主人公? それが本当なら、歴史上の人物じゃない?」


「メインシナリオの主役ってことか。でも、なんでそんな人が荒野でホームレスみたいな生活をしてるんだ? 王宮でふんぞり返っててもいいはずだろ?」


「昔の話だ。俺は聖法国ヴァルドリアで生まれ、女神の加護を受けし勇者として、民衆の期待を一身に背負い、仲間と共に魔王を倒す旅に出た。そして、実際に魔王を討ち果たしたんだ。世界に永遠の平和をもたらすためにな」


「えっ、魔王って倒されてるの? じゃあなんで世界は平和になってないのよ。まだ魔将とかがいっぱいいるじゃない」


「なるほど。前作のクリアデータってわけか。それで、なぜ世界はこんなことになっているんだ? 魔王を倒してエンディングを迎えたはずの世界が、どうしてディストピアに?」


「俺たちが倒したのは本物の魔王ではなかったからだ」


「偽物だったってこと?」


「ああ。魔王が倒され、この世に永遠の平和が訪れた。しかし、それは悪神が俺たちに演じさせた、壮大な茶番劇に過ぎなかった。民衆は平和を信じ込み、急速に文明を発展させていった。だが、その裏で魔族たちは、文明社会という檻の中で、人間そのものをエネルギー源として搾取する仕組みを作り上げていた」


「平和と便利さを餌にして、人間を自ら電池になるよう飼い慣らす。悪神の思惑通りに世界が塗り替えられていったわけだ」


「俺たちがもたらした平和によって、悪神の支配はオルビス全土に及んだ。事態を重く見た善神は、この絶望的な状況を覆すため、最後の手段に出た」


「最後の手段? それが、あの壁画にあった……」


「大いなる浄化だ。善神の意志を受けた女神が実行役となり、発展しすぎた文明と、悪神のシステムごと、世界を白紙に戻そうとした」


「神様自ら盤面をひっくり返すリセットボタンを押したのか。えげつないな。でも、それなら世界全部がこの荒野みたいになってるはずじゃないか? 大陸・中央や南北には、まだ高度な文明圏が残ってる」


「女神の浄化は世界全体には及ばなかったんだ。大陸の中央や南北は悪神や真の魔王、そして魔将たちの力が強大すぎて、女神の力をもってしても浄化を行使できなかった。結果として、浄化の光が届いたのは、この大陸の東と西の地域だけだった」


「だから、東と西だけがこんな混沌とした無法地帯になっているのね。じゃあ、私たちが西の大陸で見たあの塔は?」


「女神が大いなる浄化の後に建造したものだ。善神が望む本来の世界の在りようと、悪神が行っている非道な行為の真実を人間に伝えるためにな」


「なるほど、公式のチュートリアルタワーってわけか。でも、神様がわざわざそんなものを残したってことは、自力で悪神を倒せって丸投げしたのと同じじゃないか?」


「その通りだ。俺たちのような勇者や、真実を深く理解した賢者たちは、大いなる浄化の後、この混沌となった東と西の無法地帯を拠点として、悪神に対抗する戦いを続けてきた」


「戦いを続けてきたって……。でも、一般の人たちからすれば、文明化を邪魔してるようにしか見えないんじゃない?」


「その通りだ。悪神に騙され、平和で便利な文明社会を望む人類からすれば、俺たちのやっていることは発展を阻害し、街を破壊する犯罪行為でしかない」


「……」


「俺たちは悪神の拠点を潰し、魔族の野望を挫くたびに、守るべきはずの人類から石を投げられ、罵倒された。今や世界には魔王を倒した勇者の物語は忘れ去られ、大いなる浄化を行った女神こそが、人類の発展を拒む巨悪であるという考え方が広く浸透してしまっているんだ」


「そんな。酷すぎるよ。一生懸命世界を救おうとしてるのに悪者扱いされるなんて。仲間だった人たちは?」


「心が折れて去っていった者もいれば、民衆に捕らえられ処刑された者もいる。俺はたった一人でこの荒野をさまよいながら、狂人のように魔族を狩り続けてきた。……だが、孤独な戦いは俺の心を確実に蝕んだ」


「それで、あの村人Aみたいなステータスに偽装して、ホームレスみたいな生活をしてたのか。PKの汚名を着せられながら、システムに抗い続ける孤高のプレイヤー。あんた、相当なハードコアゲーマーだな」


「俺はもう、限界だったんだ。誰も真実を信じない。誰も俺を望まない。時代遅れの敗北者だ」


「そんなことないわよ! さっきの戦い、すごくかっこよかったわ! 私、あんな風に戦ってみたい!」


「……ミオ」


「そう。私たちから美味しいご飯とふかふかのベッドを奪う奴は、悪神だろうと魔王だろうと許さないわ。私たちは私たちのために戦うんだから。誰かのシステムになんて組み込まれてやらないし、ジークのことを犯罪者なんて絶対に呼ばないわよ!」


「ミオの言う通りだ。大多数のNPCが洗脳されていようが関係ない。俺たちはプレイヤーだ。クリア不可能なルルブの穴を突いて、卓ごとひっくり返してやるさ」


「ははっ。お前たちを見て、少し希望が湧いたんだ。お前たちは神の定めたルールにも、悪神のシステムにも縛られていない」


「俺たちはただ、自分たちが快適に生きるのに邪魔なものを排除してるだけさ。それに、理不尽なシナリオはハッキングしてでも書き換える主義なんで」


「その計算高さと図太さなら、いまの世界をぶっ壊せるかもしれないな。……未来ある若者よ……頼む。魔将を倒し、その先にある真実を暴いてくれ。俺にはできなかったことを、お前たちのような者に託したい」


「大役ですね。メインクエストの引き継ぎとは。まあ、報酬次第というところです。俺たちはタダ働きはしない主義でしてね」


「俺の持てる全てを譲ろう。俺の剣技、魔力運用の呼吸法、全てだ。きっと、お前たちの役に立つはずだ」


「本当? やったぁ! 勇者の特訓イベントね! これでまたレベルアップできるわ!」


「錬金術の奥義とかはないのか? 俺のMP消費を抑えるスキルが欲しいんだが」


「生憎だが、俺は剣しか振れん。だが、魔力消費を抑える勇者流の呼吸法なら教えられるぞ。錬金術の効率も上がるはずだ」


「悪くないな。乗るか、ミオ。ここでステータスの底上げをしておくのは必須だ」


「うん! レベルアップのチャンスだもん! それに、おじさんを一人で放っておけないしね。私たちがいなくなったら、また寂しい顔するんでしょ?」


「……おじさん、か。まあ、否定はできんな。だが、教えるからには妥協はせんぞ」


「よし、決まりだ。明日からビシバシ鍛えてもらおう。な、ミオ」


「望むところよ! 私の大剣で、おじさんをびっくりさせてあげるんだから!」


「それは楽しみだな。さて、夜も更けた。今日はもう休もう」


「そうだな。あ、ジークさん。夜食にプリン食べないか? 糖分補給は疲労回復に効果があるんだ」


「プリン? なんだそれは」


「ナオトの特製プリンよ。甘くて美味しいんだから。ほら、早く出してナオト」


「はいはい。冷えてるやつを出すから待ってろ」


「いただくとするか。……こんなに甘くて柔らかい食べ物は……何十年ぶりだろうか」


「でしょ? ナオトのご飯は世界一なんだから。明日からはもっと美味しいもの食べさせてあげるわよ。だから、しっかり特訓の指導よろしくね」


「お前が作るわけじゃないだろ。まあ、食材の調達さえしてくれれば、いくらでも作ってやる」


「俺の仲間たちも、昔は腹いっぱい食べて笑っていたな。……本当に美味い」

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